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kingdom fantasia  作者: 衛刀 乱
旅の始まり
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旅の始まり

遠い記憶


崩れた家屋の中で天井や梁の下敷きになりながらも、奇跡的に倒れた家の柱により出来た隙間で気を失っていた。木が焼ける乾いた音で意識を取り戻す、痛みに顔を歪ませながらどうにか這い出ると、周りは焼け崩れた家々と死体が無数に転がっていた。あまりにも恐ろしい現実に何も考えられず、少年はその場で立ち尽くしていた。

やがて遠くから走って近づいてくる足音が止むと、少年の目線に合わせるように身を屈めた濃緑のマント姿の男が身を屈ませる。驚いた表情をしたのも束の間、悲しそうに声を絞り出した。


「君は……君の他には誰も生きていなかった……どこか行くあてはあるのかい?」


声をかけられた時に少年の目に涙が溢れて声をあげて泣いた。……ただただ泣いた……






数年後


「待ぁぁぁてぇぇぇ!」


木の蔓で編んだ籠を背負った黒い髪の少年の背後から叫び声が聞こえた。


「!?」


何やらレウロー鳥を先頭にローネと、続いてミラが右へ左へと走りながら凄い勢いでこちらへ駆けてくる。どうも飼育している檻から逃げたレウロー鳥を捕まえようとしている。


捕まえようしてローネが大きく踏み込み手を伸ばす。しかし、手応えはなく盛大に空振りしてしまうが、その両手で手を打ち音を鳴らすと忙しくローネが叫ぶ。


「アウリス! 捕まえて!」


「えっ!? えぇぇっ! わわわっ!」


前方からこちらに迫るレウロー鳥を見て、ようやく事態を理解したアウリスは、両手を伸ばして距離を詰める。そのはずが地面の木の根に躓き、派手に転げてしまった。


「キェキェキェッ」


「ぐぇっ!」


レウロー鳥は倒れたアウリスの頭を踏みつけるとそのまま走り続ける。


情けない声を漏らしたアウリスが鳥の行方を目で追うと、後ろから歩いてきたダンガスにいとも簡単に捕まったのだった。大きな体にボサボサの髪と髭が繋がった人の良さそうな目をしたダンガスは、豪快に笑いながらレウロー鳥の足を掴んで逆さまに持ち上げた。


レウロー鳥はアウリスが住む村レトがある地域の特産である。大きさは大人の膝丈程で、茶色の体はぼってりして翼はあるが飛べないという鳥だ。走る速さはそれほど速くはないが、俊敏さはそこそこ。


転倒の際に撒き散らしたリンゴやキノコを籠に入れ直したアウリスが見上げた先には、ブロンドの長髪を背中で一つに結わえたローネが、仁王立ちで立っていた。


「アウリス! なにやってんのよ! 危うく私が店長に怒られる所じゃないの! あっ、ダンガスさん、ありがとう!」


「ガッハッハ! ワシは慣れてるからな!」


いつのまにか紐で手際よくレウロー鳥の両足を縛り付けて、片手で胸に抱えたダンガスが、アウリスの横で立ち止まった。


「だって、いきなりだったから……」


小さな声で反論するアウリスの横に、ミラが肩に掛かるぐらいの赤色の髪を、フワつかせてしゃがみこんだ。


「アウリス大丈夫?」


「うん、平気」


やっと立ち上がって、服についた土埃を払う時には、ローネは受け取ったレウロー鳥を担ぎあげて、今来た道をもう走り出していた。


ミラが教えてくれた事情によると、どうやらローネが働いているマキナ亭で、食材として飼っているレウロー鳥を、仕込みのために檻から出したその時、突然キッチンからの爆発音に驚き、思わずレウロー鳥から手を離してしまってから捕獲劇が始まったらしい。


アウリスが住む村レトから少し離れた所に港町ポーランがあり、反対に向かって少し大きな街のラナカールがある。ポーランには歩いて二日の距離なのだがラナカールは七日ほどかかり、レトからはポーランが一番近い隣町になる。山の裾野にあるレトの周りには畑や果樹園が広がり、少し離れて木々が立ち並ぶ。その奥には妖精が住むという大きな湖があるがポーランとラナカールの中継地ともいえる。レトにはさほど多くはないが旅人や商隊、山の恵みを享受する近場に住む猟師が訪れている。その中に女性店主マキナの店があるのだが、田舎村では唯一の食事処で他に店といえば老夫婦が営む宿屋が一件あるくらいである。多くはないが村に訪れる人の為に開いているようなものなのだが、美味しいし値段も安いと評判が高く、村の独身男達も食べに来るのでマキナ亭は毎日忙しくしている。


「アウリス、新しいメニュー考えたからまた店に来なさい! じゃあねー!」


もう遠くまで走ったローネが思い出したように振り返り、手を挙げてアウリスに叫ぶとブンブン手を振ってまた走っていった。


はぁ、今度はどうなるんだろう……


アウリスの顔がひきつった。

ローネはアウリスとミラより二つ年上で、ミラと幼馴染みなのだが、アウリスがここに来てからというもの弟のように接してくれている。そしてローネが料理を作るようになると、新メニューを試食するという恐ろしい役目をアウリスが負うことになった。最初こそローネはキッチンに立たせてもらえなかったのだが、日々練習を重ねて今ではホールの片手間に簡単なメニューは作らせてもらえるようになったのである。そして、店の看板メニューを開発すると意気込んでは、アウリスに食べさせてあーでもないこーでもないと研鑽を積み重ねている。


思い出したくもない記憶が……


アウリスはふと自分に起きた事を思い返していた。キノコサラダを食べて一日中笑い続けたり、煙芋のスープを飲んで体から煙が出て止まらなくなったり、酷い時は二日間腹痛で悶絶した事もあったが、たまに会心の美味たる料理を味わう事もあった。


次は失敗作じゃければいいのだけれど……


そんな危険な事は断ればいいと言うのだがローネの押しの強い「光栄に思いなさい!」という言葉と、自分に親しくしてくれる友人には何だか断れないのだった。


「どうしたのアウリス? ぼうっとしてないで帰ろ? 帰って食事の仕度しなきゃ」


「うん。僕も薪割りしないと」


三人揃って歩き出した時に、ミラがダンガスに言った。


「お父さん、今日は村の会議でしょ? 急いでね」


ふと何の事かと目をしぱしぱさせたダンガスだったが何のことか思い出し、小さな目を大きく開いた。


「いけねぇ! そうだった、忘れてた」


慌てるダンガスだったがミラはいつものことだと思っている。


「少し遅れるかもしれません。と村長さんに伝えてあるから」


「おお! さすがワシの娘だ。では少し急ぐか」


ダンガスは破顔するとにっこり笑うミラの肩をポンポンと優しく叩いた。

そして、三人は日が傾いた夕暮れ前の道を、足早に歩いていった。

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