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kingdom fantasia  作者: 衛刀 乱
譲れない思い
15/104

抵抗への道程

「これからどこに行くんだ?」


一夜明けて朝日が昇り始めると、三人はそれぞれに目を覚まし、これからの行き先の確認をする。アウリスはロキの顔の腫れがかなりひいていたのと、自分自身の傷もほとんど傷みが消えていた事に気がついた。


「ロキの薬、凄いね! もうほとんど傷みを感じないよ!」


「俺のお手製だからなそこらの薬とは効き目が違うんだよ。で? どこに行くんだ?」


「えっと、これからなんだけど一度ムトールの州都のダムタールに行ってみたいんだ。ロキ、道分かる?」


「ダムタールか、二年前に行ったきりだな。ここからなら北東に向かっていけばムトール州内に入るからそこから見える大きな山に向かって歩けば小さな町に着く。そこでダムタールまでの道を聞けばいいだろう」


「俺はどこでもいいぜ!なんたって村から出たことがないからどこいったって……」


ゾクッ


ライは会話の途中で背中に殺気を感じた。すると、段々と近づいてくる馬の蹄の音に気が付いた。後方から聞こえる馬の蹄の音に三人は追っ手に見つかってしまったかもしれないと一斉に振り返る。すると、マントで全身を覆い、フードを深々と被った怪しげな人が三人の前まで近づいたところで馬から降りた。アウリスとロキは最大限に警戒をするが、ライはというと目を見開いて驚愕の表情をしていた。


「カイナ姉!」


頬を痙攣させて動揺しているが、カイナ姉というからにはライのお姉さんなのだろう。ライと同じように背中で交差するように二本の剣を背負っていた。


「ライ! ホント探したよ。どこに向かったのか見当もつかないからあちこち探し回ってさ。ギルカシャに寄ったら大騒ぎになってるし。あれはお前の仕業なんだろ? 馬鹿やってんじゃないよ! 爺に知れたら剣を取り上げられて当分謹慎だよ。さあ、一緒に村に戻るよ」


呆れたような声を出すカイナがフードを取って、肩に乗った赤茶けた髪を手で振り下ろす。強い視線をライに向けている姿からは、アウリスは自分より四つか五つ年上の印象を受けた。


「ちょっ ちょっと待ってくれよ! 俺は村には帰らねえ」


「はあ、何言ってるのさ、黙って出て行く時点で重罪なんだよ。あたしに連れて帰ってこいって言われてるし、ライにはまだ早いんだってさ。とにかく爺が戻ってこいって言ってる。それとライ、外の世界が見たいっていつも言ってるけどまだ伝説の剣だとか言ってるのかい?」


「うっ…… で 伝説の剣は確かに探してるけど……ってか、村の外がこんなに荒れてるとは俺は知らなかった。だから今、村に戻ったらまた何も知らずに過ごす事になる。カイナ姉だって街やそこらに住む人達を見ただろ? 俺らが日々鍛えているのはこんな荒れた国で苦しむ人の為じゃないのかよ! 俺はこの二人と、この国から争いを無くしたいんだ!」


最初は歯切れが悪そうだったライだが、徐々に言葉に力が帯びて真っ直ぐな力強い視線にカイナは驚く。


ふう、そんな事を考えていたのかい。確かに、ギルカシャの状況は前に見たときよりも酷くなってたね……

それにしても……


カイナはいくらかやわらいだ視線をライに向けた後、アウリスとロキに視線を移す。


この男の子はライの言葉に何故か感動しているようだね

こっちの小さい子は……なんか微妙な目をライに向けてるね、言葉には興味がなさそうだけど悪い子には見えないか

同じ村では年の近い子がいないから友達が出来なかったけど……

フフッ、ほんの少し会わないだけでただのガキから成長したじゃないか


わずかに温かくライを見つめたカイナだが、すぐに視線を鋭いものへと変えた。


「それとこれとは話が別だ。力づくでも連れて帰るよ!」


「俺は絶対帰らない!」


姉であるカイナの事をよく分かっている。今までもやると決めたらやる人だ。それを成す実力もある。そして、ライは一度もカイナに全ての勝負において勝てた事がない。


カイナ姉に勝てるのか、いや勝たなきゃ村に戻らなきゃならない。絶対帰りたくねえ! アウリスと旅がしたいんだ!


胸の内を表すかのような目を見て、カイナは表情は固いものの、心の中で密かに喜んだ。


「へぇ、やるってのかい? しょうがないね」


ゆっくりとカイナが抜刀すると、続いてライが素早く剣を抜いた。何故二人が戦おうとしているのか、その状況を飲み込めないアウリスだったが、二人が今から何をしようとしているかを理解すると必死に二人の間に入り、ライの肩を掴んだ。


「ライ!駄目だ!お姉さんと戦うなんて!」


「アウリス、離れていてくれ。カイナ姉はやるといったらやるんだ。俺はまだまだお前と旅がしたい!」


ライが言葉の終わりと同時に、アウリスの横を抜けて踏み込んだ。その速さはカイナとの距離を瞬く間に縮める。そして、そのままの勢いで斬りつける。


速い!


アウリスはライが本気なのだと分かった。だが、その二刀ともカイナは事も無げに弾いては反撃する。それは、ライの速さを見慣れたアウリスの目で見ても、驚いてしまう剣速である。


ガガガガガガガガッ


一気に圧されるかと思われたライであったが負けじと息もつかせぬ連撃を繰り出し、カイナを圧倒しようとしてもそれは悉く弾かれた。


うおおおら!


はあ!


ライからの気合いを乗せた横薙ぎの一閃をカイナは声をあげて大きく弾き返すと、ライは衝撃を受け止められずに自ら後方に飛び退いた。そこで、二人は静止した。すると、カイナはくるりと振り返る。


「腕がなまってる。ちゃんと毎日鍛えなよ」


そう言ったカイナは、こちらに顔を向ける事なく馬の所へ歩き出した。それはもう要件は済んだといわんばかりに。


「待て! 何が腕がなまってるだ!カイナ姉と互角じゃねぇか!」


「フフッ、粗末な物ぶら下げて言ってんじゃないよ」


「はあっ?」


何を言ってるのかライとアウリスは分からなかったがロキは盛大に顔しかめる。カイナの精密な剣技により、ライのズボンの止め紐どころか下着の紐まで切られ、ライの膝までズボンと下着が下りていた。


ということは…


事実に気付いたライの顔が赤く染まりきると、恥ずかしさのあまり怒りがMAXに到達する。カイナを斬りつけようとして踏み込もうとしたが、下りたズボンのせいで足の自由がきかず、思いきり倒れこんで盛大に顔面を地に打ち付けた。


「ハハハハハッ!全く恥ずかしいねぇ!」


その様子をカイナが笑いながらライをからかう。


ううぅっ


ライは恥ずかしさのあまりに顔を上げる事が出来なかった。


「ライ! 見逃してあげるから土産に宝石の一個や二個ぐらい持って帰りなよ! 今からあたしが爺に怒られるんだからね。手ぶらで帰ってきたら承知しないよ!」


カイナの言葉にライはまだ返答出来ずにいる。顔を地に伏したままのライの事を気にすることなく、カイナはアウリスとロキに優しい目を向けて言った。


「二人とも、この子の事を頼むね。まだまだガキだけどいい子だからさ、仲良くしてあげてよ。それとライ! よく聞きな!」


声を張ったカイナの呼びかけにライがやっと地面から顔を上げた。


「ラスティアテナは王の剣なんだ! それは相手が誰であれ絶対に負けられないんだ。忘れるんじゃないよ」


さっきの柔らかい表情とは変わって厳しいカイナの言葉にライは背筋が伸びる思いがした。それからカイナは、颯爽と走り去っていったのだった。


凄い……


アウリスはカイナの剣技と誇りに言葉を失った。そして、ライも同じように何かを決意した表情になっていた。だが、何かに浸っているのはアウリスとライだけでもう一人は……


「おい! いつまでその格好でいるつもりだ! 早く直せバカ!」


アウリスとライの感動をよそにロキが激怒していた。


しかし、これで晴れて公認? となり、軽くなった足取りでライは二人と共にダムタールへ向かうのだった。







一方、第七騎士団の追尾をかわし続けているガロはマリオール州にいた。


まだまだ寒いな、南の方へ行こうかな


国内で色々と起こっている事は噂話程度には知り得ている。ハルト王が急死したという衝撃的な出来事は、滞在した街毎で色々な人と話す内に知り得たが、細かい内情までは知らなかった。


王都のゴタゴタに巻き込まれるのは嫌だな


ガロはひとまず影響が少なそうな、王国最南端のケルテバ州に行こうと思いついた。現在地はマリオール州からムトール州へと向かう道と南の方面に向かう道との分かれ道にいる。


ヨリュカシアカを抜けてケルテバだな


ガロが南方へ続く道を進もうとした時に、後ろからの複数の蹄の音を耳が拾うと周囲を見渡した。どこか姿を隠せそうな場所を探したが、タイミング悪くひらけた場所にいるためそれは諦めた。


軍隊か……


馬に乗って集団で移動する者は大体決まっている。大方盗賊か軍か、それも音の聞こえ方で判断出来た。数が多く訓練された足並み、盗賊ではなく傭兵団か軍隊と断定する。どこまで自身の手配書が回っているのかは定かではないが、面倒臭い事になるのは極力避けようとガロは顔を見られないように大きな帽子を深く被り直し、また歩き出した。


ガロの後方で予想通りに騎馬隊が現れて、分かれ道に到達すると停止したのだった。それを気にすることなくガロは普段の歩調のまま進んでいく。


「ガロさん?」


思いがけずに後ろからの声に振り向くと、そこには懐かしい二人の顔があった。


「ラズベル! ローレンスじゃないか!」


ガロは驚いた顔で分かれ道の場所へ引き返し始めると、ラズベル達もまたガロに近づいて騎獣から降りた。


「やっぱり! ガロさんのその姿は変わらないな! 遠くからでもすぐに分かったぜ」


嬉しい反面、一応追われている身でありながら目印になりえる服装を変えないままというのは、良くないとは分かっていた事ではあるが、今身に付けている帽子とマントを気に入っていて変えられないでいた。それにより特定された事に思わず顔をひきつらせてしまう。それでも帽子とマントをどうこうするつもりは毛頭なかった。そして、懐かしい友達に会えたのだから悪い事ばかりではないとも思える。


「お久し振りです」


ローレンスもやや興奮した様子でガロに挨拶する。前に会ったのはいつだったかと思い出す中でふと、後ろに率いている者達の鎧の色が揃っていることに気付く。ラズベルが赤でローレンスが緑であり、紛れもなく王国騎士団の装備である。


「驚いたな! まさか二人とも騎士団に入れたのかい?それにしても皆ボロボロじゃないか。山賊にでもやられたのかい?」


そのひとことで表情を曇らせた二人。すぐに笑顔を見せる二人にガロは何かを感じるが、昔から変わらない二人の様子に笑顔で応えた。ラズベルとローレンスは幼少期から一緒に遊ぶ仲で、ロージリア軍に時を同じくして入隊し、初任務の山賊討伐の時に誤った情報を鵜呑みにして失敗する。次々と仲間が悪党の集団に殺され、二人の命運も尽きたと覚悟した。だが、偶然通りがかったガロに命を救われることになったのだった。それから何度となく顔を合わす機会があれば一緒に夕食を食べる事もあった。


「ガロさんと最後に会った時は、まだロージリアの兵隊でしたからね。騎士の称号を得るまでは大変でした」


ローレンスが笑顔で答えた。簡単に言ってはいるが二人とも地方の弱小貴族出身であるために生半可な道ではなかったであろうと察する。軍に所属したことのないガロでさえもそれが大変な偉業であることは容易に想像がつく。


「団長、この方は?」


ラズベルのすぐ後ろからピロモコに乗ったミリアが尋ねた。


「ああ、この人はガロさんといって、俺とローレンスの命の恩人だ」


「恩人だなんて大げさだよ。ただフラフラと旅をしている者さ。それにしてもまさかとは思ったけど二人とも団長なのかい? 凄い事だね! おめでとう!」


ガロは、いつか騎士団に入って団長になる! と会う度に熱く語っていたことを思い出す。そんな二人が夢を叶えたことを嬉しく思った。


恩人からの祝福に嬉しそうな顔を浮かべたラズベルだが、真剣な表情で答える。


「でもねガロさん、元団長になったんだ」


そう言ったラズベルとローレンスは今に至るまでの経緯を簡単に説明し始めた。傷だらけだった理由を知ると共に、事の重大さに息が詰まるが、続く言葉に耳を傾けた。


ロージリア郊外での戦闘があった王都のその後は、白々しく王の葬儀が行われた。このままでは滅びゆく運命の国を救う英雄として、王都にいる大半の貴族達の嘆願により、セガロが王の名乗りをあげた。そして、新王の威光でバラン州が反意を改めてこれからは忠を尽くす事となったという話が出回った。事実今まで度々起こっていた内紛が息を潜めると、何も知らない民からの名声は高まるばかりであった。当時のバラン州軍隊長は反乱を起こした張本人として死刑となった。完全に責任をなすりつけられた形ではあるが民にとっは知る由もない話である。

反乱が平定となり、国の土台を作り直す政策を打ち出し、マリオールとヨリュカシアカは州軍が壊滅したので臨時補強と州の監視を兼ねてそれぞれ第八騎士団率いるワネゴバと第四騎士団率いるマリーララが常駐配備となった。他の州の視察と反乱の芽を摘み取る任務で第五騎士団グロースと第七騎士団ヴァインズが二手に分かれて全州を廻るということだった。ラズベルとローレンスは残党と呼ばれ、手配されながらも行動を共にしている。逃げながら各地で転戦をして、反撃の機をうかがっているが、徐々に追い詰められている。そして今驚くべきは、次はムトールが反乱を起こしたと国中へ報せが回っていることだった。


「次はムトール州を潰す気か、ムトールは候も軍も忠義を重んじると聞いていたけどセガロになびかない存在は邪魔なんだろうね」


「君たち二人はこれからどうするんだい?」


「俺らの目的は逆賊セガロを討つことだ。だけど今は圧倒的に戦力が足りないからまずは準備が必要だな。本当は今すぐにでも王都に殴り込みたいんだけどね」


「州と協力しようと思っていたのですが今、全ての州にセガロの息のかかった者が配備されつつあるので下手に私達が姿を現せば、間違いなく決死の戦闘になります。そして、その準備も確実にしていると思われます。例外としてセガロの思い通りになっていないのがムトール州との事なのでひとまずはムトールに身を寄せようかと思っています」


二人のやりきれない様子にガロもまた気持ちが沈んでしまう。


まだまだこの国は荒れていくか………ダンガス達が心配だな……


ダンガス達が住む村レトが属するソルテモート州は王都に向かってムトール州の後ろに位置する。ソルテモート州候は高齢で現在、病で寝たきりとなっているがおそらく病を理由に交代させられるだろう。王都の騒ぎが静まり他州の体制を変えるなら間違いなくそうするはずだった。ソルテモート州候は穏やかな人物で民からも慕われていたがセガロの腹心の圧政下になれば、民が苦しめられる。ダンガス達も例外ではないとガロは心配になる。


「ソルテモート州が気になるね。地理的にムトールを通過しないとソルテモートには行けないからムトールが安全な限りはソルテモートも大丈夫だと思ってたんだけどね」


「そうなんですがソルテモート州がもし、ムトール討伐に加わったらムトールは挟撃されてしまいます。そうなればいくらも経たずしてムトールは、落ちてしまいます。王都近辺の体制が整いつつある今、次は周辺の固めに着手するでしょう」


「だからまずはムトール州候に会って、話をする。そして、手を取り合えるなら、セガロの手より早くソルテモートに行って説得するんだ。ソルテモートとムトールをセガロの好きにはさせねえ」


「なるほどね、最早独立するのと同じ事になるね。だけどそう簡単にはいかない。多くの血も流れるのだろう。だけど為さねば悲劇が続いていくか……二人とも無茶するなと言っても無茶するのだろうけど、決して死なないでおくれよ」


ラズベルとローレンスのような心ある人を失うのは悲しい。僕もソルテモートに行こうかな。何も出来ずに大切な者達を失うことはもう二度とごめんだからね


「僕もソルテモートに行くよ。会いたい人達がいるからね」


「おっ! じゃあ再会を祝して飲み明かそうぜ!」


「おいおいラズベル、私達は支援も受けられないことを忘れるなよ。今でも盗賊を討伐して奪った資金で凌いでいるが、これではどちらが盗賊なのかわからん。はあ、資金面でも考えないとな」


ローレンスもラズベルと同じ気持ちだがあえてそう言う事で意識付けをする意味も含める。


「まあ、そうだな。今の手持ちじゃあ皆が騒ぐ分は足りないな。ムトール候におねだりするか」


「おいおい」


ローレンスが頭を抱える姿を見て可笑しくなり、ガロは微笑んで言った。


「じゃあ飲み明かす事を約束するから君達は必ず生き残るんだ。いいね?」


「わかったよ! ガロさん、ムトールまで送ろうか?」


「いや、気持ちは有り難いけど寄り道しながら行くから向こうでまた会おう」


ひとまずの別れの挨拶を交わしたラズベル達一行は、ムトールへと続く道を勢いよく駆け出す。その姿が見えなくなるまでガロは見送ったのだった。


国の危機だというのに僕は……




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