梅、赤ん坊を護る
「梅、赤ん坊を護る」
梅之助「鬼の旦那」(16)山奥に住まうわけありの侍。
猫又「梅吉」(?)何故か梅之助を気に入り纏わりつく猫又の妖怪。
梅太郎「ぼん」(5ヶ月程)猫又の拾ってきた捨て子。
○梅之助の屋敷外の野原
猫又、梅太郎をあやす。
猫又「ああっほら、そっちはまだ行ったら駄目だってば!
ふう。ぼんはやんちゃでさあね。」
しばらく遊ぶ梅太郎と猫又、しのびよる影。
猫又「っと……。野犬の姿を借りた餓鬼のおでましですかい。
鬼の旦那がいねぇからって舐めてもらっちゃ困りまさあね。」
猫又、片腕に梅太郎、抱き上げる。
猫又「大気に満ちる塵よ、集まり燃え上がれっ!火炎お手玉!」
無数の大人の拳大の火の玉、猫又の手の平から放たれる。
妖怪、悲鳴をあげて逃げ出す。
猫又「ふう。ぼんは、と大丈夫みたいでさあね。
にしてもまやかし程度で騙される低脳で助かりやしたねぇ。
昼の猫又にゃそうそう何もないところから火を生み出すなんて芸当
できやしないでさあね。ぼんも覚えておくと良いでさあ。」
○梅之助の屋敷・座敷・夕方
梅之助と猫又、夕餉を囲む。
猫又「なんてことがあったんでさあ。」
梅之助「ふむ。今日の味噌汁はしじみが旨いな。」
猫又「って鬼の旦那、聞いてやすかい?」
梅之助「ん?ああ。梅太郎が狙われて危ないと言う話だな。」
猫又「……そりゃあそうですけどね、それだけじゃあないって言うか。」
梅之助「梅太郎がもう少し動けるようになったら
自分を護れるよう、鍛えねばならぬな。」
猫又「鬼の旦那自らしこむんですかい!?」
梅之助「何を驚いておる。育てるからには当然ではあるまいか。」
猫又「そうは言いやすけどね、鬼の旦那、
自分がどれほど強いか自覚なさってんですかねぇ。」
梅之助「それに私一人ではないぞ。猫又、お前も身のこなしなど教えてやれ。」
猫又「へいへい。
あっしだってぼんがそんじょそこらの妖怪にやられるのは嫌ですからね。」
梅之助「それと今日はご苦労であったな。まやかしのみで追い払うとは
意外とやるではないか。見直したぞ」
猫又「へいへい……って、ええっ!?へっそ、そりゃ、
あっしだってやるときゃやるんでさあ!へへっ」