慈悲もなく
「おい起きろ! 死んだか? ったく、アイツはまたやりやがったな。何人殺せば気が済むんだか」
収監所二階の通路で倒れていたアウリスは、通りかかった看守に頭を蹴られて気がついた。
「ううっ」
はっ! 男の子はどうなった!
近くで倒れている男の子を見つけたので起き上がって駆け寄ろうとしたが全身の痛みで体が言うことを聞かなかった。そのため床を這って近づき、うつ伏せになった男の子の肩を揺さぶった。
ああ…………なんて酷い事を……
揺さぶった反動で元の顔のが分からなくなった男の子の顔が見えたのだった。
アウリスは床に座って男の子を抱き抱える。いくら呼び掛けても肩を優しく叩いても、目を開ける気配がしなかった。
「目を開けて、ロキの所に連れていくから。お願いだから目を開けて……」
「おい! 早く立て。そいつはもう死んでる」
なんでこんなになるまで殴り続けたんだ……
なんで僕のために……
なんで僕が生きててこの子が死ななくてはならない……
ごめん……
もっと早くに気付けば……
ううっ……
アウリスは涙が止まらなかった。自分のせいで幼い命が消えてしまった。ここに来なければこの子は殺されなかったのかもしれない。そんな後悔の念と共にこみ上げる怒りが止まらなかった。
こんなの間違っている
なぜ平然とこんな酷い事が出来るんだ
許せない
このままでは悲劇が増え続けてしまう。
一刻も早くパトミリアさんを助けなければ……
アウリスは男の子を抱き抱えたまま静かに立ち上がった。驚くほどに男の子の体重は軽く、やりきれなかった。
「その死体の処理をして一階の監視部室に来い。そいつは地下階担当だったから人手が足りなくなった。お前が代わりだ」
看守はそう言って気が触れてしまったのか奥の牢で奇声をあげている男を殴りに歩いていった。
アウリスは涙を流したまま立ち尽くしていた。流れる涙が男の子の顔に落ちていった。
前方から別の看守が近づいてきた。
「アウリス様……」
アウリスのあまりの変わり果てた姿に、変装したリンは驚愕した。兵士に志願したはずなのに何故奴隷のような扱いを受けているのか。兵士として扱われてはいないと一瞬で分かる姿になっていた。
「一体何故そのような姿に……今すぐアウリス様を外にお連れします! 歩けますか? 私が道を斬り開きますのでついて来て下さい!」
「リン、待ってくれ。必ずパトミリアさんを助けなければならない。僕は今から地下に行くことになった。地上階にはパトミリアさんはいなかったから地下階にいるはずなんだ。今からすぐにでも助け出すからみんなに伝えて。
それと、お願いがあるんだ……この子は僕の為に……どこか静かな場所に……」
それ以上は言葉にならなかった。
「分かりました。ですがアウリス様も酷い怪我です。無理をなさらないように」
そう言うとリンはアウリスの腕から少年を自分の背に移すと、近くの窓を開けて飛び降りたのだった。