襲撃
第三徴収隊に同行している第八騎士団はロズン村まであと半刻という所まで迫っていた
「大変だ! また徴収隊が来ているぞ!」
偶然目撃したロズンの住人が急いで村へと戻り、息せき切らして各所へ声かけを行っていた。
「また来たか。話し合いになるか、争いとなるか。急ぎ皆を集めてくれ」
報告を受けたシュナの父ラッセルは対応に迫られた。
ロズン村の端にある丘で腰を下ろして精霊のティナと談笑していたジンも遠くから聞こえた凶報により、家に戻っていた。
「どうしよう。争いになるのかな…」
[大丈夫大丈夫! ここにいれば大丈夫だよ]
戦えないジンはティナに励まされながらも怯えていた。でももしここに兵が来たら母さんを守れるか不安で仕方がなかった。せめてアウリスみたいに強ければと、ふいにアウリスのことを思い出した。
せっかく友達になろうって言ってくれたのに悪いことをしたな。せめてもう一度会って一言謝り、あのときはありがとうと言いたい。パトミリア様を助けるなんて言っていたけど大丈夫なのかな
ジンにはパトミリア救出の事はよく分からないが、とても難しいことなのだということは理解していた。
「この前みたいに村の戦士達がなんとかしてくれるわよ。私達はここで大人しくしていましょ」
ジンの母も問題ないと言うようにジンに声をかけて、ジンの為にカップに注いだ香茶をテーブルに置いた。
騎士団だと!
目視圏内に入った部隊にラッセルは驚愕した。
騎士団を相手に勝てる訳がない。噂話などで評価しているのではなく、身をもって知っている。なぜならばラッセルこそが騎士団にいた時期があったからだ。当時のラッセルは村一番の使い手であったのにもかかわらず、隊の序列では下から数える方が早かった。
近づいてくる黄色で揃えた装備の隊はラッセルにとって脅威でしかなかったのだった。
断じて戦いは避けなければ……
まずは相手を刺激しないようラッセル単騎で騎士団の前に出た。どうにか矛を収めてもらい、要求の緩和交渉をする必要があった。
「王国騎士団とお見受けするがこんな辺境の村に何の用であろうか?」
「お前らが騎獣をださねえからだろうが」
さも退屈そうにワネゴバが答えながら酒瓶を口に付けた。交渉などに興味はなく、わざわざ足を運んだのだから交渉にさせるつもりはなかった。
「我々は全く出さないとは言っていない。生活への影響を制限出来る数を協議したいのだ」
「ああ、めんどくせえ。そんなものはどうでもいい。お前は早く戻って布陣を完成させろ! その上で俺がブッ潰してやるからよ」
「待て! こちらは騎士団相手に戦う気はない」
「うるせえよ! あまり待たせると歯止めが効かなくなるぜ? ガッハッハ」
まるで話が通じない
武力で上手く退ける事が出来るのか……
歯を食いしばりながら勝算が低い戦いになるのだと、ラッセルは難しい顔をして村に入っていった。
「ラッセル、心配するな! 武具の精練技術も戦士の錬度も上がってる。また返り討ちしてやる! 皆、やるぞ!」
おおおおおっ!
先の戦いで大勝利したエジル達はすっかりやる気になっている。そんなエジルの激にロズンの戦士達は士気高く、第八騎士団の前に布陣を開始する。頭数は圧倒的にロズン側が多く、全員が色それぞれの重装兵であるのは壮観であった。
「ほう、なかなかいるじゃねえか。面白え、お前ら! 暴れろ」
巨体の猛牛に騎乗したワネゴバを先頭に突撃すると、ロズンの戦士達が弾け飛んだ。
「うおおおおらっ!」
ワネゴバの棍棒が風を切る轟音を立てて、次々と戦士を地に沈めていく。
化物め
暴威を止めるつもりで、エジルがワネゴバの背後から首を狙う。しかしワネゴバは体を捻りながら腕を回転させて、棍棒でエジルのランスを突き落とすとそのままの勢いで振りかぶり、思い切り打ち下ろした。
ドゴッ!
「残念だったな!ガッハッハ! おい! あや! まれ! よわ! くて! すい! ませ! ん! っとな! ガハハハハ」
狂ってる
倒れたエジルに向かって何度も何度も打ち続けながら笑っていた。これが王国騎士団なのかとロズンの戦士達は自分達が徴収隊を退けたくらいでいい気になっていたことに初めて気が付いたのだった。その姿を見た者は怯えて戦意を削がれていく。それはワネゴバの所だけではなく、執拗に攻撃し続ける騎士団全員の所で起きていた。
「エジル! おのれ!」
動かなくなったエジルのもとにラッセルとシュナが駆けつけたがそれでもワネゴバはエジルへの攻撃を止めなかった。
「やめろ!」
叫びながらラッセルは突撃するがワネゴバが落ちていた槍を投げつけて足を止めさせた後に、ワネゴバが突進して棍棒を突きいれた。一見粗野で大雑把なイメージを持つワネゴバだが、戦闘センスは抜群に高い。それでなければ王国精鋭の騎士団団長は務まらないのだ。
グハッ
「イヤアアァァァ! お父さん!」
ラッセルはかなり後方に飛ばされ、シュナが急いで駆けつけた。
「お父さん! 嫌だ! 死なないで!」
「シュ ナ……逃げ……ろ……」
ラッセルは口から血を吹きながらシュナを突き離そうとするが最早手に力が入っていない。目の焦点も合っておらず、突き放そうとする手はシュナに触れられなかった。トドメを刺そうと迫ってきたワネゴバの前にシュナが立ち向かう。
「ケダモノめ! お父さんを殺させはしない!」
「ああ? 女か、俺は優しいから男女平等だ! 一緒に殺してやるぜ」
「やれるものならやってみろ! はああああっ!」
シュナが渾身の一撃を放つも、素手で槍を掴まれると嘲笑いながら地に棍棒で叩き伏せられた。
強すぎる……
起き上がろうと膝をついたが全身に痛みが走り、また倒れてしまった。この時点で逃げ出した者もいたがロズンの戦士は全滅した。
「なんだもう終わりかよ! クソが、楽しみにさせておいてこれはガッカリだぜ。お仕置きが必要だな。おい、村を焼き払え」
ワネゴバの指示で騎士団員と後方で待機していた徴収隊が村に入っていった。
ダメ 村のみんなが 誰か……お願い……助けて……
シュナは倒れたまま動けなかった。