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kingdom fantasia  作者: 衛刀 乱
譲れない思い
13/104

震える夜

「アウリス、時間をかければこいつらはどんどん集まってくるぞ。殺さないようにするのはやめておけよ」


背中の双剣の柄に手を伸ばしたライが視線だけ移してアウリスに言った。アウリスは剣を教えてもらった期間に言われたガロの言葉を思い出した。


アウリス、君は優しい子だから人を殺すという事を躊躇うかもしれない。だけど、この先大切な人を守るためには人を殺めないといけない事もきっとある。君のこれから歩む道は無血では通れないんだ。いずれ心を決めなければならない時が来るけど、いつまでも優しい気持ちは忘れないでおくれ


少しの間、目を閉じたアウリスは意を決めたように目を開いた。瞳の奥に力を宿したように。


ガロ、僕は心を決めるよ


勢いよくアウリスとライが抜刀すると前方の敵は不敵な笑みを浮かべる。


「フン、やる気か。退屈しのぎに遊んでやる」


バラン兵の先頭の男が剣を抜いたと同時に周りの者も剣を抜き、互いに距離を取りつつそれぞれに構えた。一呼吸おいた後にライが一瞬で距離を詰め、横に一閃する。


ガキンッ


切りつけられた相手はライの剣を受け止めた。だがライの左手は既に相手の肩から斜めに斬り込んでいた。だが後方にいた兵士は、斬られた男が床に倒れるより早くライを狙って剣を振り下ろす。


さすがに兵士か、慣れてやがる


剣を受ける体勢が整っていないライは横に跳躍すると、壁を蹴ってさらに後ろの兵を斬り倒した。一方、アウリスも斬りかかってきた相手の剣を受け流し、そのまま斬り返すと、相手の動きが止まった所で腹を貫いた。しかし、相手はまだ息絶えず左手でアウリスの首を締めつける。


うっ!


その瞬間、相手の首が落ちた。敵の体の向こうでライが剣を振りきっていた。


「ありがとう!」


ライは口元をつり上げてまた敵に突っ込んでいく。


「敵襲!」


異常事態の知らせを叫ぶ声に二階から既に抜刀済みの兵士達がぞろぞろと下りてきた時、一階の奥からロキの叫び声が聞こえた。


「ライ! 一階の奥にいる!」


「分かった! 行ってこい! 見たところ外への出入り口はここだけだ! ここを固められるとマズイ、だから俺がこっちを引き受ける!」


ライが相手の剣を受け止め、斬り返しながら言った。一体敵が何人いるかも分からない。続々と集まってくるバラン兵に時間は長くかけられないとアウリスはライに答える。


「うん! すぐに戻る」


アウリスは目の前の敵を斬り倒し、一階の廊下へ進んだ。後を追う兵をすかさずライが切り伏せる。


ここか?


横並びに部屋が続いていて、ロキがどこにいるのか分からない。アウリスは手当たり次第に扉を開き続ける。


ここは!


誰もいない!


ここか!


!?


扉を開けた瞬間に部屋から兵士が斬りつけてきた。


うっ!


体ごと押し込まれてアウリスは後ろの扉に激突する。そのまま斬り込んできた腕を切り落とし、相手の喉元に剣を突き刺した。


「ロキ! どこだ!」


アウリスはまた手当たり次第、扉を開けていった。




「ドド、お前こういうの好きだろ? 俺らは外に出るから楽しめ」


先程呼ばれて部屋に入ってきた男は、スキンヘッドの頭に大きな傷がある大男だった。口はだらしなく半開きで涎が垂れている。


「おお! おお! 大人しくしてろよお」


ドドと呼ばれた男がゆっくりとロキに近づく。耳鳴りが激しく、何を言っているのかロキには分からなかったが、おおよそ察しがつく。


「やめろおぉぉ!」


ロキはどうしようもないと分かりながら叫ばずにはいられなかった。それでもゆっくりとドドは近づき、ロキの前に座り込む。揺れている体の下半身は膨らんでいた。ロキは恐怖で気を失いそうだったが、ドドはゆっくり両手を伸ばしロキの首を締めた為に気を失うことも出来なかった。


「うぅぅっ」


ロキは涙を流していた。

その時、


バンッ


勢いよくドアが蹴破られた。状況を見たアウリスは、考える事もなく思い切り踏み込みドドの首を切り落とした。


お前 は アウ リス ……


ロキは信じられないという顔をしながら大きく息をしていた。


「ごめんロキ! 部屋が分からなくて遅くなってしまった。大丈夫?」


アウリスは手早くロキを口座にしているロープを切った。そして、ボロボロになったロキを見て怒り震えた。


「お前! 何してくれてんだ!」


ロキを拉致した男の一人がアウリスに怒鳴るともう一人が剣を抜いた。アウリスは怒りのままに剣を相手に向ける。


「これが国の兵士がすることか! 許さない!」


アウリスから仕掛ける渾身の一撃は相手の剣を折り、そのまま首を斬った。その次に残った一人に向けて横なぎに剣を振り、相手が後ろに避けた所でさらに踏み込むと相手の体を蹴りつたまま後ろの壁に押さえつけて胸を剣で貫いた。


ようやく場が静まった所で、ロキに笑顔を向けた。


「ロキ立てる? 仲間が入り口でまだ戦ってるんだ。一緒に逃げよう!」


「なんだよ、剣を使えるんじゃねぇか……大丈夫じゃないけど立つよ。ちょっと待ってくれ……」


掠れた声で言ったロキは、散らばった荷物をリュックに乱暴に詰め直すと、首を失った男の懐から、奪われたお金を奪い返す。


「言っとくけど、これは元々俺の金だからな」


アウリスは笑顔で頷いた。


「じゃ! 行こう!」


アウリスとロキは廊下に出た。お金を奪った男達の顔を思いきり蹴る事をロキは忘れなかった。


「ライ! 助けたよ!」


アウリスはいまだ戦い続けていたライに向かって叫んだ。


「よっしゃー! んじゃ早いとこ出ようぜ!」


ライに近づくにつれて見えてきた光景に驚愕する。床にはおびただしい数のバラン兵の死体が転がっていたのだった。


凄い……

一人でこれだけの人数を相手してたのか


さすがにライも無数に切り傷を負っていた。背中の辺りは広く血が滲んでいる。


「ライ! その傷!」


「ん? ああ! 少ししくったが傷は浅い。大丈夫だ! 出口まで斬り開く! 行くぞ!」


ライを先頭に一気に外に飛び出した。


「西側が手薄なはずだ」


体の痛みに顔を歪ませたロキが苦しそうに言った。


「ロキ、その荷物僕が持つよ!」


アウリスがロキに言ったが断られたので強引に奪った。


「ホントはロキを背負ってもいいんだけどね」


「そんな恥ずかしい真似が出来るか!」


口調は強かったが表情は柔らかな感じがした。


意外に警備兵がいないな。このまま街を出ることが出来そうだ。

あとは追ってきている。バラン兵六人か


「そこの曲がり角で待ち伏せしようぜ!」


ライの提案にアウリスが頷き、角を曲がって建物と建物の間に潜む。切り伏せて追っ手を途切れさせたものの、遠くからすぐに新手が追ってくる。追い付かれるのは目に見えているので、逃げやすいように数を減らそうとする。バラン兵は曲がってからアウリス達の姿を見失い、右や左に顔を向けている。その隙にアウリスとライが斬り込みバラン兵六人を斬り倒した。


「あそこが出口だ! やったな!」


ロキが指差す方に門があった。


「門を固められる前に出よう」


あたりは暗くなりはじめていた。三人は走って街を出ると、近くの森の中に入った。ある程度進んだ所でようやく落ち着いた。


「はぁはあ、ここまで来たら大丈夫だよね?」


アウリスは比較的怪我が少ないがライとロキの傷が酷いので早く休ませたかった。


「ああ、そうだな。じきに暗くて何も見えなくなる。ここで一休みしようぜ」


そう言ってライが剣を下ろす。それなりに街から離れたとはいえ、周りから見つかりにくい窪んだ場所を見つけた。火を起こしても見つからない事が必須だった。完全に暗くなる前にロキがリュックから道具を出すと、集めた木に手際よく火をつけた。火を囲むように三人は座り、ロキが話始めた。


「助けてくれてありがとうな。二人が来なかったら俺は多分死んでた。何故あの場所がわかったんだ?」


「偶然街でロキが連れ去られるのを見たから。前に僕も助けてもらったしね」


改めて感謝を伝えたロキにアウリスは照れながら答える。


「そうか、嬉しいよ」


「ライ? でいいのか? 君も来てくれてありがとう」


「ああ、ライでいいぜ。まあ人助けは気持ちいいもんだ」


「二人とも、これを傷に塗ってくれ。傷薬だ」


ロキはリュックから小さな木の箱を取り出した。中身は白い軟膏が入っている。


「ありがとう」


「助かるぜ」


二人は順番に体の傷を確認し、各部位の傷に塗っていく。そして、ライは立ち上がるとズボンを下ろした。


「おっ おい! 何やってんだ!」


ロキが驚いてライに言った。


「別にここで用を足そうって訳じゃねぇよ、腿とか膝下も斬られたからこうした方が見やすいだろ?」


「そんなの向こうでやれよ!」


ロキは下半身が下着姿になったライに怒声を浴びせる。


「おいおい! ここを離れたら見えねぇよ。男同士なんだし気にするな」


夜の山中なら追っ手も来ないだろうと先程、火を焚いたので三人の姿はお互い見えるが少しでも焚き火から離れると真っ暗だった。


「俺は気にするんだよ!」


そう言ってロキは顔に傷薬を丹念に塗って、ここまでに来る途中にあった川で濡らした布を顔全体に被せて横になった。


「ロキは何故あの街にいたの?」


アウリスが横になったロキに聞いた


「近くを通ってたからついでに街の状況を見に寄ったんだ。前にも言ったが俺は薬の商人だからな。売れるなら商品を売ろうと思ったんだ。だが噂では聞いてたが、まさか街に入ってすぐ捕まるとは思わなかった」


「お前らも旅の途中だったのか? 争いを無くす旅だったか? 前に会った時は一人だったろ?」


思い出したようにロキが話しているとライが驚いた顔をしてアウリスに顔を向ける。


「争いを無くす旅? おいアウリス、お前の旅の目的はそうだったのか?」


二人の矢継ぎ早の疑問に答える前にロキが続ける。


「なんだ? ライは違う目的があるのか?」


ロキが濡れた布を顔から外して、体を起こすとライに尋ねた。


「まあな! 俺は伝説の剣を探す旅をアウリスとしてんだ」


予想外の返答に面食らったロキだが呆れたようにも見える。


「はっ? 伝説の剣? ガキだな」


「なっ!? ロキ! お前も似たような年だろ! ガキって言うな!」


ライの言葉にアウリスは以前に、自分がライに言われた言葉なのにと笑ってしまう。


「ふん、二人は年はいくつなんだ?」


ロキは別にどうでもいいとは思ったが話の流れのままに聞いてみた。


「僕は14才になったばかりだよ」


アウリスはガロに剣を教わった期間に誕生日を迎えた。その日はガロも一緒に食材を狩りにいってくれて、ささやかながらいつもより多い夕食で祝ってくれたのだった。


「俺も14才だぜ!」


ライが言った時、ロキが優越感に浸った顔でライを見下した。


「俺は16才だ。やっぱりライはガキだったな」


「嘘だろ!?その顔で年上かよ! 俺はてっきり年下だと思ってたぜ。まあそれはいいや! それよりアウリス、争いをなくしたいんだったら王になれよ! 王になって争いの無い国を作ればいい。俺は王の剣ラスティアテナだぜ? そしたら俺がお前の剣になってやるよ! っていうか、俺がアウリスを王にしてやるよ!」


「ええぇぇっ! ライ、なんで王様とか出てくるんだよ! 僕はただ争いを無くすために何かが出来ればいいと思ってるだけなんだから」


アウリスとライのやり取りにロキはさらに呆れさせられた。


「まったく! 伝説の剣だとか王になれだとか助けてもらって何だが馬鹿げてるぞ」


ロキは呆れたように言った。今、国で起きている大きな異変を三人はまだ知らない。


「だってよー、ラスティアテナは王の剣っていうが今の王には協力しないって言ってるし、このままじゃ爺や先代みたいに村の中で年だけとってしまうんだよ! そんなのは絶対に嫌なんだ。分かるだろ? だからアウリス! 王になれ! なっ?」


「いやいやいや、それは遠慮しておくよ。それより、ロキはこれからどうするの? 国を廻って商売をするの?」


素晴らしい思いつきをそれより扱いされて拗ねているライはひとまず置いといて、アウリスはロキのこれからの事が気になった。


「国を廻るなら一緒に行こうよ! どうかな?」


「一緒にって… まあ、さっき殺されたと思えばこれからの事は無かった話だからな。まあ戦闘以外はお前らは全然ダメな気がするし、しょうがねぇな。人生の先輩のロキ様が面倒を見てやるよ」


ロキはそう言って、腫れた顔で笑顔を作った。


「ありがとうロキ! 嬉しいよ」


「まあこれからよろしくな」


「へへへ! よろしく!」


これからも楽しくなりそうだとライは喜んでいる。少しの間雑談したその後、ライとロキは眠りに落ちたがアウリスは体を震わせていた。


人を殺してしまった…


覚悟は決めたはずなのに…


ちょっとした気配にライが目を覚ます。


「アウリス、眠れないのか?」


「うん。今日殺してしまった人達の顔が頭から離れなくて……」


「初めて殺ったのか? まあ初めはそんなもんだ。考えたってキリがない。あいつらを殺らなければロキが殺されてただろうし、他にも被害は広がってたと思うぜ」


「うん。やっぱり早くみんなが平和に暮らせる国になってほしいと思う」


「ああ、そうだな。そんな国になればいいな」


そう言ってライはまた眠った。


とにかく今出来ることを精一杯やろう


アウリスはまたひとつ心を決めた。


「……れ …… せば ……だ ……」


!?


誰? まさか追っ手か!?


アウリスは気を集中して辺りを見回して警戒する。周りには誰もいないのだが聞いた事がない声が聞こえた気がした。二人は眠っているし、周りには人のいる気配がなかった。


初めて人を殺めたからだとアウリスは一人納得した。


その夜、結局アウリスは一睡も出来なかった。

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