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kingdom fantasia  作者: 衛刀 乱
黎明を告げる咆哮
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第八騎士団ワネゴバ

翌朝、各々がせっかくだからともう一度温泉に入って朝風呂を楽しんだあと、必要な物を買い足す為に五人揃って出掛けていた。


「おい! 道を空けろ! 第八騎士団様が通られる!」


ヨリュカシアカの警備隊が街のメインストリートの中央を空ける為に叫びながら歩き始めた。買い物客や運搬業者など少なくない人の流れが道の両脇に寄せられていく。そんな人混みの中にアウリス達もいる。


「第八騎士団って何だ?」


今から何か楽しいことでも始まるのかと、興味が湧いたようなライがアウリスに尋ねる。詳しくは分かっていないが以前にガロから聞いた話をアウリスは思い出した。


「ガロから聞いた話なんだけど騎士団はこの国の精鋭が集まった軍隊らしいよ」


そう答えたアウリスだったが昔レトで見た青い鎧で揃えた第七騎士団の横暴な記憶が頭をよぎる。精鋭なのだとしてもあの振る舞いは許せない。知らず内に拳を握りしめていたが遠目に姿が見え始めた第八騎士団の隊列が現れるとライも身を乗り出して覗き込んだ。第八騎士団は全員が黄色の鎧で揃っていた。


ラズベルとローレンスを知るアウリスは同じ騎士団でもそれぞれが違うのだと知ることとなった。果たしてこの騎士団は良い軍隊なのか悪い軍隊なのからアウリスにはまだ判断がつかない。


「へぇ、雰囲気あるな。精鋭ってんなら強いんだろうな」


ライは丁度前の通りを進む第八騎士団の隊列を品定めするように見ていた。団員達は辺りを見下すように見ている。強者の雰囲気は多少感じるが本当にそれに見合った実力があるのかどうかを確かめてみたくてウズウズしている様子がライの挑発的な目から分かった。


メインストリートといえどそれほど幅がない道を、突然無理矢理に両脇へ分けているので次第に人の流れが詰まり始めるととうとう押し合いになっていた。


ドンッ


突然人だかりを無理して通り過ぎた男の肩でハクレイの背中が押されてしまい、前に立つアウリスの背中にしがみついた形になった。


「大丈夫?」


振り向いたアウリスですら驚くほど、アウリスとハクレイの顔の距離が近接していた。


「あ ああ、大丈夫だ。すまない」


「気にしないで、人が詰まって来たよね」


そう言ってアウリスは何事もなかったように騎士団の方向に向きを返した。


なっ 何だか胸の鼓動が……


ハクレイは顔が紅くなっているのも気が付かずに自分の体の異変に動揺していた。たかが顔と顔が近くなるなど戦いの最中ではよくあること、なのに何故こうも激しく胸が高鳴るのか。いまだかつてない我が身の状態にハクレイはただただ戸惑っている。その斜め後ろにいるリンがうっとりと声を漏らす。


「ああ……姉様がフォーリンラブですわ」


場違いなリンの言葉にアウリスの横にいたロキが違和感を感じて振り返える。


「何言ってんだ? ってお前何をときめいていやがる!」


ハクレイがアウリスにときめいているのは見て分かったがその横でハクレイを見つめるリンがキュンキュンしているのを見たロキは顔をひきつらせる。


「ロキ様! 私は姉様にフォーリンラブなのです! 姉様が乙女の顔に! ああ! かわいすぎます! 最高です!」


おいおい……お前はこの中ではまだまともだと思っていたんだが……


ロキはキラキラしているリンを見て盛大に溜め息をついたのだった。丁度その時、アウリス達の前に第八騎士団団長のワネゴバが通った。その大きな体は巨漢と呼ぶ方が相応しい。騎士団員は皆、馬に騎乗しているがワネゴバだけは獰猛そうな真っ黒な長毛の巨牛に乗っている。防具といえば軽装とも言えるほど肌の露出度が高く、上半身はほぼ裸に胸当てをしている具合である。スキンヘッドに墨を入れており、その鋭い目付きは目を合わせた者を怯えさせた。


あいつがこの中で一番強いな


多分あの男が長だ


ライが思ったようにアウリスも直感で感じ取る。周囲に放出する威圧感が凄まじい。偶然にもワネゴバがアウリスと目が合った。


あっ? ガキが生意気な目を向けてやがるぜ


ワネゴバはアウリスを横目で見ながら進んでいく。特にどうということはなく、また前を見て面白くなさそうにあくびをしていたのだった。


第八騎士団が通り過ぎると通りは元通りになり、人の往来が始まる。


「どう思った?」


ふいに拳を手のひらに打ち付けてライがアウリスにたずねた。


「どうって? 強そうだと思ったよ」


「だよな! やりあってみてえなー!」


「おい、さっさと買い物を済ませるぞ」


アウリスとライの会話に少しも興味が湧かないロキが急かすように割って入る。そして、五人は賑わっている通りをまた

歩き出した。その間にも通行人が振り返ってはハクレイに見とれている。ハクレイが静かに歩く。ただそれだけでとにかく目立っていたのだった。


帽子でも被らせるか


丁度その時、帽子屋の露店を見つけたのでロキはハクレイとリンを連れて並べられた帽子を手に取った。アウリスとライにはどの帽子が似合うだとかの会話についていけず、近くの露店ではなく建物の一階を店にしている武器屋を見つけて引き寄せられるように入っていった。


「おお! すげー!」


店内を見て目を輝かせたライは、食い入るように商品を見ては興奮して声をあげている。アウリスも同様に所狭しと店内に並べられた数々の武器を見て興奮している。


「アウリス! これ見てみろよ!」


ライが指差した物は、刃が幾つも連なって出来た鞭のような剣だった。


「へえ、どうやって使うんだろ?」


手に持ってみようかとアウリスが手を伸ばしたその時、


「買う気がないなら触らないでおくれ」


突然放たれた甲高い声に思わず手を引っ込める。その出所は店の奥の椅子に腰掛けた店主らしき悪そうな目付きをした小さなおばあちゃんからであった。苦笑いしながら会釈するもののおばあちゃんは目を合わせながらも表情すら変えずに仏頂面だった。


「うおおおお! アウリス! ちょっと待っててくれ! ロキを呼んでくる!」


「えっ!? うん、分かった!」


弾かれたように突然店を飛び出したライが一体何を見ていたのか。アウリスは先程までライがいた場所へ行くとそこには一本の剣がガラスケースの中に飾られていた。


伝説の剣 200000ジル


凄い! 伝説の剣なんだ!


あまりにもの衝撃にアウリスの胸も躍るのだった。


「ロキ! 来てくれ!」


「なんだよ! 後にしろ! 今はハクレイの帽子を選んでるだろ!」


「いいから早く来てくれ! 売り切れてしまう!」


「はあ? おっ おい!」


一瞬たりとも待てないとばかりにライがロキの腕を引っ張っていくその後ろから、帽子を棚に戻したハクレイとリンが何事かと後に続く。


「とうとう見つけたんだ! ほら! 伝説の剣! これ買ってくれ!」


絶賛大興奮中のライに言われたロキが見た剣は、


伝説の剣 200000ジル


と値札に書かれてあった。


「…………はぁ……お前がここまでバカだったとは……あのなライ、伝説になるような剣がこんな所に普通に置いてある訳ないだろうが! あっちを見てみろよ! 伝説の弓って書いてあるだろ? 一つの場所に何個も伝説の武器があること自体有り得ないだろうが! 少しは考えろ伝説バカ!」


「うげっ! そっ そこまで言わなくてもいいじゃねえか……」


半べそをかいているライが周りを見渡すと、向こうには伝説の槍と書いていた。


うぅっ 確かにロキのいう通りだぜ……


その様子を見たハクレイとリンが顔を見合わせて笑っていた。


ごめん!


自分も完全に信じていたアウリスはロキの言葉が胸に刺さったがその事は言わないでいた。それからハクレイの笑顔を見て嬉しくなると、ふと目が合ってしまい笑顔で応えるとハクレイはふと目をそらして照れてしまっていた。


「なんだいガキ共! ウチの商品にケチをつけるとはいい度胸だ!冷やかしならさっさと出ていけ!」


店のおばあちゃんが突然一本の剣を抜くなり、一番近くにいたライを斬りつける。


ドンッ


他の剣に見とれていた為にライは、おばあちゃんの凶行に気が付かなかった。


「いてっ! なんだよ! ぎゃあ! ばあちゃん! 当たってるぞ! 血がああ! ん? 出てない!」


「ふん! これは刃引きしてある鑑賞用の剣じゃ! 早く出ていけ!」


アウリス達は剣を振り回すおばあちゃんに店を追い出されたのだった。

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