事前調査
「はあ……」
「なんだアウリス、いつまでも気にしてたってしょうがないぞ。善意は必ずしも報われるとは限らないってな」
ようやくヨリュカシアカ州都のナリュカに到着したのだがアウリスはまだ溜め息ばかりついていた。ロズンの一件がまだ尾を引いているのである。
ヨリュカシアカ州都ナリュカ、第一印象は穏やかな明るさを感じた。白色や薄い黄色の塗料を使った建物が多く、通りには植樹もされており木や花も至るところに見受けられる。
アウリス達が今いる場所は街の中心で噴水のある広場だった。噴水の周りにも花壇があったが最近は手入れされていないのか枯れた花や雑草だらけになっている。
そして、次に印象的なのは行き交う人達で柄の悪い男達の割合が多いことだった。
「そうだ! 落ち込んでばかりじゃいられない。よし! パトミリアさんを助け出さないとね。獣子師の人達の為にも急がなきゃ」
ようやく気持ちを切り替えたアウリスは、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「どうするにせよまずはライ達と合流してからだな。俺は宿を探して来るから二人は情報を集めるか?」
「そうだね! 僕は街を一周してみるよ!」
「私は情報が集まりそうな所に行ってみよう」
「分かった。一刻後にまたここに集まろう」
アウリスとハクレイが行動を決めた所で三人はそれぞれに動き始めた。
それにしても……情報収集ってのは目立つと支障あるんじゃないのか? あれで自覚がないっていうのが少しズレている気がするのだが……
ハクレイとすれ違った男達が驚きながら振り返ったり、遠くから品のない言葉を耳打ちして指を指している男二人も見受けられる。そんな様子を見ながらロキは口元を引きつらせながら、とにかく目立っているハクレイの後ろ姿を見送った。
ダムタールと同じくらい活気に溢れてるかな
キョロキョロと視線を移しながらアウリスは、大きな通りを選んでナリュカの街の中を歩いていた。
お店もたくさんあるし人も多いや
現在は軍の方針で誰彼構わず軍に入れて数を増やしている事で以前よりもナリュカに人が集まっているのだった。その分トラブルも起きているようであちこちで怒号のような声も聞こえる。
うーん。まずはパトミリアさんがどこにいるのかが分からないと
ただ歩いているだけでは何も分からないのでとりあえず行き交う人達に話しかける事にした。
「あの、パトミリアさんはどこにいますか?」
突然話しかけられた男性はかなり驚いた様子だったが。
「知らん知らん!」
そう言うとそそくさと去っていく。
それもそうか、みんながみんな知っているわけじゃないよね
とにかく手当たり次第声をかけようと試みるも全く手応えを感じられなかった。
「話しかけないでくれ」
「さあな」
と全く取り合ってもらえないのだった。しかし共通しているのはパトミリアの名が出ると皆が驚き、態度が急変するのだった。それは知っていても関わらないようにするかのように。
「なにやってやがる!」
次は誰に声をかけようかと探していると近くで怒声があがった。
なんだろう
声がした方向に歩いていくと、そこには体格のいい男二人とその前で倒れているボロボロの服を着た少年の姿があった。
そこでさらに男の一人は倒れたままの少年を蹴り飛ばした。
「やめろ!!」
考えるよりも先に体が動き、アウリスは男達と少年の間に躍り出たのだった。
「なんだお前は」
「この子が何をしたかは知らないけどやり過ぎじゃないか!」
「ああ? こいつはボロだ。何をしたっていいだろうが」
ボロ? 名前?
「ふざけるな! もうやめろ!」
「一体お前は何なんだ? こいつに肩入れするなら容赦しねぇぞ」
男は手のひらと拳を突き合わせて距離をつめてきたのだった。
一方、情報収集をする為に街を歩くハクレイだが、アウリスとは対照的に狭い裏通りを選んで歩いていた。そこは昼間なのに建物に囲まれて薄暗く、あちらこちらにゴミも散乱していた。こんな時間にも関わらず酒に酔って寝ている者や、何かを受け渡し合っている者の姿も見受けられる。そんな通りを臆することなくハクレイは進んでいく。
「よお姉ちゃん、こんな所を一人で歩いてちゃ危ないぜ? 俺が送ってやるよ」
歩き始めて遠目からの視線は幾度となく感じていたが、積極的な男は躊躇なく話しかけてくる。この男もすでに三人目だ。
手頃か
ハクレイが視線を合わせると男は脈ありと思ったのか、やや興奮した表情になった。
「パトミリア殿はどこにいる?」
「はっ? なんだっ…」
ドゴッ
男の表情が一瞬で苦悶に満ちた。腹部には拳が深々と刺さっていた。
「もう一度聞く、パトミリア殿はどこにいる?」
「あっ うぅ 知らね え……」
するとハクレイは目の前の倒れた男には目もくれず、近くにいた別の男に近づいた。
「パトミリア殿はどこだ?」
「何言ってやがるんだ? それよりも俺と」
ドゴッ
先程の男と同じく悶絶させた。
「パトミリア殿はどこにいる?」
「はあ はあ、牢獄だ。中央収監所か新しく出来た山中の監獄施設だ」
体をくの字にして見上げたハクレイの目の色はどっちの牢獄なのか答えろと言わんばかりだった。それを理解した男の顔は真っ青になる。
「どっちかはわからねえ! 本当だ! ゲラ・オンジなら知って」
最後まで聞くまでもなくハクレイは男の胸ぐらを掴み上げた。
「案内しろ」
「や、やめとけ、あんた無事じゃ済まないぜ」
「早く行け」
二人は路地裏の奥へと消えていくのだった。




