対騎士団
騎士団二人を相手にフェリスは防戦一方だった。容赦なく斬りつけられても、回避するか、弦を斬られないように弓で太刀筋をいなすかしか出来ない。二人がかりで連携されては矢を射ることもさせてもらえない。
「前から気に入らなかったんだよな。州候の弟だからって澄ましてよ。お前に騎士団は相応しくないのさ」
「ハッ、実力で敵わないからといって嫉妬しないでもらいたいのだが。それに、こんな騎士団なんかこちらから願い下げだ」
「お前!」
激昂した相手に大振りをさせながら、ようやく凌いでいる状況にフェリスは歯噛みする。
カイゼ達はまだ視界に捉えられる圏内だ。せめてもう少し時間を稼がなければ
狙いは定まらないが素早く矢を射り、注意を逸らさないようにする。
「クソッ! これは敵わない! 見逃してくれ!」
フェリスはカイゼが逃げた逆方向に走り出す。
「ハハハハハッ! いいぞ、面白くなってきたぜ。逃がすかよ。いくぞ!」
よし、釣れたか
騎士団二人は逃げるフェリスに気を良くしたのか、遊ぶように追い始めた。
通りが交わる所で走るアウリスと鉢合わせる。
「えっ!? フェリス?」
「薬屋! どけっ!」
「えっ! その鎧は!」
答える間もなくフェリスはアウリスを突飛ばし、敵の攻撃を回避するように横転する。それでも回避しきれず足を斬りつけられた。
それまでの攻防により傷だらけのフェリスに対して、アウリスの行動は決まっていた。
ガキン
フェリスに迫る斬擊を抜刀して受け止めると、もう一人の団員の攻撃がアウリスの首に迫る。
キン
それはライによって防がれた。それを見たフェリスは信じられないという表情で言葉を失う。
「なんだガキ共、邪魔をするな」
「あー、見た目通りの強さならいいんだけどよー。ガッカリさせんなよ?」
反撃とばかりにライが連擊を返すと、相手は捌ききれずに肩を切り裂かれる。
!?
さらに驚いたフェリスだが、次に現れた者達に顔を歪ませる。
「これはどういうことだ」
一際豪華な装飾をあしらえた青色の鎧の第七騎士団団長ヴァインズが、団員二名を引き連れてきた。
クソッ、ここまでか…
「フェリス、聞くまでもないが弁明はあるか」
「ありません。私は脱退します。今までお世話になりました」
「そうか、ならばその首を持ってお前の兄にも責任を取ってもらうとしよう。ん? 貴様はどこかで会ったな。たしかソルテモートの…フッ、そうか、あの魔法使いの縁者だな」
!?
ヴァインズがフェリスからアウリスに視線を移すと、目に喜色の色が浮かんだ。
まさか! たしかにあの村の!
フェリスもようやく思い出すが、今となれば何の意味もないことだった。ヴァインズの言葉にアウリスは答えずに、敵意を向けて剣を構えた。
「ここで手掛かりを得るとは、今日はいくつも結果が出て喜ばしい限りだ。おい、青髪は殺さず捕えろ、いけ」
ヴァインズのサインで追従した二人の騎士がアウリスとフェリスに向かう。
「おい! 俺を無視するんじゃねえ!」
アウリスに向かう騎士を横から斬りつけて勢いよくぶっ飛ばした。それを見たヴァインズは目を細める。
「フェリス! 助けたい人がいるんだよね? 早く行って!」
「薬屋、相手が誰か分かっているのか!」
「分かっているし、忘れない相手だよ。さあ、早く! ライも一緒に行って捕まってる人を助けてあげて!」
「おいおい! あいつは今のアウリスには無理だって! 俺がやってやる!」
「大丈夫! あいつは僕がやらなきゃ、そのために剣の腕を磨いてきたんだ」
「でも今は剣を振るのがやっとだろ! 殺されるのが分かってて置いていけるかよ!」
ライは向かう敵をまとめて弾き返すと、アウリスと目を合わせた。すると突然アウリスの手元から声があがる。
「ふぁーあ、良く寝たわ。ん? 何か気になると思って起きてみれば、坊や、いい氣をだしてるじゃない」
「レイア!?」
周囲を見回した様子で竜剣レイアは刀身を赤く光らせた。すると、アウリスの体に熱い氣が流れるのを感じた。
「フフフ、なんだか楽しそうね。少し遊んであげましょう。さあ坊や、いきなさい」
体勢を立て直した騎士に向けてアウリスが剣を合わせる。
軽い!
今までの重さが嘘のようにレイアの剣閃が疾る。
ドゴゴゴゴゴ
相手が剣を振り下ろすまでもなく胴体は二つに切れ、さらに後ろの地面と建物まで穿った。凄まじい程の破壊力にライとフェリスは絶句する。
!!!!
嘘! 何これ!
「レイア! ちょっと! これは!?」
「何さ、久しぶりの運動で気持ちがいいんだからもっと遊ばせなさいな」
え!?ええええええ!
とにかくこれならば戦える(?)と確認出来たアウリスは、自信をもって二人に告げる。
「ライ! フェリス! 行って!」
その言葉に二人は視線を交わす。
「分かった! レイアがいれば大丈夫そうだな」
「薬屋、死ぬなよ」
二人が行くのを見届けると、ヴァインズに向き直る。先程の破壊音を聞きつけて青色の騎士が続々と集まって包囲していく。
「何の魔法を使ったのかは知らんが、お前は危険だ」
ヴァインズが再び目配せをすると、騎士は一斉に襲いかかる。
「ハハハハハッ! 楽しませて頂戴ねえ」
アウリスの剣速は目で追えない程で、瞬きをする間に敵の体は二つに分かれていく。剣を合わせられたとしてもそのまま剣ごと体を断たれていった。それだけにとどまらず、周囲の建物も同様に斬り崩されていった。
ダメだダメだダメだ! どうか誰もいませんように
アウリスは加減が出来ないレイアの暴走に振り回されるのだった。