表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
kingdom fantasia  作者: 衛刀 乱
黎明を告げる咆哮
59/104

潜伏

窓から飛び下りたリンは素早く移動して、ハクレイとライの所に戻り、状況を説明した。


「マジかよ……」


看守への怒りとアウリスを案ずる気持ちがない交ぜになり、ライはいても立ってもいられなくなった。


「状況は分かった。ライとリンは急ぎロキに所に行ってくれ。ライは騎獣と馬をここへ移動して欲しい。私は先にアウリスに合流する。そしてパトミリアを救出してここへ連れて来よう。リンには頼みたい事がある」


ハクレイは二人に指示を出すと予め用意していた黒装束に手際よく着替えた。


「おっ、おい! いきなり着替えるなよ! ビックリするじゃねえか!」


「そうか、だが急いだ方がいいだろう」


あたふたするライに悪びれることなく、平然としていたハクレイは二人と視線を交わすと収監所へと走っていった。


収監所 地下階


「おらっ! 次はあいつらと一緒に荷物を奥へ運べ」


地上階から地下階へと連れられたアウリスは変わることなく体を酷使させられている。

この数日で与えられた食事は僅かで粗末な物だった。体は衰弱し、加えて絶え間なく痛めつけられて、思うように体が動かない。しかし、神経は研ぎ澄まされパトミリアの居場所を探していた。


看守に悟られないように注意深く。


他のボロの挙動を取り入れながら。


誰かが暴行を受けそうな時は自然と自分に矛先が向くように。


だが時に胸がざわめき、叫びたい衝動に駆られる時もあった。ボロ達の生気を失った目に力が入ったかと思えば、地面で蠢く虫を取り合いながら食べたり、衰弱して動かなくなった者もいた。自分が知らなかった世界にはこんな場所が存在のするのかと怒りに震える。


そしてチャンスが訪れる。一番奥には重要人物がいるという事を看守同士の会話で知り、奇しくもその近くで看守が落とした鍵を探して持ってこいという命令を受けた。出入口は看守室の中にしかなく、誰も逃げられないと分かっての事だった。

早速アウリスが足を引きずりながらその場所に辿り着くと、地面をくまなく探し始めた。そして、さほど苦労せずに落ちた鍵を見つけた。おそらく歩いている途中に落としたのであろう。丸い大きめのリングにたくさんの鍵が付いた物が通路の真ん中に落ちていたのだった。


よし、これで救出することが出来る


「ここで何をしている」


ようやく潜入した事が実を結ぶのだと思った矢先に、後ろから声をかけられた。別の看守が回ってきたのだと。手に鍵を持っていたがおそらく後ろからは見えていないはずだった。


「落とした鍵を探すように言われた……」


もし、手に持っていることがバレたら取りあげられるのは目に見えていた。心拍数が急激に上がっていく。


どうする? 振り向きざまに攻撃をしかけるか……

この体で相手を倒せるだろうか


「違う。ボロの真似をしてここで何をしていると聞いている」


まさか

バレたのか! どうして!

マズイ! 人を呼ばれたなら間違いなく殺される! 今のうちに一か八かやるしかない


意を決してアウリスは振り向く。しかしそこには誰もいなかった。


「こっちだ」


!?


顔を向けた先には、牢の中で両手と両足に枷を付けられた男が座っていた。


「何の目的でここにいるのだ?」


誰なのだろうか、目的を知って、もし叫んで看守を呼ばれたら終わりだ

ここは無視してパトミリアさんを探そう


「それだけ気を張っていれば感付かれるぞ。気を付けるんだな」


バラす気はないのか? どういうことだろう


「あなたは一体……」


「ふっ、お前も怪しいが私も牢に入っている以上、怪しまれて当然だな。私は元ヨリュカシアカ軍隊長だったレイブリッジだ」


隊長が何故? 元? ではパトミリアさんと同様に……


「私はアウリスです。パトミリアさんを助けに来ました」


「助けにだと? 正気か? ここからパトミリア様を連れて逃げ出せるとでも?」


「助けなければならないんです。たくさんの人の為にも」


「馬鹿な、助けなければならないのは同感だ。しかし……」


アウリスは奥へと続く通路を進み始めた。その背中を見送りながらレイブリッジは悩んだ。いや、悩むことなど不要だと気づく。

とても成功するとは思えない。だが自分でさえ弱っているのにパトミリア様はおそらく限界だろう。それにいつ処刑されてもおかしくない状況だ。救出するならば今が分水嶺だろう。どのみち死ぬのであるならばせめて大恩あるパトミリア様のために使いたい。

レイブリッジは自由にならない手足を忌々しく見つめた。


通路の一番奥の突き当たりにパトミリアの牢がある。地下のジメジメとした空気は様々な匂いが混ざり、酷い異臭が漂っているにも関わらず、パトミリアは姿勢を正し静かに座っていた。


「あの、パトミリアさんですか?」


アウリスは鉄格子の向こうにいる女性が直感的にパトミリアだと思った。


「はい」


やつれているものの穏やかなでありながら芯の強そうな顔立ち、発せられた声は優しかった。


「助けに来ました。僕と一緒に来て下さい」


「あなたは?」


「僕はアウリス、争いを止めに来ました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ