次なる一歩
マズイぞ! おやっさん達は死ぬ気だ
虎のような茶色の騎獣に乗った男が、州都ナリュカに続く平野を一騎で駆けていた。ロマリオ、デカレオと意思を共にする獣子師であるこの男レムは、蜂起する仲間達とヨリュカシアカ軍、なかんずく騎獣用兵部隊とを行き来していた。
数刻前
「今からナリュカにゆくぞ!」
大きなトカゲに乗った獣子師最年長のダダは蜂起の為に集まった獣子師連中に叫んだ。
ついにこの時が来てしまった。今すぐ止めなければ。まだデカレオは動けないはず
「おやっさん、もう少し仲間を集めた方がいいんじゃないか? この数じゃ死にに行くようなものだ。待てばまだまだ集まるさ」
「もう充分に待ったわい。これ以上は我慢の限界じゃ。バカ弟子を殴ってから州候に目に物見せてくれるわ」
「いや、もう少し待った方がいいって。状況も何か変わるかもしれないって」
「ええい、うるさい! もう決めたんじゃ。皆! 出発準備じゃ」
足止めも限界と悟ったレムは、ダダ達がどう動くかを知っておく必要があった。裏切りはしたが犠牲は出したくない。その為にデカレオと裏切ったのだから。
「おやっさん、分かったよ。もう一人だけあてがあるからそいつを誘ってから合流するよ。どこに向かうんだ?」
「ナリュカ西門側の平原手前のペルー樹林で夜を明かしてから夜明けと共に一気に攻めこむ」
「ペルー樹林だな、分かった」
行き先を確認するとレムは全速力でナリュカに向かった。
遠くに出かけるなんて初めてだなあ
母の無事を確認してから事情を話した。家や村の片付けをしないまま村を出るのは気が引けるが、危険なことを計画しているアウリスに会うには時間がないように思えた。それに、何かを手伝えるならば喜んで引き受けるつもりだ。今は騎獣ゲイムのゴゴに乗ってナリュカへと向かっていた。ロズン村の人からパトミリア様はどこにいるのか聞けば、ナリュカの牢獄らしいと教えてもらって一人で感動していた。
アウリスは凄いよ、みんなのためにパトミリア様を助け出そうとするなんて。僕もアウリスの為に手伝える事があればいいな
ナリュカまでの道は精霊のティナが教えてくれている。
「結構遠くまで来たよね? まだまだ遠い?」
[そうね、まだ一日はかかるかな。疲れた?]
「まだ大丈夫だよ! ゴゴは疲れたかも」
風の力を受けて軽くなったとはいえ、鎧を装着したまま騎乗していては疲労も大きいはず
[あら、ゴゴは疲れてないみたいよ! 村の外に出て楽しいみたい!]
ゴゴの顔を見て笑ったティナは、周りを自由に飛び回っている。ティナとゴゴは仲良しだ。言葉は交わせないまでもおおよその感情は分かるらしい。
答えるようにゴゴは頭を揺らした。今は兜だけ外してゴゴの角に掛けていたので兜がゆらゆら揺れている。
穏やかな風を受けながら優しい日差しにも歓迎されている気がして、ジンは心が躍るのだった。