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kingdom fantasia  作者: 衛刀 乱
闇の光
28/104

漆黒の装束

「腕の振りが遅い!」


ビシッ


「うっ、はいっ」


「なんだその動きは! もっと流れるように動け!」


バシッ


「うぅっ」


幼い女の子。つまりは自分自身が父親に剣術を教えられている光景。それは容赦のないとても厳しいもので、不出来だとまだ十才にもならない内から木刀で叩かれていた。


そして突然、家の中の風景に切り替わる。


「うぇーん! うぇーん!」


「ハクレイ、今日も頑張ったわね」


椅子に座った母親の膝に顔をうずめた女の子がずっと泣いていた。


…………はっ!?


知らず内に気を失っていたのか。何故今、昔の記憶が……


まだ夜の闇が世界の全てを覆い隠したままの夜明け前。激しい雨に打たれながら黒装束を身に纏ったハクレイは、血を流してヨリュカシアカの街道で倒れたまま動けずにいた。


父上、母上…… 私の力が及びませんでした……


くっ、クロウ、ドウシン……






時を遡り雨が降りだす少し前、アウリス達はソルテモートからヨリュカシアカに続く街道で、馬車の荷台の中で揺られていた。ロキの知り合いである商人に偶然会い、行き先が途中まで同じだから乗せてくれるということで幌馬車の荷台の中に乗せてもらっていた。

それまで歩き通しだった三人は、荷台に乗せてもらってからそんなに時間が経たない内に眠りに落ちていた。


ガタンゴトンッ


んっ、眠ってしまったのか……


いつの間にか降りだした雨が布を強く叩く音で目を覚ましたロキは、荷台後方の布の隙間から見える外の色がすでに暗く、夜になっていることに気付く。


おかしい、そんなに遠くなかったはずだが


違和感を感じたロキが後方の布を上げて開き、前方を覗き込んで確認した。


!?


「誰だお前ら!」


そこには荷台を引く馬の横を並走している馬に乗った男達がいた。見るからに野盗の出で立ちであり、片手には刃物を持っている。ロキの声でアウリスとライも目を覚ますと非常事態なのだと理解する。


「なんだ? ガキもいたのか! まあいい! 荷物と一緒に売り飛ばしてやる!」


乱暴に吐き捨てる言葉で野盗だと確信した。


「あの人はどうした! どこに向かっている!」


「ガハハッ! あいつは抵抗したから殺した。これからゴアの闇市に行くんだよ! ここはナロカだからそんなに時間はかからねえ。死にたくなけりゃ大人しくしてな! お前らも一緒に売り払ってやるからな」


クソッ! こんな所で狙われるとは!


「アウリス! ライ! こいつらを倒せ!」


「分かった!」


「よっしゃ!」


事情を察したアウリスとライは両側から荷台の側面を伝って、運転席まで移動する。


「何だてめぇ!」


野盗の一味である馬車の操縦者が、横から運転席へ乗り移ろうとするライを斬りつけた。


ライが攻撃を剣で受けている間に、反対からアウリスが運転手の首を斬りつけるとライが馬の手綱を思いきり引いた。


ヒヒーン


強引だが馬車を止めることに成功すると、乗馬した野盗三人が馬車を取り囲んだ。だが、相手が子供だけだと分かると明らかに舐めてかかる。


「ガキが一丁前に剣を使いやがって! 死ね!」


主犯格の男が言い放つとそれに応えてアウリスとライへと二人が襲いかかった。攻撃をかわしながらライが相手の胴を斬り、もう一人の攻撃を左の剣で跳ね返すと右の剣で斬り倒した。


アウリスは敵の攻撃を受け流しながら体を横に移動させると相手が前によろけた事でがら空きとなった背中を斬る。悲鳴を挙げた敵はそのまま地面に崩れ落ちていく。


「アウリス、腕を上げたな!」


「ライのおかげだよ!」


三人の野盗を倒した後、アウリスは他に敵が居ないか確かめようと注意深く周囲を見回した時に、遠くで倒れている人影を見つける。


「あれは? 人が倒れてる?」


アウリスは剣を収めると人影の方へ駆け寄り、うつ伏せた体を起こした。


なっ!? 酷い怪我だ……


雨に打たれているその姿は、血と泥にまみれてボロボロだった。身長はアウリスよりも高く体の線は細い。独特な黒の装束を全身に纏い、目元以外は口元まで布で覆われているが閉じた目だけが見えた。


「ロキ!ちょっと来て」


雨に打たれながらアウリスが叫ぶとロキとライが駆け寄ってくる。


「なっ! 生きてるのか?」


ライがそう言う間に、ロキが胸のあたりに耳を当てながら手首を握って脈を確かめた。


「生きてる。おい! 助けるつもりならこいつを馬車の中に運んでくれ」


それを聞いたアウリスは考えるまでもなく、怪我人を背負うと馬車の中へと運んだ。


そしてロキが手際よく黒装束を剥いでいく。


やはり、女か……


「お前ら、外に出てろ」


「はっ? 雨降ってるんだぜ?」


「早く!」


ロキの気迫に押されたライがブツブツ言うのをアウリスがなだめながら、二人は外に追い出される。


頭巾とマスクを取ったロキは、思わず手を止めて見とれてしまう。


綺麗な顔だな


自身が呆けていた事に気付くとすぐに我に返り、リュックからいくつか薬品を取り出した。


半刻程の時間が経ったとき、ロキが荷台から顔を出す。


「環境が悪い、この馬車を使って近くの街まで行くぞ。馬車の運転は出来るか?」


「俺は馬に乗れるから多分大丈夫だ!」


親指を立てて胸を張るライにロキは頷いた。


「よし。ここがどこだか分からないがこの街道を進もう。案内板があったら教えてくれ」


運転席は二人が余裕で座れる広さがあったので、アウリスとライは並んで座るとライが運転手となり出発する。


「おっ! 雨が止んできたな! 楽勝楽勝!」


「ライは凄いね! 今度、馬の乗り方教えてよ」


「いいぜ! すぐ乗れるようになるさ! それにしても馬車はいいもんだな! これ、このまま貰わねえか?」


初めての馬車の操縦にライは興奮しながら悪びれずに言っているが


「さすがにそれは良くないと思うよ? 亡くなった人の物だし……ってライ! 急な曲がり道だけどこのスピードで大丈夫!?」


「それがよ! 曲がり方が分かんねぇんだ! おいっ! 曲がれ!」


二人に見えた道の先は迂回するように曲がっていた。


「ヤバイヤバイヤバイ!」


「うおー! うおー!」


顔をひきつらせながら二人はパニックの極みに至る。


道を曲がりきれずに馬車ごと道を外れると思われた瞬間、危険を察知した馬が急停止した。


ヒヒーン


「あっ!?」


「ええっー?!」


驚いたのも束の間、二人は弧を描くよう見事に宙を舞っていた。


「うわああああっ!」


「ギャアアアア!」


ドブッ


二人はともに大きな声をあげながら頭から勢いよく泥畑に突っ込んだ。そして、互いに泥まみれの顔を見合わせてまばたきをする。


「たっ 助かったね」


「ああ、生きてた……」


しかし、泥まみれになっても無事だったと安堵した二人が次に見たものは、頭を手で押さえている鬼の形相をしたロキだった。


「お前らっっっっ! ふざけるのも大概にしろ!」


荷台に置いてあったのであろう長い棒でアウリスとライは頭を殴られる。


「あうっ!」


「ぎゃんっ!」


それからは棒で頭を殴られ続けながらライはロキに馬車の運転を教えてもらったのだった。


「イテテテ、アウリス。もう心配ないぜ! ここからは任せろ」


「うん。ほんともうお願いします」


アウリスは鬼の顔をしたロキを思い出すだけで鳥肌が立って肩をすくめてしまう。それからやがて街が見えたのだった。

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