撃退
「化物め!」
「キーーー! 誰が化物ですって! 坊や!あの左の不細工な男を今すぐ殺りなさい!」
「ちょっ! そんな無茶な」
アウリスの攻撃は凄まじい。一つ剣を振れば大地が抉れ、また剣を振れば建物を砕きながら王国のエリート騎士を蹂躙している。
「レイア、もう少し力を抑えてくれない? 街が崩壊してしまう」
「何を言ってるのさ、坊やが馬鹿みたいに全力で私を振り回すからじゃない。失礼しちゃうわね」
えっ…僕のせいだったの…
じゃあ力を抑えて優しく
キンッ
極力優しく剣を振る事に意識すると、敵の剣を受け止める事が出来て、返す剣で敵の体だけを斬る事に成功する。
!?
ドゴゴゴゴッ
しかし、背後からの攻撃に対応すると先程と同様に破壊を撒き散らした。
日々の鍛練で体に染み付いた感覚がなかなか抜けずに咄嗟の時はつい力が入ってしまう。
力を抜きながら剣を振るのはかなり難しいのである。
惨状を目の前にヴァインズの心境は荒れていた。
エリートを選りすぐり、正義の執行者たりえる自分の配下達が次々と倒されていく。戦闘音を聞きつけて集結していた分、おそらく今回の作戦での生き残りはこの場にいる者だけだと確信する。そして、最後の一人が轟音と共に土煙の中で倒れた。
許さん
ヴァインズは剣先をアウリスに向けて氣を集中させる。鈍い光が広がり、徐々に剣先に光が収束すると一気に氣を込めて放つ。
ゾクッ
「坊や! 右!」
土煙の向こうから力の奔流が飛んでくる。一体何が向かってきているのか分からなかったが、アウリスは何であれ斬ると気合いを込めて上段から一気に振り下ろす。
ゴオオオオッ
光に込められた力の奔流は、剣閃の軌道で左右に切り分けられてアウリスを通過する。
危なかった…
実際当たればどうなるか分からなかったが、左右後方の破壊跡を見ればひとたまりもないと冷や汗が流れた。
馬鹿な…私の正義の力が…
ヴァインズは必殺の奥義でも仕留められなかった現実に夢でも見てるかの感覚に陥る。
「フフッ、こんなのは児戯に等しいわね。さあ坊や、本物というものを見せてやりなさい!」
「えっ! 何? 本物って?」
「ホントお馬鹿さんね、いいから気合いを込めてここからあいつに向かって斬ればいいのよ!」
そんな無茶苦茶な…説明もなしに何が何だか分からないよ
ともあれ、アウリスは気持ちを剣に集めるように込めていく。すると、身体中の熱い光のようなものが流れる感覚が分かった。
「いいわ!そのまま斬れ!坊や!」
「うおおおおっ!」
振り抜いた剣閃から赤い光が爆発的に解き放たれた。
ああああああっ!駄目だ!駄目だ!
一目でこの威力の破壊範囲が許容出来ないものになると確信したアウリスは、瞬時に氣を集中して剣を天に突き上げる。すると、赤い光線は軌道を変えて曲がり、天に向かって消えていった。残ったのは、直撃ではなく余波を受けたのであろうヴァインズが片腕を消失して、全身焼かれた姿で倒れていた。
光の軌道を曲げる事が出来て本当に良かったと安堵した。剣を背中の鞘に戻すと、全身の力がごっそりと無くなった感覚にアウリスも地面に突っ伏してしまう。
「あー、すっきりしたわぁ。じゃあまた眠るから起こしたら切り刻むわよー」
次の瞬間、アウリスの背中にいつもの重量が戻る。
グハッ
ああ! 死ぬ! 動けずに圧死する!
ぼやけた視界には、倒れたヴァインズが誰かに運ばれている所を捉えるが、そのまま暗転してしまう。
ロキをライの所に連れて行ったジンは、アウリスの所へと向かっていた。
「さっきの赤い光なんだけど、あれってアウリスだよね?」
[あの凶悪な竜氣は赤い竜で間違いないわ。ザカリナの洞窟で感じた氣と同じだもの]
移動中に天に向かって延びた光を見た瞬間に悪い予感がしたジンは、精霊のティナと一緒に光の元へと急いでいる。近付くほどに周囲の破壊跡が激しくなっていく。
無事なのだろうか
心の中が焦燥感で一杯だったが、遠くで倒れているアウリスの姿をようやく見つけることが出来た。
しかし、アウリスに向かって槍を構えた騎馬兵も同時に視認すると、一刻の猶予もないと判断する。
「ティナ!」
[オッケー!]
ジンが深く踏み込んだ瞬間に圧縮された風が、ジンとティナをアウリスの元へと運ぶ。
ガンッ
二騎の騎馬兵が左右に別れて疾走し、アウリスに向かって槍を投擲するが、高速移動してきたジンの盾と槍によって防ぐ事が出来た。
間に合った
追撃してこない?
怪我人を運んでいるのか
攻撃に失敗した騎士団兵だが、そのまま走り去って行ったのであった。