梅、赤ん坊を名付ける
「梅、赤ん坊を名付ける」
梅之助「鬼の旦那」(16)山奥に住まうわけありの侍。
猫又「梅吉」(?)何故か梅之助を気に入り纏わりつく猫又の妖怪。
梅太郎「ぼん」(4ヶ月程)猫又の拾ってきた捨て子。
○林・夜
弓張り月に照らされた春の肌寒い夜の林の中、
梅之助と猫又、赤子攫った妖怪を追う。
梅之助「救いようのない魑魅魍魎風情がちょこまかとっ!梅吉!ややは任せたぞっ!」
猫又「へいへい。鬼の旦那は猫又使いが荒いこと、でっ!」
猫又、赤子抱える妖怪より前に飛び出る。
梅之助「ややを楯にして私の刀から逃れられると思うなよ……
ひい、ふう、みい、よお、
目を閉ざし、耳を塞ぎ、
いつ、むう、なな、やあ、
月の光に風を切り、我の心は凪にあり!
そこだっ!
鬼天流・一針淘汰!」
梅之助の居合い抜き、赤子避けて妖怪、貫く。
猫又「はい、きなすったぁ!うわっととと!」
猫又、放り出された赤子、掴まえる。
猫又「ああ、ようしようし、もう泣かなくて大丈夫だからなぁ。
怪我もなし、血も被ってない、さすが鬼の旦那でさぁ。」
梅之助「当然だ、と言いたいところだが、ほんの僅かな隙に
ややが屋敷を抜け出してしまった挙句、知能すらない
魑魅魍魎にさらわれる事態に陥ったのは私の不徳と致すところだ。」
猫又「まぁまぁ。そうかたく考えるこたあないんじゃないですかい。
ぼんがこんなにも動きまわるのにゃあ、あっしもびっくりしやしたけどねぇ。
これからちょびぃっと気ぃつけりゃあ良いことじゃないですかい?」
梅之助「ああ…そうだな……。そうしよう。
それにしても何故ややをさらおうと思ったのであろうな。」
猫又「そりゃあ、鬼神ごとき鬼の旦那の赤子を喰らえば
その強さにあやかれるとでも思ったんじゃあないですかねぇ。」
梅之助「何度でも言うが私は人間であって決して鬼ではないのだが」
猫又「にひひっ。鬼畜生も人も妖怪も躊躇いなく斬っちまう
鬼の旦那を見て人間だと思う妖怪はいねぇでさあ。」
梅之助「躊躇いがないのではない。
情け容赦をかけてはならぬものを斬っているだけに過ぎぬ。」
猫又「ま、どの道あっしにはできない真似でさあね。」
梅之助「……万人の歩むべき道ではないな。さて、お喋りはここまでにして帰るぞ。」
猫又「へいへい。それにしてもいい加減ぼんの名前は考えたんで?」
梅之助「……龍之介や虎次郎など強そうな名前を考えてみたのだがな」
猫又「……まぁ悪かあないでさぁ……」
梅之助「だがせっかく私とお前で梅之助と梅吉が揃っているのだから
お前の考えた『梅太郎』にしようと思う。」
猫又「……三梅でさあね!松竹梅と揃わねぇのがちったぁ残念ですけど
三梅でも十分目出度いでさあ!な、梅太郎!」