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終わらない物語  作者: 衛刀 乱
闇の光
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正統継承者

捕らわれたアウリスを前にライは悔しさと焦りに歯を食いしばりながらもゆっくり武器を下ろすが、ハクレイはクロウを見据えたまま動かない。人質を殺すことを躊躇うような男ではない事を理解しているため、武器は下げずに隙を伺っている。その様子を楽しむようにクロウは口角を上げた。


「おい、二刀流の小僧。お前がその女の首を斬ればこいつを解放してやるぞ。それどころか無事にここから帰してやる。用があるのはその女だけだからな。どうだ? いくら貰ったのか身体を買ったのかは知らんが報酬をやってもいいぞ」


反吐が出るほどの言葉とニタニタと下卑たその表情にライは顔をしかめる。そして隣のハクレイに問う。


「おい、アウリスを助けたらあとの奴ら一人でいけるか?」


ライの提案は突拍子のないものに思えた。アウリスさえ解放されれば命が尽きようとも皆殺しに出来る。しかし、それがどれだけ難しいかも分かっている。相手はクロウ。一族の頭首としての実力は、憎らしくも高いが諦めるつもりは毛頭ない。それでも助け出す手立てもないのも事実。どうするのかは不明だが静かに答える。


「無論だ」


「よし!」


返事と同時にライの瞳に紋章が浮かび上がる。セムネア戦の中で起こした現象なのだが、あれからどうやっても再現出来なかった。理屈では分からないが、ライは今なら出来ると確信していた。


「うおおおおおおおおおっ!」


ライの体から放電されたように電撃が走り、辺りは閃光で明るく照らされる。


バチバチバチバチッ


「うおああああああ!!!」


雄叫びと同時に雷が四方に放たれ、周囲に走った電撃が収束すると、ジリジリと小さな雷を纏うライの姿がそこにあった。


まさか! 雷帝降臨なのか!?


目の前の光景にハクレイの目が見開く。そして、楼の者達も明らかに動揺している。


「なっ!なんだあれは!」


クロウが驚きの言葉を放った瞬間にクロウの刀が腕ごと何かに弾かれ、全身に痛みが走った。


なんだと!!


ほぼ残像でしか確認出来なかったがクロウはライの姿を見たのだった。元々の互いの距離は瞬時に埋まるものではなく、まして楼の戦士が間にいるにも関わらずここまで到達してきた。


いつの間に!


バチバチッ


何かを考える間もなくクロウは背中を斬りつけられると、さらに体中に雷の衝撃が走った。


「グハッ!」


クロウが地面に膝を着いたときにはアウリスを抱えたライがすでにハクレイの立ち位置よりも後方に移動していた。


「やっぱこれ…キツイな…」


「ライ!」


その場で意識を失い、倒れ込んだライを支えたアウリスの叫びにハクレイは我に返った。そしてすぐに駆け出す。怒りや悲しみを含んだ全ての感情を爆発させて疾走した。


「楼の者共! この身が朽ち果てようともお前たち全てをここで討つ」


 勢いをつけたままクロウの首を落としにかかるが体勢を整えたクロウの迎撃で防がれる。だがここで決めるとばかりにハクレイは猛攻を仕掛ける。クロウが後方に跳ぶと、部下達がハクレイに殺到するが、瞬時に斬り伏せてクロウを追撃する。それでも決めきれない。次第にハクレイの出血が意識を奪いかねない程に達すると、クロウの刃に弾き飛ばされた。


「手負いでここまでやれるとはな。この俺が褒めてやるからもう死んどけ」


 肩で息をするほど消耗したハクレイは、四方から迫る敵を斬り伏せると意識が飛び、倒れ込んでしまう。


「ハクレイ!」


 倒れたハクレイを見たアウリスは、襲いかかる者達からライを庇うように応戦しながら叫んだ。すぐに意識が戻り、ゆっくりと立ち上がるハクレイは、左手を口元に近づける。そして、ハクレイは印を結び、静かに息を吐く。この印はかつて発動させた時に、父リハクから身を滅ぼすと固く禁じられた術だった。


ビュンッ


一筋の光がハクレイから真上に上がり、空に刺さった瞬間、無数の光の矢の雨が降り注いだ。そして無慈悲に敵の命を刈り取っていく。


「馬鹿な!」


瞬く間に都市を制圧出来る程の戦力の大半が光に撃ち抜かれて絶命していた。クロウは目の前の状況を受け入れられずに呆然と立ち尽くしている。


 だが、ハクレイの口から血が吹き出ると、全身に走る激痛に片膝をつく。朦朧とする意識の中、更にハクレイが違う印を結ぶ、手から大量の光の矢がまだ生存する敵を次々に貫き、残るはクロウだけとなった。


凄い……


アウリスは目の前の出来事に瞬きすら忘れていた。


「あっ……有り得ん……化物め!」


その者暗闇を身に纏いて星の矢降らしあまねく全てを撃ち滅せん……お前が お前がそうだというのか!


クロウは認めたくない現実を突き付けられた。彩の正統後継者、それが目の前のハクレイであるという確証などない。だが、何故か伝承を連想させるハクレイの姿にどす黒い感情がクロウの心を埋め尽くす。右耳と左腕、右足首を吹き飛ばされて喪失した痛みよりも、その存在を拒絶する気持ちが上回る。


「お前が……お前みたいなものがいるから俺達は……そうだ……まだ…お前さえいなくなれば……フェッフェッ……」


瞳孔が開き気の触れたクロウが、刀を杖がわりに片足を引き摺ってジリジリと迫りくる。ハクレイは更に血を吐き、眼からも血が流れている。更には応急処置をしたはずの傷は開き、身体の下には血だまりが広がっていた。血を流し過ぎており、瞳に光はなくピクリとも動かない。


正統後継者。蓮の前身である彩という国で伝承された物語に出てくるその術は、伝承されてはいるが誰も習得した者も見た者もなく、リハクから伝承の為にと教わった印、それをハクレイが結んだときに異常事態が発生した。光の矢が暴走し、ただの一度の発動で周囲を破壊し尽くしてハクレイ自身も血を吐き三日間昏睡状態になった時にリハクから二度と使ってはならないと言われていたのだった。


「終わ……して  ……」


ハクレイが最後の気力を振り絞ってゆっくりとどうにか立ち上がるとよろけながらクロウに近付いていく。クロウもまた刀を引き摺りながらハクレイへと距離を詰める。両者の間合いに入った時、クロウが大きく刀を振り上げる。


ザンッ


クロウの刀が振り下ろされる前にハクレイの刃がクロウの首から腹部にかけて一閃した。クロウの狂相がさらに歪んでいく。対するハクレイの顔は真っ青であった。ゆっくりと地面に崩れ落ちたクロウは、口元をガクガク震わせている。


「クロウ……お前を殺しても皆が生き返る訳ではないがせめてお前の首を届けよう……地獄へ落ちろ」


ザンッ


はっ!?


ハクレイがクロウの首を飛ばしたその瞬間に、アウリスが走り出す。


「ハクレイ!」


間に合うか?! ハクレイはおそらくもう……


アウリスは短いが果てしなく遠い距離に思えるハクレイとの距離を全力で駆けた。ハクレイはその場で地に両膝を着き、目を閉じてゆっくりと刀身を両手で握りしめて切っ先を喉元に向けた。


父上……母上……ギョクレイ……皆……今から私もそちらに……


ハクレイの手に力がこもり、刀の切っ先が首に触れる瞬間。


ガシッ


首に突き刺さるはずの切っ先が動かなかった。その切っ先はアウリスの手によってしっかり握られて血が滴り落ちている。


「ハクレイ! 死んじゃダメだ!」


「少年 放してくれ 私には生きる資格がない」


「そんな事はない! 絶対に死んではいけない!」


「頼む 死なせてくれ 私だけが生きてどうするというのだ 皆死んでしまった 父上も 母上も 仲間たちもギョクレイも みんなだ!」


「でも! ハクレイが死んじゃダメだ! 死んだ皆はハクレイが死ぬことなんてきっと望んでいない!」


「お前に何が分かる! 放せ!」


「放さない! 僕には分からないかも知れない。だけど! 大切な人を失う悲しみは知っている! だから僕は… ハクレイには死んでほしくない……」


アウリスは次第に自分で何を言っているのか分からなくなり、次の言葉に詰まると今にも泣きそうな顔になっていた。


「少年……」


……


命を救われた。お陰で仇も討てた。しかし、自分一人生きながらえてどうするというのか。最早生きる理由がない。


少年の気持ちを踏みにじる事になるがそれでも……


「すまないが私にはもう生きようとは思えない。もう……」


「姉様!」


その時、遠くから黒装束を着た者が駆けてくる。


「まさか リンなのか!」


リンとはギョクレイと同じ年で、二人はよく遊んでいた。そんなリンをハクレイは実の妹のように可愛がり、ハクレイをリンは実の姉のように思っていた。


リンがハクレイの前でひざまずいた。


「姉様……よくぞ……よくぞご無事で……」


リンのその後はもはや言葉にならなかった。ハクレイはようやく刀を手放すとリンを強く抱き締めた。


「リン、 よく生きていてくれた……私は………すまない……すまない………」


二人は抱き締め合いながら涙を流していた。


もう安心かな


アウリスはライに駆け寄った。ライは気を失ったままだった。


ライ、本当にありがとう


アウリスはライを背負ってハクレイの所に近づいた。


「ハクレイ、僕達にはまだまだ出来る事がきっとあると思う。だから……生きて欲しい!」


アウリスは笑顔で右手をハクレイに差し出した。


「私は……これから何を……」


出会って初めて、弱々しくも微笑んだハクレイがゆっくりとアウリスの手を掴んだのだった。

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