脱出
収監所から脱出するべくアウリスとハクレイ、パトミリアの三人は急ぎ足で出口へと進む。アウリスの怪我とパトミリアの体力により走ることは出来なかった。
隣接する牢の前を通りすぎる度に歓喜の声があがる。
「パトミリア様!」
みんな助けたいけど……
現状を知るアウリスは一刻も早く不当に投獄された者たちを出してあげたかったのだが、脱出する手段と用意、時間がそれを許さなかった。
パトミリアは足を止めて振り返った
「皆さん、私は脱出を試みます。必ず戻り、ここから出しますので諦めずに待っていて下さい」
その言葉に地下の空間は沸き上がった。しかし、異変に気付いた看守側は緊急事態の報を各所に飛ばし、続々と収監所に兵が送り込まれた。
「待って! 少しだけ!」
アウリスは急に出口に向かう通路から曲がった。先程声をかけられた場所で立ち止まる。
「この歓声、無事パトミリア様を連れ出せたようだな」
「ここから出ますか?」
「なに? 死に場所を与えてくれるのか?」
「違います! パトミリアさんとたくさんの人を守って欲しいんです」
アウリスは拾った鍵を次々に差し込んだ。パトミリアの牢の鍵は特別だったが他の牢ならば使える気がしていたのである。
ガチャ
鉄格子の扉が開くと続けて手足の枷の鍵穴に差し込んでいく。アウリスの後ろからは何事かとついてきたハクレイとパトミリアが追い付いた。
「ベイブリッジ! あなたも囚われていたのですか」
「はい、貴方様を守れなかったにも関わらず生き永らえてしまいました」
「何を言うのです。あなたにはまだまだ働いて頂きますよ」
「それは願ってもないことであります」
ベイブリッジはパトミリアと会うことはもはや叶わないものと思っていた。それがこのような形で実現して敵から守りながら脱出しなければならない状況。今こそ大恩ある主君に報いる時だと心を奮わせた。文字通り命を捨ててでも。
「アウリス、あまり時間はないぞ」
結局手持ちの鍵が合わなかったのだがアウリスは合わない鍵で枷を外そうと懸命になっていた。
ガキン
ハクレイは手足と枷を繋ぐ鎖を刀で切った。
「時間がない。これで許せ」
「かたじけない」
その間に集まり出した看守や警備兵、立ち塞がる敵は全てハクレイが排除し、ようやく外に脱出した。
これは誤報じゃねえな
緊急の報により建物の外で待機していた州兵の小隊長は中央北収監所の脱走者を殺害せよとの指令に耳を疑っていた。だが、目の前の光景は間違いなく事実であることを証明していた。四名の男女が収監所の柵の方へ移動している。
「四人だけか? もっと出てこい。脱走者の首には賞金がかかってるんだ。おい、行くぞ」
収監所の外周を囲む柵は大人がよじ登るにも容易ではない高さであった。
おまけに出入りする門は一ヶ所だけなので門周辺に隊列を組んだ州兵はまさに袋の鼠を狩るだけで賞金を貰える運の良い連中なのであった。対象が元州候ということもあり、反乱を恐れて賊くずればかりで編成されている。
まだ包囲されていないとは手際が悪くて助かる
ハクレイを先頭に柵に向かって進み続ける。その先には
「ライ、柵を切れ!」
先に見えるのは双剣を抜刀したライだった。
「やっと来たか! 任せろ! はあああ!」
時間がなかったのか費用を節約したのか木で出来た柵はいとも簡単に斬り崩れた。
四人は柵を通り抜けてライと合流する。
「アウリス! こっぴどくやられてんなー! その体じゃあ操縦は無理そうだな! 後ろに乗れよ!」
「分かった!」
再会を楽しむ時間はなく、アウリスは笑顔で応えると大きな猪に乗ったライに手を引っ張ってもらい騎乗した。ライが連れ出したのは大きな猪のズールという借り物の騎獣とロキが街で入手した馬二頭である。ハクレイが馬に騎乗してベイブリッジとパトミリアが同じ馬に騎乗した。
「よっしゃー! いけー! デケ!」
ライの号令でムトールへ向けて走り出した。