第一皇子の告白
脇役といえばボキュちゃん
私は「四つの州の国」の第一皇子、本名は秘密だ。正室を母とする唯一の皇子だ。
父上と母上は実の姉弟だ。母上はご自分が年上であることをずいぶん気にしておられたという。
「世継ぎを生まねば、捨てられて妹が正室になってしまう」
それが怖くて母上は立て続けに三人の男子を生むが、皆ひ弱で私以外は早逝してしまった。その頃から母上は少し変になられた。妙な占いに凝ったり、おかしなことを口走るようになった。
「側室が、あの女が呪いをかけたのです。あなただけは、私が守ってあげますからね」
あの女とは父上の従姉妹で側室のもと皇女のことらしかった。母上よりずいぶんとお若い方だった。そのお方ご自身も、第四皇子をお生みになった後は流産をなさったというのに、酷いことを仰るものだ。だいたい呪いならば母上のほうがよっぽど得意だろうに。
しかし母上は自分の意見が否定されると発作を起こすようになっていた。呪いから守るためと称して私を部屋に閉じ込め、小型女神像を崇めるようにと強要する。拒否すれば発作だ。父上も厄介ごとはお嫌いなようで、私が生け贄みたいなものだった。
いつしか世間では「人形遊びがお好きな虚弱な皇子では国が滅びる」と言われ、父上はためらう素振りもなく第四皇子を皇太子に指名した。この時も母上は「あの女のせいだ。かわいそうな子」と言い私を抱きしめて泣いた。いや、これっぽっちもあのお方のせいではないのだが。
だが、もう反論するのも抵抗するのも疲れた。私は部屋に籠って女神像の手入れをする。だんだんにありがたみすら感じるようになってきたから、慣れとは怖いものだ。そうしているうちに私は三十才を過ぎた。もちろん独身だ。若い女性に出会うこともないのだから。このまま年老いて、死んでいくのだなあと妙に悟った気分だった。
ところが!女神像を毎日磨いていた御利益か、月の女神と見まごうばかりの「南の風」が私の人生に現れたのだ。必死に厳しい訓練に耐え、求婚した。母上から離れるために婿入りも希望した。全てが嘘のように上手くいった。今は二人の子供に恵まれて、義弟殿の補佐という仕事にもやり甲斐を感じている。今でも毎日女神像を磨いている事だけは妻にも内緒だ。