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kingdom fantasia  作者: 衛刀 乱
譲れない思い
20/104

激闘

そろそろ合流出来るか


ゲルケイル率いる第四騎士団はバラン州に入り、セムネアの戦場に向かっていた。騎士団はそれぞれに特色を持っており、基本的には好戦的な類いの団が多いのだが第四騎士団は団長を筆頭にその色が強い。弱者には興味を示さずに、強者を見つけては剣を交えなければ気が済まない戦闘狂の集団である。第四騎士団団長のゲルケイルはセガロから指令を受けていた。戦況の操作と質の悪いバラン軍の略奪をやり過ぎないように抑制する任だった。ムトール州都制圧後、すぐに運営出来るだけの力は残しておきたいのだった。廃墟にしてしまってはもう捨てるしかない。馬鹿を監視するような面倒な任務をゲルケイルは、気が乗らないが強者と会えれば良しとしようと思っていた。


つまらんな、ムトールの州隊長にでも遊んでもらわんと割に合わんな


ゲルケイルはどさくさに紛れて、前線で片っ端から指揮官の首をかっさらおうという遊び心を思い付いた。バラン兵には雑魚しか残さない。


ふっ、そう思えば楽しくなりそうだ


第四騎士団はよく訓練されており、速い速度を維持しながら隊列を乱すことなく馬で駆けていく。






「あっちはやる気満々だがお前らはどうだ!」


ムトール軍から雄叫びが聞こえた所で、バラン州軍隊長のバトロスが寄せ集めではあるが圧倒的な数の兵士達を煽るとバラン軍は地鳴りのような雄叫びをあげた。


「兵力差はこっちが向こうの五倍だ! 五人で一人殺りゃ終わっちまう! つまらんが早く終わらせて手当たり次第略奪するぞ! 行け!」


バラン軍が攻撃を開始した。


同じくムトール軍も仕掛ける。騎馬兵の後に歩兵が続く突撃は、先頭のジレイスが剣を前方に向けることにより騎馬の槍隊が前に突出する。敵との距離が縮まるにつれ、槍隊を先頭にした騎馬隊の突進速度が上昇して、打撃力を高められるだけ高めるとやがて敵陣と激突する。対するバラン軍の隊列は最前列に重装槍兵。両軍の隊列が交わった瞬間、両軍の兵士が吹き飛んだ。


横列に長く隊列が組んだバラン軍に対してムトール軍は縦に延びた矢のような隊列により、一転突破で騎馬隊が突撃する。両軍お互いに吹き飛びながらも前へ前へと押し込み続けた。しかし、敵の数の多さから騎馬の足が止められるとバラン兵に囲まれたが何度も訓練を重ねた想定内の状況である。敵陣の中で後ろから追い付いた重装兵で防御を固めた所に後続の部隊が後ろから敵を崩しながら騎馬隊と合流する。それからはさらにバランの大軍の中へとどんどん食い込んでいく。数の少ないムトール軍は大軍で横に広がったバラン軍に対して縦長の縦列陣形で中央突破を狙っていた。玉砕覚悟の敵将狙いである。


さすがに抜けはしないか


あわよくば初撃で敵本陣まで抜きたいと思っていたジレイスだったが、錬度の高いムトール兵とはいえ数的な要素は大きな障壁過ぎた。バラン軍の中心で止められてしまったムトール軍は完全に包囲されてしまう。ただ、大きく四方に隊形を広げたことにより、かろうじて戦闘を継続していた。もとより州候ラムザの反対を押しきって決行した玉砕必至の作戦である。あとは死ぬまで敵を屠り続けるのみであった。


同じく突撃を始めたアウリスとライだったが突進したムトール騎馬隊より横に離れた場所を目指していた。


「相手が向こうに集中してる間にこっちから崩してやるぜ!」


戦場の熱気に心臓が潰れそうな感覚だったアウリスに比べて、ライは真剣な眼差しだが口元を少し吊り上げるくらい余裕が見えた。一騎駆けのアウリス達に気付いたバラン軍先頭の重装槍兵が槍を突きだす。


「血迷ったか小僧!」


バラン兵が叫んだ所で


「アウリス! 跳ぶぞ! つかまれ!」


アウリス達を乗せた馬は槍隊を飛び越え敵が密集した所に、バラン兵を押し潰しながら着地した。一瞬この場にいる敵は何が起きたのか把握出来ずに動きを止めていた。


「いくぜアウリス!」


「よしっ!」


そう言ってライとアウリスが下馬した時に


「お前は好きな所へ行きな!」


ライが馬の尻を叩いて走らせて見送ると、一度大きく息を吸い込んでから敵に突っ込んでいく。


「アウリス! あまり離れるんじゃねぇぞ!」


ライはそう言いながら双剣を唸らせて次々にバラン兵を倒していった。バラン兵は何が起きたのか分かっていない混乱状態であった。バラン兵の多くは戦闘は離れた所で行われていると思っている。しかし、いきなり目の前に少年兵が現れたかと思えば一瞬で斬られてバタバタと次々に倒れていく。


「なんだありゃあ?! 」


隊列の一番後方の離れた所で本陣を敷いた所から戦況見ていたバトロスは、ムトールとバランが戦闘している激戦地とは別の所で、バラン兵の隊列が乱されている所を見て眉をひそめる。


「おいおい! 相手は少数だろうが! 何やってんだ!」


バトロスは中央のエリアより被害が大きくなる予感を感じた。数々の修羅場をくぐり抜けた野生の勘が、このままでは危険だと察知して焦りをおぼえる。


「おい、あれを止めてこい!」


バトロスは横にいる腹心のマダラという男に、アウリス達を討つように命じるとマダラは移動を開始する。


「隊長! あちらが凄いです!」


そう言われてジレイスが見た先は、アウリスとライの二人が次々に敵を切り崩している姿だった。今まで見えなかったのだがどうやらこちらに向かっているようで今では戦っている様子が見える。


凄まじいな


それはこのまま善戦すれば、この戦を勝つことすら出来るかもしれないと思わせるほどであった。


奇跡は信じない。だが最後まで最善を尽くす


ジレイスは左横腹に傷を負い、血を滲ませながら仲間を鼓舞しながら敵を叩き続ける。


「アウリス! 大丈夫か?」


「うん! 大丈夫だ!」


声を交わしながらライの姿を目視するアウリスだが、間近で見て改めてライの凄まじい剣技に思わず目を見開くアウリスだが、負けじとバラン兵を倒していく。今までの旅の間に時間が空けば、アウリスはライに剣の撃ち合いを付き合ってもらっていたのだった。


手も足も出なかったあの時とは違うんだ!


アウリスは力尽きるまで剣を振り続けると決めていた。





「チッ、始まってやがる」


ゲルケイルはバランの街道を抜けて、セムネアの平野に出た時は既に乱戦状態であった。出遅れてしまった悔しさに顔を歪ませるが獲物を探すように鋭い視線を走らせる。


あそこだな!


中央で隊列が乱れた所に狙いを定めて進路を変えたとき、どこからかチリチリと殺気を感じた。ゲルケイルが先頭で疾走する第四騎士団に並走して十騎の隊が近付いてくる。


「ゲルケイル! 覚悟!」


ゲインが叫び、右手で背中の鞘から剣を抜く。


ほう、ラスティアテナか


少し驚いたようなゲルケイルが十騎の隊を見回すと、全員が肩に見慣れた双剣を背負っていた。間違いようがない同郷の者達だと断定するも、表舞台の戦場に現れるのはゲルケイルの記憶の中にはない。だがどちらに加勢するでもなく違う目的があるならば、納得出来る。


「なんだお前ら! 俺を狙っているのか? 面白い」


お互いの隊が近付いてゲインとゲルケイルが刃を合わせた。


「ラスティアテナが俺を殺すために出てきたのか? お前らに止められるか!」


ギンッ


ゲルケイルの渾身の一撃をゲインが受け止める。強烈な力に受け止めた剣を支えるのにみしみしと腕が軋むが烈々たる意思で押し返す。


「裏切り者のお前はここで死んでもらう」


ゲインがゲルケイルの前に進路を割り込みながら左手で抜刀して振り下ろし、右からも斬りつける。ゲルケイルは難なく受けたものの足を止められる事になった。第四騎士団も全員足を止めて二人の周りでそれぞれに戦い始める。


「おいおい! ここで足を止められるとはな、いいぜ、少し遊んでやる!」


ゲルケイルも背中からもう一本の剣を抜き両手に剣を構えた。それだけで異様な威圧感がゲインにのし掛かる。見た目以上に姿が大きく感じる事にゲインは苦々しく思いながらも剣を構え直す。そして、両者が同時に動き出す。お互いに凄まじい手数の応酬で、周りの者達が動きを止める程であった。


「よそ見してちゃ命が無くなるよ!」


カイナが隙を見せた相手の首をはねる。戦闘狂の第四騎士団五十名を相手に、ラスティアテナの精鋭十名は全く引けをとらなかった。


ゲイン、必ず勝つんだよ


カイナは三人を同時に相手しながらゲインを胸の内で応援する。傍目から見る技量はとてもではないが相手になれない。ゲルケイルとはゲインでしか戦えないと確信した。




一方、ジレイス達は徐々に勢いが落ちていた。疲れてきた事も勿論あるが、絶対的な兵力差で数がみるみる味方の数が減らされている。


この数の差はどうにもならんな

敵の本陣まではいまだ遠い……

あの子達は無事逃げられただろうか


狭まってきている包囲網の中で、ジレイス達は大いに苦戦していた。


「ライ!大丈夫?」


「ああ! それにしても多いな! 斬っても斬っても減ってる気がしねぇよ!」


笑顔でアウリスに答えたライだったが次に現れた男を見て目を細めた。明らかに強者の匂いがする大男は、前方にいた兵を押し退けて割って入ってくる。バラン軍のバトロスから命令を受けたマダラであった。


「ガキだったのか! てめえら調子に乗り過ぎだ」


マダラが大きく湾曲したカタールを振り下ろす。


ガキンッ


受けたアウリスの手が大きくはね除けられた。


強い


アウリスとマダラの一騎討ちが始まり、周りの兵がライに集中して攻撃してくる。どうやらマダラに加勢することを良しとしていないのだろう。ライはというと敵の攻撃を回避し、斬り返しながら剣を受けてはまた斬り返して多人数を捌いていた。




うぐっ!


今まで互角と思えたゲインとゲルケイルだがゲルケイルの剣がゲインの体を捉え始める。そもそもゲルケイルは本気を出していないようだ。


「お前はもう飽きたな、こんなの知ってるか?」


ゲルケイルが振った剣先に雷が現れると、刀身に流れ広がる。


ビリビリッ


勝ち誇ったような顔をして雷を纏った剣で斬りつける。


オオオッ!


受けたゲインの剣も同じく雷が現れていた。


バチバチッ


「ほう、驚いたな。お前雷切りを使えるのか。だがこういうのは知らんだろ」


ゲルケイルが大きく振りかぶりゲインに振り下ろす、ゲインは受けるまでもなく体を後ろに引いて回避したがゲルケイルはそのまま剣を地面に投げて突き刺した。その瞬間、ゲインの馬の足元で爆発が起きる。


ドンッ


馬が弾かれるように倒れてゲインが吹き飛ばされた


「ゲイン!」


カイナが叫んだ時にはゲルケイルは剣を地面から抜き、立ち上がったばかりのゲインを斬りつけた。


ザンッ


突然の爆発によりゲインの聴覚が麻痺した所を間髪入れずに肩から斬りつけられて倒れ伏した。


「ゲイン!」


カイナは急いでゲインの元へ走り寄り、ゲルケイルを斬りつけたがゲルケイルはカイナの剣を受けると同時にカイナの腕と足を斬りつける。


うっ! なんて強さなのさ……


ゲルケイルの次の斬撃でカイナは受けた剣ごと押しきられると、馬から落とされてしまった。


「もういいだろ? お前ら、遊んでやれ!」


そう言ってゲルケイルはバラン軍の中へ入っていった。


ぐうっ!


ゲインは切りつけられた肩を押さえながら団兵の攻撃を受け流しては反撃する。ゲルケイルを追いかけようにも姿を見失ってしまった。


ゲルケイル……予想を上回る強さだ


それでも追って行こうとするが完全に第四騎士団に包囲されて足を止められてしまう。

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