梅、赤ん坊を拾う
「梅、赤ん坊を拾う」
梅之助「鬼の旦那」(16)山奥に住まうわけありの侍。
猫又「梅吉」(?)何故か梅之助を気に入り纏わりつく猫又の妖怪。
赤子(4ヶ月程)猫又の拾ってきた捨て子。
○梅之助の屋敷・入り口
山奥にある梅之助の屋敷に猫又の梅吉、走りこんでくる。
猫又「た、大変だ~!!鬼の旦那!!鬼の旦那!
いらっしゃらないんですかい!?」
梅之助「『鬼の旦那』は知らぬな。梅之助ならここにおるが」
猫又「ああ!よかった!鬼の旦那いるんじゃないですかい!」
梅之助「だから『鬼の旦那』は知らぬと……猫又、お前何を持っている」
猫又「鬼の旦那だってあっしのこと『猫又』って呼ぶじゃないですかい……
ってそうなんでさぁ!さっきこれを沢のところで拾ってきたんでさぁ!」
梅之助「うわっ、急に渡すな!あっあっ、な、泣くなっ!!」
梅之助、赤ん坊渡されうろたえる。
猫又「さすが鬼の旦那。刀を持たせりゃ右に並ぶもんはいねぇですけど
赤子持った姿もその危なっかしい手つきに惚れ惚れしまさぁ」
梅之助「猫又、貴様適当なことを言って私に押し付けようとしておるな!」
大声にびっくりした赤ん坊、泣き始める。
梅之助「あ、ああよしよし、泣くな、頼むから泣くな」
猫又「いやいや。鬼の旦那こそあっしみたいな
しがない猫又の妖怪に何を期待してるんですかい」
梅之助「少なくともこのややを連れて来た経緯をもう少し詳しく
説明するぐらいはできるであろう」
猫又「経緯も何もありやしやせんでぇ。
今日も鬼の旦那にどんなちょっかいをしかけようかと
こちらに向かってやしたらおぎゃーおぎゃーと
声が聞こえるじゃあないですか。すわ妖怪のいたずらかと
警戒しながら泣き声に近づいたらこの赤子を見つけたって次第でさぁ」
梅之助「お前は一体私を何だと思っているのだ、とか
妖怪のくせに妖怪のいたずらを恐れるのかと色々と物申したいところだが
とりあえずこのややの親は見当たらなかったのだな?」
猫又「そうでさあね。あそこの沢は浅くなってやすからねぇ。
沢を渡って赤子を置いてまたそこを通って帰ったんじゃないですかい。
犬畜生ほどじゃぁないにしろ、あっしもそこそこに鼻は利きやすけどね、
あたりに何もにおいやせんでしたし、足跡も見当たらなかったでさあ」
梅之助「ふむ。となるとかわいそうだが口減らしだろうな。」
猫又「でしょうねぇ。人間たぁひでぇことをしなさるもんで。」
梅之助「さて。捨てる人間もおれば拾う人間もおるさ。」
猫又「じゃあこの赤子、育てるんで!?」
梅之助「まずは本当に捨て子であるかどうかを厳密に調べた上
誰も引き取り手がなかったら私たちで育てるしかないであろうよ。」
猫又「やった~!それじゃあ早速……
ってこの赤子まだ乳飲み子じゃあないんですかい?
いくら鬼の旦那でも乳は出せないんじゃ…」
梅之助「お前に乳が出せないのと同じで当然であろう……
当面は人里におりて乳母を探すしかあるまいよ。」