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終わらない物語  作者: 衛刀 乱
闇の光
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私闘ゆえに

建物の上から見下ろすドウシンと対峙していたハクレイはゆっくりと刀を抜き刃先をドウシンへと向ける。死んだはずが助けられて機会を得た。だがそのことに何の感情も沸き起こらない。嬉しくも悲しくもない、ただ全てを奪った敵を全員殺すことだけを考えている。


「あれからよく助かったものですね。本当にしぶとい。クロウ殿に死亡を確認してこいと言われて行ってみれば、姿が消えていたのでまさかどこかに逃げたのではと肝を冷やしましたよ。そちらから来てくれて手間が省けたというものです。さあ、貴方の首を貰い受ける。早く宴に戻って酒を煽りたいのでね。おい!」


ドウシンの号令により楼の者が辺りからぞろぞろと現れた。分かっていたことではあるが敵の数が多すぎる。


「瀕死の怪我を負っているのは変わりないが油断は禁物です! さあ全員でかかれ!」


それぞれが動き出した時、遠くから名を呼ぶ声が聞こえてきた。


「ハクレイ!」


街の中のほとんどの場所を探し尽くしたアウリスは、半ば諦めかけてた所で遠くにハクレイの姿をようやく見つけて駆けつけたのだった。


少年!


驚いたのも束の間、アウリスへと顔を向けたハクレイだが瞬時に斬りつけてくる敵と斬り結ぶ。攻撃対象と認識されたアウリスが瞬く間に囲まれてしまうが、もとより加勢するつもりだったので、慌てることなく剣を抜き放つ。


「こんな人数で囲んでハクレイをどうするつもりだ」


問答無用とばかりに迫る敵の刃を剣で受け、斬り伏せる。それを見たドウシンが眉をひそめる。


「どういうつもりだ少年。早くここから離れろ」


「何を言ってるんだ! 何があったかは知らないけどこのままじゃ殺されるじゃないか」


「何者かは知りませんが、もう生きては帰れませんよ」


もはや感情を失ったかのように思えたが予想外の事にハクレイの瞳に力を灯る。全てを失っては誰かを気にする事などもうない。その筈だが、見ず知らずの自分を助けてくれた人間を巻き込みたくはないとも思えた。ドウシンを討つ機会を貰えただけで感謝してもしきれない。その恩を返せないばかりか迷惑をかけてしまうことになるのは避けたかった。


「少年!早く逃げろ!私が時間を稼ぐ」


「ダメだ!僕も戦う!」


殺される事は構わないと思うハクレイだが、アウリスはそうさせまいと必死になる。今ならまだアウリス一人くらい逃がす事は出来ると思ったが、楼の精鋭部隊はそれほど甘くはなかった。それもそのはず、そうでなければ蓮の仲間達が殺される事などなかったのだから。ましてハクレイ自身は既に満身創痍である。楼の連携した息をもつかせぬ攻撃にジリジリと包囲は狭まり、突破するにも困難極まる。予想外だったのはアウリスが楼の精鋭相手に十分戦えている事だった。


少年、君は一体…

    それでも敵の数が多過ぎる。いくら今戦えているとしてもいずれ圧される。加勢する隙を見出せず歯を食いしばったその時、遠くから走ってくる人影をアウリスとハクレイの視界が捉えた。


「ライ!」


アウリスはライだと分かると歓喜した。自分一人では厳しくてもライがいればもう大丈夫だと確信する。


「うおおらあぁ!」


状況を瞬時に理解したライが走りながら双剣を抜刀すると、そのままの勢いで前を阻む敵四人を斬り飛ばした。その光景に誰もが驚愕する。ライはそのまま走り抜けてアウリスの前で急停止すると、何やら気まずそうにボソボソと喋り出す。


「アウリス、あのな、これはその、外に出たら暇すぎて遭遇したらたまたま……えっと、なんだっけ?」


せっかくロキから教えてもらった言い訳が台無しであったが、気持ちが充分伝わり、それに対してアウリスが笑顔になる。


「ありがとう!」


「よ よっしゃー!んじゃ暴れるとするか!」


パッと顔を輝かせたライは一気に闘志をみなぎらせる。それは目に見えるのではないかと思わせる威圧感を撒き散らせた。ラスティアテナの闘気法はアウリスにさえ緊張を走らせる。次の瞬間、凄まじい踏み込みで距離を詰めると手近な敵から爆発的に斬り飛ばしていった。


「なんなのだ! こいつらは誰だ!」


予想だにしていなかった展開にドウシンが混乱する。楼の精鋭が次々に倒されていくなど何の冗談だと、瀕死のハクレイの首を持ち帰るただそれだけのはずが、得体の知れない二人に楼の部隊が崩されていく。明らかに劣勢になりつつある状況に焦燥感が高まっていく。


「このまま手ぶらで逃げ戻れるか!」


建物から飛び下りたドウシンがハクレイと対峙する。目を細めたハクレイは、ドウシンと対峙したまま横目で暴威を奮うライを見た。


この少年、使い手だな


双剣を自在に操りながら敵を倒していくライと、思った以上に善戦するアウリス、思わぬ援軍にハクレイは勝機を見出だす。


「ドウシン 覚悟はいいな」


目の前に来たドウシンに向かってハクレイが静かに告げる。


「ふん、知っての通りに私は蓮の頭領候補ですよ。手負いの貴方に負ける道理はない!」


言い終えるやドウシンが大きく踏み込む。右手に順手、左手に逆手の両手に短刀を持つ変わった構えだがこれで数多の敵を葬ってきたドウシンは、必殺の連撃を繰り出す。


キンッ


刀で受けたハクレイにドウシンのもう片方の短刀が反対側から横に迫るが、受けた短刀を押し返し瞬時に返す刀でドウシンの二撃目を跳ね退けると三撃目に迫る振り上げも防がれる。


わずかにドウシンの顔が引きつった。刃渡りの長さが短い分、太刀より短刀の方が振り回す速度が速くなるのは当然であった。今はドウシンの短刀の間合いで、しかも短刀の二刀流であるにも関わらず、それを防ぎきるハクレイの刀を振る速度というのは異常であった。


クッ 手負いでさえ届かぬとは


次はハクレイが跳ね退けた後の刀をドウシンの肩に振り下ろし、それを短刀で受けられた時には既に下から切り上げていた。かろうじてドウシンがそれを短刀で防ぐと、次にはもう顔面に刃が迫っている。


ザンッ


ドウシンは頬と鼻筋を横一文字に斬られて後ろによろめいた。


速すぎる


実力に差がありすぎて剣筋が目で追えていないドウシンでは勝てる可能性は皆無である。顔から血を流しながら一旦間合いをとろうと下がる間にもハクレイから必殺の剣撃が繰り出される。


ガガガザンッザシュッ


ドウシンが死にものぐるいで両手の短刀を振り回したが四撃目と五撃目でドウシンの体が十文字に斬られて倒れた。


「クロウはどこだ?」


ハクレイは倒れたまま目を見開いているドウシンに問う。致命傷を負って呼吸は荒く、まばたきもせずに空の一点を見ている。


「フフっ 殺されに行くのか? 奴はハーマストの舟宿にいる……あと少しで俺は……何故お前のような……」


「お前の裏切りは決して許されん。向こうで父上と皆に詫びろ」


歪んだ表情のドウシンが喋り終わらない内に、ハクレイが首を斬り飛ばした。アウリスとライも周りの敵を倒した所であった。


「何人か逃がしちまったぜ! で? 次はどうする?」


慣れた手つきで剣を収めたライがアウリスに尋ねるが、アウリスが答える前にハクレイが言葉を返す。


「加勢してくれて感謝する。お陰で仇の一人を討つことが出来た。あとは一人で行くから帰ってくれ。これは私闘なのだ」


ハクレイはまだ気を張った表情でアウリス達に告げると身を翻して歩き始める。一陣の風がハクレイの長い髪を揺らめかせた。


「ハクレイ、邪魔はしない。だから一緒に行かせて欲しい」


「ダメだ」


アウリスの申し出をハクレイは振り返らずにべもなく断る。そしてふと思う、何の利もないはずなのにどうしてついてこようとするのか。一体何の狙いがあるのかと。


「何故そのように私に関わるのだ?」


「それは……放っておけないんだ。それに僕がそうしたいんだ。何故かと聞かれれば上手く答えられないけど、一緒に行かせてほしい」


自分でも何故放っておけないのか分からなかったが、ふと幼い頃に母を兵隊に殺された当時の自分とハクレイが重なって見えたように思えた。喪失感で色褪せた瞳が心を揺さぶり、何か力になりたいのだという気持ちに気付いた。真剣に答えるアウリスの真っ直ぐな視線を受け止めて、ハクレイは数秒考えた後、小さく息を吐く。


「はあ……どうせ断っても付いてくるのだろう? だが私には返せるものは何もない。ただの徒労に終わるだろうから気が済んだら離れてくれ。そして命の危険を感じたら私の状況がどうでであれ見捨てて逃げて欲しい。」


そう言ったハクレイは寂しい目をしていながらもとても優しい顔をしていた。


「よっしゃー! 決まりだな! んじゃ行こうぜ!」


二人のやり取りで次の行動は決まったとライが元気良く歩き始めて声をあげた。そして三人はクロウの所へと向かうのだった。

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