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kingdom fantasia  作者: 衛刀 乱
譲れない思い
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動きだす者

バラン州辺境の村 ラスティアテナ


ライのやつ、どこで遊んでいるんだ


ライの兄のゲインは夕暮れになった村の入り口でライの帰りを待っていた。別にライの事を心配しているという訳ではないが、夕食の材料のグルというバラン州辺境に生息する鹿を狩りに行ったきり、まだ帰ってきた様子がないので捕獲に苦戦しているものと思っている。


グルを狩るのにどれだけ時間がかかっているんだ。明日からまたしごいてやるか


ゲインはしばらく待っていたものの戻る気配がないと捉えると、昼の会議での議題にあがった村北東にある未開拓地の開拓準備の報告を済ませにガトーの所に向かった。


「おう、ゲインか。こっちに座りなさい」


「はい」


ゲインは報告を終えるとライの事を訊ねた。


「ライか、昼前に外部の少年を連れてきてのぅ。叩き出すよう言ったのじゃが、まだ戻っとらんのか?」


用事のあとに狩りに行ったのか


訳を知ったゲインはやれやれと思いながら家に戻ると、夕食の調理しているカイナから不満の声がかけられた。


「ライのやつ、遅すぎるだろ! 肝心の肉が無いとメインが出来ないよ。代わりに干し肉を煮込んでグルのレモンソテーは明日にするか。ゲイン、先に食べるかい」


調理場に立っているのは、ライの姉であり、ゲインの妹になるカイナである。男兄弟に挟まれてなのか生まれつきなのか、サバサバした性格で男勝りな気の強い性格をしている。

ライの両親は十年前に亡くなった。それ以来、三人の子供たちはガトーに色々教わっていたが生活は残された家で過ごしていた。


「遅いな」


暗くなり始めた窓の外を見ながら、今日は空が曇っているからじきに足元が見えなくなると感じる。


村に来た少年というのは余程幼い者だったのか、迷いこんだ幼い者を送ったとも考えられるが


ゲインはライが戻らない事には心配はしていない。ライが夜になっても家に戻らないことは珍しい事ではなかった。

実際、夜通し剣を振り、気を練る鍛練法もラスティアテナには存在する。


戻ってきたら聞いてみるか


ゲインはカイナと共に夕食を取り、部屋に戻って寝た。

翌朝、太陽が昇り始める時間にガトーが訪ねてきた。


「おはようカイナ、ゲインはいるか? すまんが巡回の当番の者に用事を頼んでしまったから代わりに出て欲しいんじゃ。ライでも構わんがのぅ。ん? ライはおらんのか」


朝のテーブルに二人分の皿しか出ていないことにガトーは眉をひそめる。席にはカイナが座っていて、ゲインが部屋から出てきたということはライの朝食が出ていないことになる。


「おはようございます。あれからまだ帰っていません」


「爺おはよう」


ゲインが答えたのとカイナが挨拶をしたのが同時だった。


「ふむ、まだ帰ってないのか」


何やら考える素振りをしていたガトーの目が急に大きく見開かれ、つられてカイナまで思わず目を見開いた。


「まさかあの少年についていったのではないのか。ゲイン、あやつはまだありもしない伝説の剣が欲しいだとかぬかしておるのか」


ライが伝説の剣という物を欲しがっていることは村人全員が知っていることではある。小さな頃からそればかり考えており、周りのみんなもいつもの話だと受け流している程だったが今から三年前にいよいよライが旅に出たいと言っていたのをガトーは思い出した。


「はい。最近は少なくなりましたが、少し前に名の知れた剣どこにあるのかといくつか聞いてきた事はありました」


「もはや疑いようがないのぅ。ライは村を出ておる。連れ戻さねば」


困ったような顔のガトーにカイナが言った。


「まあ黙って出ていったのは悪いと思うけどあいつももう子供じゃないんだから、別にいいんじゃないの? まだ腕は未熟でもそんじゃそこらの剣の腕では負けないよ。それに旅をして強くなってくるんじゃない? 特にあいつの精神年齢はまだまだガキだし、外の世界を見て成長すればいいんだよ」


「ならん! まだ早すぎる。それに、よりよって国が荒れるであろうこの時期に出ていくとは。ゲインよ、連れ戻して来るのじゃ」


眉間のしわをより深めたガトーの様子にこれは説得は無理そうだとカイナは諦める。


「あー、あの子の考えそうな事は予想がつくから、あたしが行くよ」


ゲインが返事をするより先にもう決めたとばかりに動き出したカイナがガトーに答える。


「お前は畑の仕事があるじゃろう。まあ、どちらが行ってくれても構わんのじゃが」


「二、三日の間だろうし畑はチシャに頼んどくよ。ゲイン、いいかい?」


「ああ」


朝食の片付けと旅支度を手早くしながら、カイナは膝まである丈の大きなマントに体を覆う。フードを顔が見えない程、深々と被ると、背中に双剣を担いで家を出た。


「じゃあ行ってくるよ 爺、馬借りてくね」


カイナの手際の良さに感心しながら、ガトーはカイナが小さい頃から活発で少々過ぎることもあり、ヒヤヒヤさせられた記憶をふと思い出した。


「大丈夫じゃろうか。何か心配じゃのう」


ガトーのその問いにはゲインは答えなかった。代わりに


「カイナももうラスティアテナの戦士です。カイナもライも幼い頃ほど弱くはない。それにライには才能があります。今はまだ大分荒削りですが、外の世界で学ぶ事も多いのでは」


ゲインは我が弟ながら、時折見せる才能の片鱗に羨ましさを感じる事もあった。そこまで心配する必要はないとは思っている。


「じゃからこそなのだ。まだ若過ぎる。ライは潜在能力ならこの村のなかでも図抜けておる。もしかしたら、先代を凌ぐやもしれん。それが開花したときの体の負担はまだ今のライの体には耐えられんのじゃ。それまでにここでしっかり土台を作らねば早々に死ぬ事になる」


ガトーもライの才能は高く評価していた。それゆえに先代が体を壊してしまった事をライには避けさせてやりたかったのだった。





ハルト王国 王都ロージリア


さあ、始めるぞ


王の間にいたセガロの瞳には狂気が宿り、口元は卑しく歪んでいる。足下には吐血して生気を失った死体が横たわっている。

倒れていたのはハルト王だった。間もなく王国全土にハルト王が病気により急死する。と触れを出す手筈になっている。


次は国葬と俺の王位即位式典か

手間がかかるが仕方あるまい


セガロは宮廷医師と衛兵を呼び、王の遺体を処理させてると国葬の指揮を取りに動き出した。





「宰相様は始めた頃だな」


ロージリア城内の作戦会議室にいる第五騎士団団長のグロースは楽しい事が始まったと言わんばかりに声を弾ませ、周りに言った。


「そろそろセガロ王と呼ぶ練習を始めねぇとな」


巨躯の持ち主である第八騎士団団長のワネゴバは外見に違わず大きな声で敬意の欠片も感じられない声音の戯れ言を言って楽しんでいる。


「一足先に持ち場につくぞ」


談笑など興味がないといわんばかりに席を立ったのは、第四騎士団団長ゲルケイルだ。


「せっかちはモテないわよー」


歩き出したゲルケイル冷やかすのは第六騎士団団長のマリーララ、この中で唯一の女性である。


フン


ゲルケイルはマリーララの相手をせず退室した。


「つれないわねー」


マリーララは誰かに同意を求めるように周りを見渡すが、皆が気にかける様子もなく戦準備に立ち上がったので、つまらなさそうに頬杖をついた。


この部屋にいた者達は、セガロの計画に全面的に賛成している訳ではないが、利害が一致して協力している者たちである。ここに居ない第二、三騎士団団長はロージリアから遠く離れた場所に任務として飛ばされている、セガロにとって障害となりうる者達である。第一騎士団は実力は皆が認めているが殆んど公の場には出てこない。第九騎士団団長は罪を犯したとして城内の牢に幽閉されており、第七騎士団は指名手配者を追跡中により不在である。


セガロの指示では、ハルト王急死の報が知れるとセガロを否定する貴族達が反逆する。その中でもマリオール州軍が地理的に一番近い、それをロージリア郊外で迎え撃つ。その後、南からヨリュカシアカ州軍が時間を置いて到着した所を続いて殲滅する。それから少なくとも半日以上の時間を置いて第二、三騎士団が来る。それまでにこちらの被害を補正しそれを撃滅する。予備軍として四つの団の後方にロージリア王都軍を配備し、敵の退路をゴア州軍で断つ。これまでの計画で磨り減らしたムトール州軍と弱兵のソルテモート州軍はバラン州軍で抑え込める。その後の反乱者はどうにでもなるというものだった。


セガロめ、これだけの状況を作るとはかなり前から準備していたな


ロージリア郊外に布陣するため、第五騎士団を率いて進軍を始めたグロースは、獅子の体に竜の翼を持つ獣に騎乗し、この作戦内容を確認していた。


まあ、戦が出来りゃ何だっていいさ


冬の冷たい風を切って第五騎士団は駆けていった。

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