表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
kingdom fantasia  作者: 衛刀 乱
譲れない思い
21/104

絶体絶命

「ぐっ!」


マダラのカタールがアウリスの腕をかすった。


「大人しくしてりゃ一瞬であの世に送ってやるっっ ぞ!」


ガンッ


アウリスが吹っ飛ばされて横転する。その様子を横目で見たライは、危険な事態だと即座に判断すると目の前の敵を切り伏せて駆け出す。


「アウリス! 今行く!」


ライが駆け寄ろうとしたとき、丁度ゲルケイルがアウリスまでの間に割って入るとライの姿を見て眉をひそめる。


「ああ? ここにもラスティアテナかよ。ガトーのやつ何を考えてやがる」


第四騎士団とラスティアテナ勢の戦域から一番近かったアウリス達の所へ、偶然にもゲルケイルが来てしまう。


「なっ! お前ラスティアテナを知っているのか?!」


「なんだ小僧、俺を知らんのか? まあいい、お前も仲間と同じように眠らせてやるよ」


はっ? 仲間と同じだと?


「どういうことだ!」


「なんだお前ら、お互いの動きも知らないのか? 纏まりのないやつらだ。今頃向こうで全員くたばってる頃だな。あいつはそこそこ強かったがな。名前は確か……ゲインとか女から呼ばれてたか」


なっ!? 兄貴! カイナ姉!?

何故ここに!

くたばった?

くそ! 一体何がどうなってるんだ


「嘘をつくな! 兄貴がお前なんかに負けるわけがねぇ!」


どういうことだか分からなかったが今、目の前にいるのは敵で間違いない。それならばどライがゲルケイルに斬りかかる。ゲルケイルは軽く受け流したがライはそのままゲルケイルの乗った馬を斬りつけた。馬が倒れてゲルケイルが地面に着地すると怒りを露にライを睨みつける。


「お前! 俺の馬を! ふざけやがって。すぐに殺してやる」


凄まじい勢いでゲルケイルが仕掛ける。予想外の速さに反応が遅れてしまったライは、剣を交差して防いだがそのまま後方へ飛ばされた。


マジかよ!


ライは地面に背中を打ち、息を詰まらせる。


ぐっ

冗談抜きで強え!


起き上がる間もないまま距離を詰めてきたゲルケイルが、仰向けのままのライの上から剣を突き下ろす。辛うじてそれをかわした瞬間ゲルケイルが飛び退いた。そして、


ドンッ


ライの背中で爆発が起きた。


「うああぁぁ!」


かなりの距離を吹き飛ばされ、轟音に反応したアウリスが驚愕する。ここまでライがやられている所を今まで見たことがなかった。


「ライ!」


「余裕だな! おい!」


マダラの渾身の一撃でアウリスも飛ばされてしまう。余裕などあるはずもないが叫ばずにはいられなかった。視線の先にいるライはというと、意識が飛ばなかった事を自身で褒めてやりたい気はあるがどうにか起き上がるも全身が軋む。


ぐぅっ マジでヤベェ……

アウリス……すぐに行ってやるからな……


息が上がり視界が霞む。飛びそうな意識をどうにか繋ぎ止めながらゲルケイルから視線を外さない。


「やっぱガキだな!俺がお前ぐらいの年にはガトーは越えていたんだがな」


ゲルケイルは余裕の表情でライを見下した。最早相手にならないと判断したようだ。


「まあ、ここは戦場だ。覚悟は出来てるだろ? 運が悪かったと諦めるんだな」


遠目に見えたゲルケイルと相対する者が誰であるかが分かったカイナの顔から血の気が引いていく。ありえない、否定したい現実に胸の鼓動が激しくなる。


「ゲイン! あそこを見ておくれ! ライがいるんだよ! ゲルケイルと戦ってる!」


「なにっ!?」


カイナが指差す方向にはフラフラになったライと今にも斬りかかりそうなゲルケイルがいた。一刻の猶予もないどころか手遅れだと思いながらも動かずにはいられない。


「ライが! ライが殺されちまうよ! 行かなきゃ!」


カイナが駆けつけようにも騎士団兵に阻まれる。簡単に行かせてはくれないくらいに騎士団兵は甘くなかった。


「邪魔だよ! どきな!」


カイナが必死になるが騎士団も隙を見せれば必殺の攻撃を仕掛けてくる。早く助けに行かなければと気持ちだけが先走り、焦燥感に気が狂いそうになる。


ああ! ライが死んでしまう……


ゲインも必死だが突破口を見出だせずに厚い敵の包囲網を抜けられずにいる。先のゲルケイルとの戦闘に受けた傷が深すぎた。


ライ……


異変に気付いたラスティアテナのクルガとドゥトラが駆け付ける。二人とも激闘を物語る深い傷を体に幾つも受けていたが、その目は闘志を衰えさせていない。


「俺達が道を開く! ゲイン! カイナ! ライを助けてやってくれ!」


クルガとドゥトラは幼い頃から知るライを守ってやりたい一心で文字通り捨て身の行動に踏み切る。ライのいる方角の行く手を阻む敵に突っ込んでいく。


「ゲイン! 乗って!」


カイナは近くにいた自分の馬に乗りゲインに向かって手を伸ばした。その手を掴んだゲインがカイナの後ろに乗ると全速力で駆け出した。クルガは相手の槍に体を貫かれながらもその槍を握って離さず相手を拘束する。その傷は助かる見込みのないものだ。あとは気力の続く限り相手を拘束するつもりだろう。ドゥトラも二人の相手に体当たりで強引に道を開けさせて、一人を押し斬った所で首を切り落とされた。


クルガ、ドゥトラ……すまない……


二人が切り開いた僅かな隙間をゲインとカイナが力業でこじ開けてすり抜けていく。それを許さない騎士団が追いかけてくるが包囲がバラけた所でラスティアテナ勢もゲインとカイナを追いかける。


そんな攻防戦を嘲笑うかのように無情にもゲルケイルは剣を振り上げる。


「じゃあな」


う、動けねぇ……


ガキンッ


ライの首を狙った横振りの一閃を無意識に動いた手が辛うじて防いだが横に吹き飛ばされる。次はすぐには起き上がれなかった。意識はあるのかないのかもう分からない。


アウ リス …… お前の 道は…… 俺が……


ライはやっとのことで起き上がるが、膝を付いたまま立ち上がれない。その時、ジレイス率いる騎馬兵五騎がゲルケイルとライの間に割って入ってきた。少し前に異変に気づいたジレイスが、決死隊を編成して駆け付けたのだった。


「アウリス! ライ! 立てるか!」


ジレイスの叫びにアウリスが反応する。


ジレ イスさん?


アウリスは起き上がり状況の変化に気付く。ゲルケイルの前にジレイスが、マダラの前に騎兵二人とアウリスの横に一人、ライを守るように二人が配備された。


「ほう、お前が名高いムトール軍隊長か? 俺は運が良さそうだ」


ゲルケイルがそう言うと獰猛な顔つきに変貌してジレイスに斬りかかる。


マダラに対した二人は苦戦していた。マダラの攻撃は受け辛い場所を生まれつき長い手足で翻弄しながら斬りつける事を得意としていた。対しては防戦一方でマダラを倒すには届かない。混戦になったことでアウリスはマダラ以外にも周囲の敵から攻撃を受け始める。それを防ぐようにどうにか剣を振り続けているがもう力が入っておらず、敵の攻撃を受けるたびに右へ左へ転がされていた。


ライはまだ起き上がったものの両手は剣を持ったまま下がっており、切っ先は地面に当たっている。


オ レが…… 斬り 開く……


もう目の焦点が合わずどこを向いてるかも分からなかった。そんなライを守るための戦闘がすぐ近くで繰り広げられる。


「なんだ? がっかりだな。隊長格ってのはこの程度か?全く噂以下だな」


ゲルケイルの二段斬りでジレイスは胸を斬られて落馬してしまう。


ぐふっ 強すぎる……


マダラの変則的な攻撃はムトール兵二人を簡単に斬り殺してしまい、アウリスとライの側にいたムトール兵も押し寄せるバラン兵に囲まれ殺されてしまった。


もはや絶対絶命の危機となり、打つ手もないまま多数の敵の波に飲まれる。


ライは朦朧とした意識の中でアウリスの姿を探した。声は出ないが心の中でアウリスに言葉をかける。


ラスティアテナでは同じような年の友達がいなかったんだ


アウリス……お前はお人好しでいつだって人の為に動こうとするよな。俺はそこまで他人の為に動こうとは今まで思わなかった


そんなお前が眩しくてもっともっと一緒に旅がしたいと思ったんだ


お前は王なんかにはならないって言ってるけど俺の中の王はアウリスなんだぜ。初めて会った時にはなんとなくだったんだけど、一緒にいる内に確信したんだ。俺の力はお前の為にあるのかもってな


だから俺はお前の剣になって敵は全部倒す

こんな所で死なせはしない


だから……アウリス……


今……行く


そう呟いたライの瞳に紋章が浮かび上がると、ライの体全身に激痛が走った。


「うおおおおおおおおおぉぉぁ!」


痛みを吹き飛ばすかのように出した烈迫の叫び声と共に、ライの体から雷がほとばしって周囲に溢れ出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ