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終わらない物語  作者: 衛刀 乱
闇の光
32/108

慟哭

「とうとう一人きりになってしまったな。もう少し楽しませてくれるものだと思ったが、案外蓮の者は不甲斐なかったようだ。ハッハッハ」


街道に沿って流れる川を挟んで、ハクレイと楼の者達が対峙する。先頭のクロウがこの場にいる全員に聞こえるよう大きな声で嘲ると、勝ち誇った顔で悠然と立っている。そして、音も立てずに大きな輪で囲むように二人を多数の黒装束を纏った者が配置を完了する。やがて闇に染まった夜にこの場にいる全ての者を拒絶するかのように強い雨が降り始めた。


「ギョクレイはどこだ!」


「フフフ、そう焦るな」


「答えろ!」


ハクレイは無駄な会話をするつもりなど無かった。すぐにでもギョクレイを助け出して仲間の元に戻る。時間の余裕など皆無だった。


「ふん、退屈な女だ。おい!」


!?


ギョクレイ! ドウシン!?


クロウに呼ばれて出てきたのは、ロープで縛られたギョクレイとそれを引くドウシンだった。その事にハクレイは困惑する。しかし、即時に飛び出そうと気を漲らせた。視線の先には悲壮な表情のギョクレイが、口元にロープを咬まされていながらもハクレイへと必死に何か呻いている。すると、ドウシンによってギョクレイの口元のロープが乱暴に外される。


「姉様!」


「ギョクレイ! ドウシン何をしている! 早くギョクレイを連れてこい!」


今まで姿が見えなかったドウシンだったが、単身で救出に出たのだと思っていた。今も敵に囲まれながらもギョクレイを救い出してくれた。訪れた好機、それは奇跡とも感じずにはいられない。日頃から自分の事を良く思っていないことやそれを隠すことも無く周りに中傷の言葉を吐いていた事も知っていた。ただ、仕事はこなし、一族の誇りは人一倍大きい言動が目立つドウシンゆえに、ハクレイは咎めることをせず、自由にさせていたのだった。そんなドウシンがクロウに名を呼ばれて、ギョクレイを引き摺りクロウの横に立って……


「ハハハハハッ!お前は馬鹿な女だ! ここまで上手く事が運んだのは何故だと思う? 分からないか? この私が楼の手引きをしたからだ!」


「なっ! 何を…… そんな… そう か…… そういう 事 だったのか……」


ハクレイはドウシンの言葉に愕然とした。


「おい、何をしている。馬を降りて武器を捨てろ。お前の妹がどうなってもいいのか?」


呆然としているハクレイに向かってクロウは嘲笑いながら脅す。視線を向けたギョクレイの首元には鈍く光る短刀がドウシンにより突き付けられている。


おのれ……


「早くしろ!」


再びクロウが怒鳴った時には刀を抜いていたハクレイは、馬の背を蹴り瞬時に距離を詰めるも途中でクロウにより刃を合わせられて阻まれる。その瞬間、ドウシンが手に力を込めることによりギョクレイの首に刃が食い込んだ。


「うぅっ」


ギョクレイの声と共に首から一筋の血が流れていく。


「待て!」


それを見たハクレイが叫ぶと、ゆっくり武器を下ろして前に放り投げた。地面に転がった刀は寂しく雨に打たれる。


その姿に堪らず顔を綻ばせたクロウは、悔しさと憎悪の目を向けているハクレイに近づく。


ドスッ


「あああぁぁっ!」


クロウの刀がハクレイの身体を貫いた。


「いやああああ!姉様!!」


恐慌状態に陥ったギョクレイは泣き叫ぶ。その声にクロウは愉悦を全身で感じるとハクレイの身体から刀を抜き、次に肩を貫いた。


「ああぁぁっ!」


そして、クロウは肩から刀を抜き、反対の肩から腹にかけて斬りつけるとハクレイが崩れ落ちた。


ううぅっ


ギョク レイ……


倒れたままギョクレイを見たハクレイだが視界が霞んでいく。


「おい、やれ!」


クロウがドウシンに向かって発した言葉にハクレイは絶望する。


や やめてくれ どうかそれだけは……


ふと幼い頃からのギョクレイとの思い出が次々にフラッシュバックする。姉様姉様といつも笑顔で後ろを付いてくるギョクレイ、一生懸命に時間をかけて花飾りを作ってプレゼントしてくれた。厳しい訓練の後に必ず労りの言葉をかけて慕ってくれる存在。どれもこれも愛しい思い出が記憶の海から波のように終ることなく押し寄せる。霞んでいく視界はドウシンに捕らわれたギョクレイを見続けている。

自分はどうなってもいい、ギョクレイだけは助けなければと石のように重くなった体を動かそうと力を振り絞る。それでもわずかに這いずっただけで、とてもギョクレイの所には届かない。そして、無情にもドウシンの短刀がギョクレイの首を切り裂いて力なくギョクレイの体が崩れ落ちる。


ああああああああああああっ


ううぅっ ああっ ……ギョクレイ……


「夜叉姫と噂は聞いていたのだが、所詮はただの小娘だったな。急所は外してある。全てを守れずに失った愚かな自分を呪い、血を流しながらゆっくり死んでいけ」


そう言い捨てたクロウは笑いながらハクレイの背中に刀を突き刺して引き抜くと、その場にいた全員と去って行った。残されたハクレイは、ただ遠くなる意識の中でじきに命が尽きることを望んでしまった。誰一人守れなかった自分の不甲斐なさと絶望的な悲しみに押し潰されて、早く死んでしまいたいと願ってしまった。


あぁ…… みんな…… すまない……


雨に打たれて倒れたまま、ハクレイは気を失った。そしてこの後、アウリス達に助けられる事になる。









「はあ はあ、どこに行ったんだ」


ハクレイを追いかけようと外に出たアウリスだが、どこに向かったのか全く見当がつかなかった。


あの傷じゃまだそんなに遠くに行っていないはず……


日が昇り街の中央部の周りには、往来する人々が徐々に増えてきている。騒ぎが起きていないということは、まだ無事ということか人がいない場所で事が起きてるかどちらかなのか。考えが纏まらないが、走りながら人通りのない場所を探し始めた。









ガタガタガタガタ


しかめっ面のライが椅子に座ったまま、落ち着かない様子で踵で床を鳴らしていた。ガタガタと大きくはないが決して無視出来ない音が部屋の中で鳴り響き続けている。


「うるせえな! そんなに気になるなら追いかければいいだろ!」


机に座って本を読んでいたロキだったがガタガタとあまりにもうるさいため、読書に集中出来ず、ライに言い放った。


「だっ だってよー、行かないってさっき言っちまったし、追いかけていってもなんて言えばいいかわかんねえしよー」


ガタガタガタガタ


変わらず床を鳴らしながら困り果てた表情でライが答えるが、それに対してロキは、何を言ってるんだと呆れて盛大に溜め息をつく。


「お前は何かをするのにいちいち理由がいるのか? それなら待つのが暇過ぎて外を出歩いていたらたまたま遭遇したとでも言えばいいだろ!」


「おっ! おおお! ロキ! それだ! お前頭いいなー! よーし! それで行くぜ!」


すっかり元気になったライは、すぐさま外に出る支度を整えると勢いよく入り口の扉を開けた。


「お前がバカなだけだ。まったく……」


「へへっ! んじゃ、行ってきまーす!」


ロキの暴言にも笑顔を向けたライは、部屋を飛び出して行ったのだった。

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