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Dragon Sword Saga3『砂漠の謎』  作者: かがみ透
第 Ⅱ 話 刺客
5/19

刺客(2)

「ひえーっ! 死霊アルよー! 」

 ガイドの男チョウが、頭を抱えて伏せている。

 空には、無数の白いふわふわしたものが浮かんでいた。

 よく見ると、それは、生気のない人間の顔であったり、ウマやダグラ、その他には、

大型動物から小動物まで、いろいろな姿形があった。

 噂通り、砂漠で死んでいったものたちの死霊なのだろう。 

 ケインの手が、マスターソードに伸びるが、マリスもロングブレードに手をかけた

まま、まだ抜こうとはしない。

 『彼ら』が襲ってくるような気配は、今のところなく、ふわふわと揺れながら、た

だ空中を漂っているのであった。

「『この人たち』は、成仏できなかった人たちなんだわ! 」

 顔を伏せていたクレアは立ち上がり、空を見上げて、語りかけた。

「どうしたのです? あなたたちは、何を訴えたいのです? 良かったら、私に話し

てごらんなさい」

 クレアが片方の手を差し延べて、霊たちに問いかける。

「……ええ、……ええ、……まあ! そんなことが! 」

 ケインたちには、何が起きているのか、よくわからなかったが、クレアは親身にな

って、頷いている。巫女だった経験を生かして、幽霊たちと交信を試みているらしか

った。

「大昔、ここで起こった大洪水によって、亡くなったという方が大半だわ。後は、や

はり、砂漠の厳しさに付いていけずに……ああ! なんて可哀相! 」

 クレアは、両手で顔を覆い、泣き出した。カイルがその横に並び、肩を抱いたが、

それには気が付かないまま、スッと彼女は顔を上げた。

「わかりました。私に任せてください。白魔法の究極奥義で、あなた方を救って差し

上げるわ! 」

 祈るように両手を組み合わせ、目を閉じ、呪文を唱え始める。

 途端に、白い幽霊たちは、ざわめき、一斉にクレアに襲いかかっていったのだっ

た! 

「クレア! 」

 駆け出そうとするケインとマリスを、ヴァルドリューズが手で制した。

「究極奥義の魔法の時は、呪文を唱えると同時に、術者は結界で守られる」

 その言葉通り、クレアの周りには、薄く白い膜のようなものが出来ていて、霊たち

は、それ以上、彼女に近寄ることは出来なかった。

 ――が

「おーい! 俺はどうなるんだよー! 」

 クレアの隣にいたカイルが、魔法剣を抜いて、襲いかかる死霊たちを、ばさばさ切

り裂いていくが、霊たちは、切られても、切られても、すぐに切り口同士がくっつき、

復活していた。

 カイルを援護しに、ケインとマリスが向かう。

 マスターソードで死霊たちを切り裂くが、やはりすぐにつながってしまう上に、ケ

インは、なんとなく、『キレが悪い』気がした。

 いつもの魔物とは勝手が違うようで、剣の中のダーク・ドラゴンも食わないように

感じる。

「クレア、まだかよ!? 」

 カイルが振り返るが、まだ呪文は唱え終わらない。

「えーい、面倒だ! サイバー・ウェイブ! 」

 久々に、カイルが魔法剣の魔法を発した。

 剣から吹き出す銀色の霊気が、死霊たちを両断する! 

 その霊気が通った後だけ、白い霊たちは、きれいに消えていた。

「そうか! カイルの技も『浄化』だから、死霊に効いたんだ! 」

 マスターソードで霊たちを切り裂きながら、ケインは言った。

「そっか! じゃあ、もういっちょいくぜ! サイバー・ウェイブ! 」

 銀色のうねりは、ぎゅるぎゅると死霊たちを消していく。

 それにまかせて、ケインとマリスは、離れて見ていた。


 その時、クレアの瞳が、パチッと開いた。 

「長らくさまよい、たゆたいしものたちよ。今こそ、永遠の安らぎに、その身を委ね

よ! 」

 彼女の大きく開かれた両手からは、白い炎が発射された! 


 ぐぉぉぉおおおおおお! 

 ごわああぁぁぁああああああ!


 勢いよく天に伸びていく白い炎に巻かれた霊たちは、恐ろしい、まるで断末魔の

叫び声のような音を発して、消滅していく。

「良かった! ちゃんと成仏していってるわ! 」

 クレアは、涙にぬれた頬も乾き切らずに、微笑む。

「さあ、あなたたちも成仏よ! 」

 また別の方向に向かって両手を翳す。


 ぐぎゃああぁぁぁああぉぉおおお! 


 やはり、悲鳴のような、叫び声のような音が発せられている。


「はい、成仏! 」

 があああぁぁぁぁあああ! 

 ごほおおおぉぉぉぉおおお! 


「ああ、皆さん、喜んでらっしゃる! 良かった! 」

 クレアが、美しい笑顔で空を見上げる。

 霊たちは苦しそうな声を上げ、『成仏』というより、『消滅』していってるように、

クレア以外には思えた。

 死霊は、続々と消えていった。

 カイルも、いつの間にか引き下がり、ケインたちと並び、ぽかんと口を開けて、

その様子に見入っている。

 シャーッ! と数匹の霊たちが、クレアの後ろに回った!

「はいはい、慌てないで。順番よ」

 彼女の放った白い炎が、その霊たちを包み込む――というより、当てられた。

 そして、やはり、『彼ら』は、悲惨な絶叫を残して消えてゆく。

 今や、死霊たちは、残すところ、僅かになってしまった。

「アイヤー! お嬢さん、巫女さんだったアルか!? 」

 すべての霊がやられ――もとい、成仏した後、案内人チョウが、ビックリして目を

パチクリしていた。

「これで、砂漠に現れる死霊はいなくなりましたわ。これからは、皆さん、ご安心し

てここを通られると思います」

 クレアが、にこやかに笑顔で言った。

「これなら、安心して眠れるアルな! いやあ、良かったアル! 」

 チョウは、何度もクレアに頭を下げた後、寝袋を取り出し、砂地に敷いて、さっそ

く中に包まった。

 一行も、いつもの寝袋に、それぞれ入り込んだ。


「ケイン」

 強くゆさぶられ、ケインがうっすら目を開くと、カイルであった。

「どうした? 」

「シッ。妙な感じがする。ここから離れた方がいい……! 」

 押し殺した声でカイルが言い、魔法剣を見せた。

 彼の魔法剣には、災いを予知する能力がある。その魔法剣の知らせによるもので

あった。 

「みんなは? マリスたちは……」

 もぞもぞと、寝袋の中で、簡単に身支度をしながら、ケインが小声で聞く。

「ヴァルとミュミュはいない。あのガイドのおっちゃんもいなくなってる。俺は、

マリスとクレアを起こしてくる」

 カイルは、すぐ後ろで寝ている二人の方へ行く。

 ケインは身体を起こし、真っ暗な周りの様子に気を配る。

 なんとなく、空気が生暖かいような、変な感じがした。


 その時、闇の中には、いくつもの光るもの――目のようなものが一斉に浮かび

上がったのだった。 

「魔物だ! 」

 後ろにいるカイルたちに向かい、ケインが叫んだ。


 飛んで来たカイル、クレア、マリスとケインは、背中合わせに固まった。

「ひゃひゃひゃひゃひゃ! 」

 声のする方を見上げると、黒いフード付きマントを被った、茶褐色の肌の太った男

が、空から舞い降りてきた! 

「……やっぱり、てめえだったか! 」

 カイルが舌打ちした。

 下りて来たのは、案内人のチョウだった! 

「ワタシ、タイラ国の魔道士チョウだったアルよ! 」

チョウは、ふわふわ飛びながら言った。

「ラータン・マオのあの魔道士、偵察に行ったネ。彼は手強い。ラータンでも有名な

宮廷魔道士だったアルよ。ワタシ、ベアトリクスから聞いた。お前の首、賞金かかっ

てる。だから、彼のいない間、お前、捕えて、ベアトリクスに引き渡すアルよ! 」

 ふぉっふぉっと、チョウが笑う。

「ふん、バレてちゃあ、しょうがないわね。わざわざ下手な芝居なんか、するんじゃ

なかったわ」

 マリスが、不適な笑いを向ける。

「できるもんなら、やってみなさい! 」

 マリスが、ずいっと進み出て、ロングブレードを引き抜いた。

 チョウは、空中から、一本の(ロッド)を取り出すと、それを彼らの方へ傾けると

同時に、そこにいた光る眼のモンスターたちが、一斉に姿を現し、彼らに向かって、

飛びかかって来たのだった。

 それらは、既に見慣れた獣人タイプのモンスターだ。

 剣を持った三人は、ばさばさと切り裂いて行き、クレアも得意の炎の術を発射させ

ようと、両手を翳すが――

 ポッ

 彼女のてのひらからは、小さな炎しか出ず、すぐに消えてしまった。

「ひゃひゃひゃひゃ! そのお嬢ちゃんは、さっきの究極奥義で、魔力を使い果たし

てしまったアルよ! 」

 クレアは、はっとして魔道士を見上げた。

「もしかして、あの死霊は、あなたが集めてきたのでは……!? 」

「その通りアル! 本当は、あのラータンの魔道士の魔力を削り取ろうと思ったアル

が、巫女のお嬢ちゃんが一緒だったとは、ワタシも計算違いだったアルよ! 

 だけど、こうやって、いかにも計算通りのように、コトが運んでいるアル! 

良かったアルよ! 」

 チョウは、手を叩いて、おどけてみせた。

「尊い霊たちを思いのままに操り、踏み(にじ)るなんて、許せないわ! あなた、

覚悟なさい! 」

 クレアが怒りを露に、人差し指をチョウに差し向けた。

「魔力のほとんどないあんたが、どうやってワタシと戦うね? ひょひょひょひょ! 」

 チョウが片手で腹を押さえて、笑う。

 クレアは、実戦ではあまり抜いたことのない、マリスにもらった剣を、ゆっくりと

鞘から引き抜き、構えた。

「ベアトリクスの名前が出たからには、あんたの好きにはさせないわ! 」

 マリスが、ダッシュし、チョウに剣を振り下ろす。チョウの杖が、それを受け止め

た。

「ケイン、カイル! クレアを援護して! 」

 マリスが剣を魔道士に打ち下ろし、振り返らずに叫ぶ。

 ケインは、クレアの盾代わりにと、バスターブレードを地面に突き刺した。クレア

は、なんとか戦う。その両脇を、ケインとカイルで固め、モンスターたちに応戦して

いった。

「いい長剣(ロングブレード)アルね。ラータンの魔道士が魔力を吹き込んだアルか? 」

 チョウは、ひゃっひゃっと笑い声を上げる。

「ベアトリクスでは、今、血眼になってお前を探しているそうアルよ。他にも、お前

を捜しているものは多いと聞くアル。一体、何をしでかしたアルか? 」

 チョウは、てのひらから電光を、マリスに向かい発射した! 

 それを、彼女のロングブレードが防ぐ。

 チョウの電光術は素早く、威力もあるようで、マリスの剣に弾き返された後も、

勢いよく飛び散って行ったのだった。

 その様子からは、チョウは、意外にも、腕が立つらしいことが伺える。


 ふいに、マリスが、飛び退()き、キッと睨んだ。

「あんた、わざと、あたしの剣狙ってるでしょう? 」

 チョウは笑った。

「ふぉっふぉっ、わかってしまったアルか! だが、もう一息ネ! 」

 そう言って彼が放ったのは、両手で抱えるほどの大きな岩の塊だった。

 はっと、マリスが剣で防御したが、剣に接触したところから緑色の電光が走り、

マリスの剣は軋みを立てて、割れたのだった!

 その衝撃で、彼女の身体が吹き飛ぶ。

「マリス! 」

 ケインたちが、一斉に、マリスを振り返る。

「ひゃひゃひゃひゃひゃ! 」

 ゆっくりと、太った魔道士の姿が、地面に降り立った。それを、片膝をついた

マリスが、睨みつけた。

「あんた、『メテオ』の術を――! 」

 それは、彼らも今まで目にしたことのない技であった。

「いかにもアル。そこらへんの魔道士たちには、ちょっとできない技アルよ」

 チョウは得意そうに笑い、マリスに近付いていく。

「あれは、この地上の、どの石とも違う物質でできてる石アル。それを、別次元から

取り出したアル。多少の魔力は効かないアルよ! 」

 ケインは、ちらっと思った。

(別次元の石というと、……マスターソードの魔石と同じように、魔力を封じ込める

ような……? )

 チョウは、両手を上に向け、呪文を唱え始めた。

 すると、先程の『メテオ』と同じような、だが透明の岩が現れたのだった。

「お嬢さんは、魔力が強過ぎるアルからな。この中に入れて運ぶアル。これなら、

あんたの発する魔力を辿って、あの魔道士がワタシ追ってくるの、ちょっと難しく

なるアルよ。さあ、くるアル! 」

 チョウが、マリスの腕を掴む前に、ケインが駆け出していたが、それを待つまでも

なく、マリスがチョウをぶん投げ、素早く馬乗りになった。 

「このあたしを捕まえようなんて、百年早いのよ! 」

 マリスは、チョウの腕を背中に回し、締め付け、後ろから首を脚で固めて、押さえ

つけていた。

「アイヤー! 痛いアルよ! 」

 苦しそうに、チョウは悲鳴を上げる。

 駆け出したケインは、すべって転んでいた。それを、カイルが目を点にして見てい

た。

「よくも、あたしの大事な剣を折ってくれたわね!? このちびブタ! 覚悟しなさ

い! 首をへし折ってやるから! 」

(ひゃーっ! )ケイン、カイル、クレアが、心の悲鳴を上げた。

「痛い、痛い! やめるアルよー! 」チョウが泣きそうな声を上げた。

「なによ、こんな岩! 」

 マリスは、宙に浮かんでいる透明の岩に、右拳をくらわせ、ぶち壊した。

 岩は、ガラス玉のように、こなごなに砕け散ってしまった。

 それを間近で見たチョウは、驚きと恐怖の悲鳴を上げていた。

「どうやら、あたしの魔力は、あんな岩ごときじゃあ吸収出来ないみたいね。お生憎

(あいにく)さま! 」

「アイヤーッ! 」

 マリスの高らかな笑い声に、チョウは再び悲鳴を上げる。

「あんた、ベアトリクスのなんなの? タイラとあの国は国交なんてなかったはずよ。

ああ、その前に、あそこの獣人モンスタたち、引っ込めてちょうだい」

 マリスに首と腕を押さえつけられ、苦しそうな呻き声を上げながら、チョウは短い

呪文を唱える。すると、今までカイルたちが切っていた獣人モンスターたちは、忽然

(こつぜん)といなくなった。

「それでいいわ。さあ、吐いてもらうわよ。あんたが、なんでベアトリクスと関係

あんのか」

 首を押さえつけていた脚を余計に絡み付けて、マリスは言った。

「アイヤッ、アイヤーッ! ワタシ、ベアトリクスの宮廷魔道士のひとりとトモダチ

アルよー! 」

 チョウは、ほとんど泣き叫んでいた。

「ベアトリクスは魔道士団と騎士団に分けて、本格的にお前を捜すことにしたアルよ!

ワタシ、トモダチに頼まれただけアル! 」

 ぎりぎりとマリスに腕を締め付けられ、なおも悲鳴を上げる。

「それだけじゃあ、納得のいかないことがあるのよ。あんた、あたしとヴァルが、

邪神を呼び出してどうのこうのって、言ってたわね? ベアトリクスが、そんなこと

言うわけないのは、わかってるんだからね! あれは、どういうことなのよ! 」

「ひゃあっ! 痛いアル! あ、あれは、ある時、ワタシのトモダチに妙な触れ込み

があったと聞いたアルよ! お前が、あの魔道士と組んで、邪神を召喚してるって! 

ワタシ、それをそのまま言っただけよ! ほんとは、よく知らなかったアルよ! 」

 マリスの目が、ぎらっと光る。

「その、タレ込んだヤツって、誰? 」

「知らないアル! そこまでは、知らないアルよ! ほんとアルよー! 」

 マリスが、チョウを突き放して転がした。チョウは、呻き声を上げながら、腕をさ

すり、上半身を起こした。

「情報を流したのは、多分、『蒼い大魔道士』の一派だわ。あたしを追っているベア

トリクスの魔道士団の中には、ヤツの息のかかった者も、紛れ込んでいるでしょうね」

 マリスが、冷静な表情で呟く。

「『蒼い大魔道士』! またあいつか!? 」

 マリスは、そう言ったケインに頷いてみせた。

「あいつは、ベアトリクスを付け狙っている。あの国に、協力するよう見せかけて、

いずれ自分のものにしようと企んでるに違いないわ。なんとなく、以前、じいちゃん

から聞いた気がする」

「じゃあ、ベアトリクスの魔道士団て……結構、手強いんじゃ……? あそこは、

騎士たちだって、凄腕が集まってるって聞くし……」

 ケインの言ったことに、クレアが心配そうに、両手を組み合わせる。カイルも、

いつになく真面目な顔になっている。

 チョウが、こそこそと逃げ出す体勢になっていたが、

「アイヤーッ! 」

 マリスが彼の胸ぐらを引っ掴んだ。

 彼女の面は、いつもの自信に満ちた、あの不適な笑顔だった! 

「ベアトリクスの騎士団に魔道士団――上等じゃないの! あのクソ女王陛下に伝え

るがいいわ! 『捕まえられるもんなら、捕まえてみろ! 』って。あたしは、いつ

でも、受けて立ってやるってね! 」

 そう言ってチョウを放り出すと、マリスは、両手を腰に当てて、高笑いした。

 その様子は、出会ったばかりの女剣士スーというよりも、それこそマリスの操る

『獣神サンダガー』に、そっくりであった。

「アホかーっ! 宣戦布告してどうする!? なんで、お前は、わざわざ自分から厄

介事を招き寄せるんだ!? 」

 喚いているケインに、彼女は、けろっとした視線を向ける。

「あら、敵が多ければ、それだけ暴れられるじゃない? 敵なら手加減することもな

く、やっつけられるもの。それなら、あたしの暴れたい衝動も解決するし、ケインに

ばかり負担かけないで済むじゃない? 」

「こ、この減らず口……! 」と、呆れるケイン。

 いつの間にか、魔道士チョウが消えていたが、一行にはそれどころではなかった。


「ヴァルドリューズさん! 」

 そのクレアの声で、カイル、ケイン、マリスは振り向いた。

 そこには、ミュミュを肩に乗せて、いつの間にか、ヴァルドリューズが静かに

立っていた。

 皆を見回してから、ヴァルドリューズが口を開く。

「次元の穴の場所は、だいたいわかった。そして、この砂漠を越えたところに、村が

あった」

「村だって!? やったー! これで、やっと人間らしい生活ができるぜーっ! 」

 カイルが大喜びして、小躍りする。

 辺りは、もう明け方に近く、薄明るい。

 一行は、このまま出発することになった。


「お前、チョウの正体に気付いてたんじゃないのか? 」

 ウマに乗る前に、ケインはヴァルドリューズに、こっそり尋ねる。

「私が姿を消せば、奴は本性を現すと思っていた」

 普段通りの、抑揚のない口調で、ヴァルドリューズは答えた。

「俺たちが戦っていたのも、見てたのか? 」

 ヴァルドリューズは、頷いた。

「マリスが危なくなったら、出ていこうと思っていた。私にも、彼女の『素の力』

――『サンダガー』を召喚していない時の普段の力――を知る必要があるのだ。だが、

彼女は、以前よりも力を増しているような気がする」

「そうなのか……」

 ケインは、少し考えてから、彼を見上げた。

「……あのさあ、マリス見てて、ちょっと気になったんだけど、……『サンダガー』

を召喚するようになってから、伝説のゴールド・メタル・ビーストみたいに、食欲が

旺盛にはなるし、暴れてないと気が済まなくなったって聞いたけど、サンダガーは別

次元から呼び出して、彼女に乗り移らせてるだけなんだろ? だったら、普段の彼女

は、なんともないはずじゃないのかな? 」

 ヴァルドリューズの瞳が僅かに光った。

 確認するように、ケインは、もう一度、見つめ直した。

 しばらくしてから、ヴァルドリューズが、重々しく口を開く。

「お前もそう思ったか……。私も、以前から、そのことは、不審に思っていたのだが、

『サンダガー』の召喚に関することを探ろうとすると、なぜか、魔神『グルーヌ・

ルー』が拒んでしまうのだ。だが、いずれ調べてみるつもりだ。もしかすると……」

 ヴァルドリューズは、その続きを口にするのさえも、躊躇(ためら)っているようだ

った。

 その代わりに、彼が口にした言葉は――

「お前は、彼女の教育係に向いているのかも知れんな」

 彼は珍しく、ちょっとだけ微笑むと、ケインの肩に、ぽんと手を置いたのだった。

 「これからも頼む」とでもいうように。

「……ヴァル、お前も、きっと、マリスには手を焼いてきたんだろうな。同情するよ」

 ヴァルドリューズに同情しながらも、なんだか、厄介事を押し付けられたような気

もしたケインであった。


アルアルキャラ、忘れた頃にまた出て来るかも??


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