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Dragon Sword Saga3『砂漠の謎』  作者: かがみ透
第 Ⅱ 話 刺客
4/19

刺客(1)

 それから、しばらく進み、一行は休憩を取る。

 周りは、相変わらずの荒野で、前方にはひどい砂埃が見える。

 マリスが予告した通り、そのあたりから砂漠に入るようになる。

「やっぱり、砂漠を通らなくちゃいけないのかしら」

 クレアが、不安そうな表情で、ケインに尋ねた。

「どうかな。ヴァル、次元の穴は、どの辺か、もうわかるか? 」

 ケインはウマから下りて、木陰で座っているヴァルを見るが、彼はピクリとも動か

ない。瞑想に入っているようだ。

 邪魔をしてはいけないと思ったミュミュが飛んできて、ケインの肩に止まり、一行

を見回した。

「ミュミュも魔物のいるところくらい、わかるよ。今のところは何もいないみたい。

それに、妖精の力は、人間の魔力と違って減ることはないんだよー」

「だったら、ミュミュ、見てこいよ」

 ケインが言うと、彼女は目を見開いた。

「やだっ! 何かあっても、ヴァルのお兄ちゃんは瞑想中だし、誰もミュミュのこと

助けらんないじゃないの! だから、やだよー」

「……あ、そう……」

 ケインは、仕方のなさそうに横目でミュミュを見る。

 ふと、別の木陰では、カイルが地面に倒れ込んで、呻き声を上げていた。

「どうした、カイル? へばったのか? 」

 ケインは、彼に近寄っていく。クレアも、後に続いた。

「……な……んな……おんな……」

 彼の呻き声が聞き取れると、クレアは呆れた顔になって、戻って行った。

「……おい……」

 ケインも呆れて、カイルの肩を揺さぶるが、俯せたまま、カイルがぶつぶつ言い

出す。

「アストーレを出て、何日経ったっけ? 」

「何日って……、まだ一週間くらいじゃないのか? 」

「一週間!? まだそんなもんだったのか!? 俺はまた一ヶ月以上も経っちまった

かと思ったぜ」

「だって、何晩寝たか、思い出してみろよ。そんなに経ってないはずだろ? 」

「そんなもん、思い出したくもねえよ! ごつごつした岩場か、マシなところで

さえ、草むらの上だ。

 柔らかいベッドの代わりに、寝袋なんかでスマキになって……それに、もうずっと

女の子とデートしてない。喋ったり、お茶もすらも。こんなことは、いくさ以来だ! 」

 ケインは、呆れてカイルを見下ろしていた。

「砂漠になんか行ったら、ますます女が遠のいていく。ああ! いったい、いつに

なったら、町やら村やらに着くんだ!? 」

「あのなあ、俺たちは、次元の穴を探してるんだぞ。町や村を観光しに行ってるわけ

じゃないんだから」

 ケインは、無理矢理カイルを抱き起こして、座らせた。

「お前もヴァルみたいに瞑想して、煩悩を追い払ったらどうだ? そうすれば、女が

いなくても、辛くないだろ? 」

 冗談混じりにケインが言うが、彼の耳には全く入っていない様子だった。

「ああ、スーちゃんみたいな刺激的なカッコ見せられると、余計に(ひと)恋しく

なっちゃうよなー。一ヶ月も、この俺が女の子と遊んでないなんて……! 」

「だから、一週間だってば。お前、スーちゃんのこと、あんまりよく言ってなかった

じゃないか。露出は抑えてでも、しとやかで、ほのかに香る色気の方がいいって。

まーったく、言うことがコロコロ変わるんだから」

 思わず呆れた言葉が、ケインの口をついて出ていた。

「お前さあ、スーちゃんと初めて会った時、なんでマリスがあんなに怒ったのか、

わかるか? 」

 すわった目をしたまま、カイルが言った。

「突然何を言い出すんだよ」

「アストーレで、マリスは、マリユス・ミラーって名乗って、少年騎士を装ってただ

ろ? 自分から男装してたし、いろんなヤツに男扱いされても、ずっと平気だったの

に、なんでスーちゃんには珍しく感情をさらけ出して怒ってたのか」

「それは、スーちゃんが、あからさまに挑発したからじゃないのか? 」

 カイルは首を振って、人差し指を立ててみせた。

「俺が思うには、マリスは、自分の女としての自信があんまりないんだよ。だから、

スーちゃんとかマリリンみたいに『女らしい』やつらを見ると、羨ましくて嫉妬し

ちゃうんだろう」

「……ひどいこと言うなー」

「あいつだって、スタイルはいいし、色気が全然ないわけじゃないんだけど、どうし

ても、女性的っていうよりは、中性的じゃん? 年の割には大人びてるけど、スー

ちゃんの色気は、あれは年の功だ。いくらマリスが頑張っても、すぐに身に付くもん

じゃない。コンプレックスを刺激されたから、あんなに怒ってたんだよ」

 カイルは、いつの間にか元気を取り戻していて、生き生きと喋っていた。

(なるほど、ヤツの原動力は、やはり『女』なのか。女の話をしているだけで、こん

なに元気が湧いてくるとは)

 ケインは、妙なことに感心した。

「それで、お前、マリスとはどうなんだ? 」

「は!? 」

 唐突なカイルの質問に、ケインは面食らった。

「トボケるなよ。アストーレでお姫さんと結婚しなかったのは、マリスに惚れてた

からだろう? だから、一緒に旅することにしたんだろう? 」

 カイルは、ふざけてケインの首に巻き付き、締め上げた。

「ち、違うってば! 」

「ウソつけ! でなきゃ、なんでアストーレを出て、その上、マリスにくっついて

回ってるんだよ。それって、好きだからだろ? 白状しちゃえよ! 」

 カイルは、マリスの素性は知らない。ここで、ベアトリクス王女であることを打ち

明けるのは、彼女の意志ではないのは、ケインもわかっていた。

 苦し紛れに、なんとか脱出を試みる。

「カイル、お前こそ、実はマリスが好きなんじゃないのか? さっきからマリスの話

ばかりだし、俺に、こんなにしつこく彼女のこと聞くのが、その証拠じゃないか」

 ぱっと、彼の手がケインから離れた。

「な……なんで、わかったんだ!? 」

「なに!? ホントだったのか!? 」

 カイルは、ぷっと吹き出し、腹を抱えて笑い出した。

「じょーだんだよ、じょーだん! ああ、おかしー! ケインて、からかうとおもし

れーな! また頼むわ! 」

 彼は、笑い過ぎて目尻に涙を浮かべながら、ケインの肩をぽんぽん叩いた。

 ケインは、口をあんぐり開けたまま、怒る気力も湧かなかった。


「ヴァルが瞑想から戻る前に、あたしも身体を動かしておこうかしら」

 マリスが腕を回しながら、ケインとカイルのところへやってきた。

「ケイン、特訓するから付き合って。あっちに木陰がちょこちょこあったの。そこで

どう? 」

 カイルにからかわれた後で、ケインはカイルの視線が気になった。

「わざわざ場所変えるなんて、アヤシイなぁ~。ホントに特訓かねぇ」

 案の定、カイルが口笛を吹いて冷やかす。

 マリスは、焦るでも怒るでもなく、にっこり笑ってみせた。

「なんなら、ここでやってみせてもいいし、カイルも一緒に、ケインと二人がかりで

かかってきてくれてもいいわよ。その代わり、ここがどうなっても知らないし、ケイ

ンみたいに武遊浮術(ぶゆうじゅつ)身に着けてないと、怪我しない保証は出来ないけ

ど、それでもいいんなら」

 カイルの表情が、冷やかし顔のままで固まった。

「なんで、あたしが毎日特訓してるか、教えてあげましょうか? 『獣神サンダ

ガー』を召喚するようになってから、やたら食欲が湧くし、一日一回は暴れないと

ストレス貯まるのよ。発散しないと、サンダガーのコントロールも、うまく行かない

気がするから。

 野盗でも魔物でもいればいいんだけど、ここのところ出くわさないし。ケインが

相手なら、あたしも手加減なしでいいから、一番助かるのよ。でも、カイルも協力

してくれるんなら嬉しいわ! 是非、一緒にお相手願うわ! 」

 マリスが手を合わせて喜ぶと、みるみるカイルの顔が引き攣っていく。

「……頼んだぞ、ケイン。俺の分まで」

 ぽんとケインの肩に手を置くと、カイルは、ヴァルドリューズの隣に座り、脚を

組んだ。

「ボクは、ここで、煩悩を追い払うため、瞑想してるので、邪魔しないで。どうぞ

他でやってください」

「だそうよ、ケイン。行きましょ」

 唖然としているケインの腕を、マリスは引っ張っていった。

 以来、カイルは、二人のことは冷やかさなくなった。


 ケインの身体が、大きく宙を舞う! 場所に着いた途端、マリスが一瞬のうちに

彼を背負い投げたのだった。

 大きく飛ばされたおかげで、咄嗟に体勢を整えて着地することが出来たケインで

あるが、それを待っていたのは、繰り出される突きであった。

 それを受け、払いのけ、蹴りも(かわ)していく。

 一頻(ひとしき)り暴れたのち、マリスは、実に爽やかな笑顔になった。

「やっぱり、ケインだと安心して攻撃出来るから、助かっちゃうわ! 」

 彼の方は、彼女の攻撃を、いくらかヒヤヒヤしながら受けていたのだったが、彼に

とってもいい特訓であった、と自分に言い聞かせておくことにした。

 それにしても、暴れた後で見せる、晴れ晴れとした笑顔を見ると、彼としても、

良い思いをした気分になれた反面、

(やっぱり、マリスって野蛮人だよな。……王女のくせに)

 と、思わずにもいられないのだった。


「あそこに行商人(キャラバン)がいるわ。行きましょう」

 マリスの指さした方角、砂漠の手前に並ぶキャラバンの群れへと、ウマを進める。

 砂漠を渡るには、ダグラという、ウマとは別の動物に乗り換える必要があった。

ウマでは、砂に足を取られてしまい、思う通りには進めず、ウマの疲労も大きい。

 ダグラは、ウマと似た外見だが、ウマよりも、首が持ち上がった分、体高が大き

く、尾はトリのようにふさふさと吹き出し、頭にもふさふさの毛が、トサカのように

立っていた。

 足の指もトリのように、三つ、四つに別れ、砂をかき出せる水かきのような、厚み

のある砂かきがついていた。

 頭から長い白い布を被り、茶色の皮膚をした、西洋とは人種の違う行商人たちは、

ダグラに関しては、リブ金貨よりもウマと交換したがっていたので、一行の乗って

いたウマの分しか手に入らなかった。

 キャラバンの出店では、他に、水や食料、日除け用の布や雑貨などが、並んでい

る。

 日除けの布と食料、大きめの革袋に入った水と、小分け用の水筒などを買い、道案

内人をひとり頼むと、マリスとカイル、クレアとケイン、ヴァルドリューズで一頭

ずつダグラに乗る。

 進むごとに、地面は徐々に砂地に近くなっていった。


「お客さん、運が良かったアルよ! この間まで振っていた大雨も、つい昨日止んだ

アルよ。砂漠、乾くの早いアルから、もう地面は砂に戻ってるアル! 」

 二本のヘビのような、変わった形の口髭を生やした、背の低い、太った茶褐色の肌

の男は、頭から垂らした白い布を環で止め、膨らんだ白いパンツを履いていた。

 東方の地域によくある格好であった。

「チョウさんは、東方の出身か? 」

 案内人(ガイド)に、親し気な少年口調で、白い甲冑のマリスが尋ねた。

「おお、いかにもそうアルよ! 坊ちゃん、なんでわかったアルか!? 」

 太ったガイドの男は、自分のダグラの上で、うれしそうに、ちょっとだけ跳ねた。

「その衣装は、東方特有のものだろう? 出身は? 」

「タイラ国アルよ。東洋の大国ラータン・マオの近くの国、そこのコウガ・リョン・

シティーアルよ」

 ラータン・マオとは、ヴァルドリューズが宮廷魔道士を勤めていた国である。

「ふ~ん、東方の国の名前までは、よく知らないや」

 ヴァルドリューズは訳ありでラータンを出て来ているのは、一行の皆が知って

いた。マリスが、念のため、あえてとぼけたのは、皆にも通じている。

「お客さんたち、どこへ行くネ? 」

 チョウは、人のいい笑顔で尋ねる。

「魔物を退治しにきたのさ。この辺で魔物が出たっていう噂を聞かなかったか? 」

「お客さんたち、魔物を退治して回ってルか? なんで、そんなことしてるアルか? 」

 チョウが、眉間に皺を刻んでいる。

「賞金稼ぎだよ。オレたちは、魔物を倒して賞金を頂くために、諸国を旅して、こん

なところにまで来ているのさ」

 マリスは、にっこり笑い、スーたちの情報から、この辺りでは最も無難な賞金稼ぎ

を咄嗟に繕った。

「アイヤー! 賞金稼ぎの人たちだったアルか!? それで、魔物を探してたアル

か!? ああ、納得いったアル! 」

 チョウは、ぽんと手を打った。

「諸国を旅して来られたなら、ちょっと聞きたいアルが、……実は、これ、内緒アル

けど……」

 チョウは、何か重大な秘密を打ち明けるような、深刻な表情になった。

「キャラバンに通達されたアルよ。なんでも、ある国からの要請で、二人組の男女を

探しているらしいアルよ」

「へえ、なんなんだい? それって」

 カイルが相槌を打つ。

「その二人っていうのは、ひとりはまだ若い少女の兵士で、もうひとりも若い男の

魔道士だというアルよ」

 一行の背筋に、緊張が走った。

「へえ、その二人は、魔物を倒してまわってるのかい? てことは、オレたちと同業

の奴等ってわけか」

 カイルが、うんうん頷く。マリスに話を合わせていることがわかる。

「賞金稼ぎとは違うらしいアルよ。二人は、ある野望を達成しようとしているらしい

アル。なんだか、とても恐ろしい邪神を呼び出して操り、この世を征服しようとして

いるらしいアル! 」

(『サンダガー』のことだろうか……? )

 ケインは、ちらっとマリスの横顔を見る。

「ええっ!? 邪神を呼び出して、世界征服だって!? 」

 カイルが驚き、ダグラから落ちそうになった。

 その反応に、チョウは、満足そうに話を続けた。

「その国の政府は、二人を生かして捕えるのだと、あらゆる国々にお触れを出した

そうアル。だけど、二人の足取りは、どういうわけか、ある小さな村で、ぱったりと

途切れてしまったようアルよ」

 そこで、チョウは、一行の顔を見回す。

「お客さんたち、そんな噂を聞いたことはないかね? 」

「さあな。俺たち、魔物の情報なら気にしてたけど、そんな話は聞かなかったし

なー。マリユス、お前どうだ? 」

 カイルが、マリスに振った。打ち合わせなどはしていなかったが、咄嗟に少年騎士

の偽名を使う。

「さあ、……オレも聞かなかったな」マリスも、首を傾げてみせてから、答える。

「悪いな、おっちゃん。力になれなくて。それよりも、魔物はこの辺りには出ないの

か? この砂漠を越えた辺りはどうだ? 」

 カイルが何気なく、ガイドに尋ねた。

「そうアルなー、魔物というか、この辺りには、夜になると、砂漠で命を落として

いった者の死霊が出ると言われているアルよ。この先にオアシスあるが、そこで新し

いガイドさんいるアルから、その人に聞いてみるよろし」

 チョウはがっかりしたように、肩を落とした。

「あんたが、背格好もその少女兵に似とるアルが、聞いていた甲冑とは違うし、男で

は、全然違うアルな」

 マリスを見ながら、ぶつぶつと、チョウが言う。

「オレもたまに、女に間違われるけどさ、これでも正真正銘の男なんだ。オレたち

は、魔物退治の『白い騎士団』だ。ずっとこのメンバーで旅を続けてるけど、そんな

二人組は見たことなかったよ。悪いな、チョウさん」

 マリスは、悪そうに笑いかけた。


「あのガイドの言うことは、おかしいわ」

 辺りは、夜になりかけていた。

 マリスとケインは、皆が休んでいるところから少し離れた場所で、特訓していた。

昼間の時とは違い、ケインもたまに攻撃する。その特訓の最中に、マリスが、彼に

だけ聞こえるように、言っていた。

「あたしは、情報収集の時に、必ず、あたしとヴァルのことが噂になっていないか

どうかも、確かめてきたわ」

 彼女が祖国の追手を警戒していることは、聞かされている。

 マリスの右拳がケインの頬を掠めたが、ケインもそれを避けながら、拳を繰り出

す。

 彼の蹴りを、軽く飛んで(かわ)すと、彼女は再び口を開いた。

「邪神がどうのって言ってたけど、それが一番引っかかったわ。だって、あたし達

は、人前で『サンダガー』を呼び出したことは、ほとんどないのよ。

 それに、『あの国』は、『サンダガー』どころか、あたしとヴァルが出会ったこと

すら、知るわけないんだから! 」

 シュッと向かって来たマリスの拳を、ケインが手の甲で受け止める。

「『あの人たち』は、あくまでも、あたしだけが目的のはず。二人を、雁首揃えて

生け捕れ、なんて言うはずないわ! 各国に触れを出したとも言ってたけど、アト

レ・シティーでだって、そんな話耳にしなかったし。だから、あのガイドは、ウソの

情報を掴まされたか、もしくは……」

 マリスは、最後まで言うことはできなかった。

 クレアとチョウの悲鳴が、打ち切ったのだ! 

 

今時いないアルアルキャラ……

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