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Dragon Sword Saga3『砂漠の謎』  作者: かがみ透
第 Ⅰ 話 ライバル!?
3/19

ライバル!?(2)

※2018.7.8改行等とスー→サラに修正しました。


「あんたが女剣士だなんて、わらっちゃうわね。そんなフザケた格好で剣士が勤まって? 剣の腕よりも、せいぜいその下品なお色気を磨くくらいしかしなんでしょうけど。ほーっほほほ!」


 マリスは、サラと同じポーズで高笑いを返していた。


(売られたケンカを、しっかり買ってる!)


 ケイン、クレアは、ますます固まった。


「バカにして! 私はね、剣の腕だって、結構立つんだからね! それに、色気だって、私ならではの立派な武器じゃないの! 磨いてどこが悪いのよ? あんたみたいな小娘には、逆立ちしたって無理でしょうけどね!」


 多少の色仕掛け技を使えるマリスを知るケインとしては、その挑発に簡単にマリスが乗るとは思わなかったのだが──


「ムネがデカすぎる女は、頭が悪いって相場なのよ!」

「なんですって! この男女(おとこおんな)!」

「露出狂!」


 二人の女戦士たちは、妙なことでケンカになっていた。


 傍観していたケインたちの間に、いつの間にか、マリリンが割り込んできていた。


「このおにいさんも、このおにいさんも、ス・テ・キ♥」


 マリリンは、身体をくねらせながら、ケインとカイルに、ぽ~っとした視線を送ってくる。彼ら二人は、二、三歩後退る。


「ねえねえ、サラちゃん、この人とこの人と、どっちがいいと思う?」


 マリリンは、ケインとカイルの腕の間に、勝手にぶら下がっている。


「うるさいわね! 今取り込み中──!」


 振り向きざまに、サラは、はっとしたように口を(つぐ)んだ。

 彼女の視線は、ケインたちを通り越し、その後ろにいたヴァルドリューズに、釘付けになっていた。

 サラは、うっとりした目でヴァルドリューズを見つめ、思わず溜め息と言葉を漏らした。


「……ス・テ・キ♥」


(ひえっ!)


 マリスたち一行は、ヴァルドリューズ以外、皆、固まってしまっていた。

 その場では、マリリンのきゃっきゃ笑う、楽しそうな声だけが聞こえる。


「なんて知的で美しい男……! 見たところ、どうやら魔道士のようね」


 サラが、ケインたちを押しのけてヴァルドリューズに近付き、片手を腰に当て、その豊満な胸を突き出すようにしながら、流し目を送る。

 ヴァルドリューズの方は、眉一つ動かさず、いつもの冷たい視線を注いでいるのみであった。


「だめーっ! ヴァルのおにいちゃんは、ミュミュのなんだからーっ!」


 ミュミュが、ヴァルドリューズとサラの間に、パッと現れた。

 ピンク色の髪に、ピンク色の瞳をつり上げている。

「ひゃっ! 何よ、これ!? よ、妖精!?」サラが驚いて、後退った。

「きゃあっ! コワイー!」マリリンも、ケインとカイルの腕に夢中でしがみつく。


「コワイだとー!? 何で妖精をこわがるのさーっ!? かわいがれー!」


 ミュミュが両手をぶんぶん振り回し、二人の間を飛び回る。


「いやあ~! 来ないでぇー!」

「シッシッ! あっちへお行き!」

「なんだとー!」


 マリリンは泣き叫び、スーはミュミュを追い払おうとするので、ミュミュは一層怒って飛び回った。


「ちょっと、あなたたち!」


 それまで圧倒されていたクレアが我に返る。


「出会い頭に人は殴るわ、ケンカはするわ、馴れ馴れしく甘えるわ、非常識も甚だしいわ! まずは、助けてもらったお礼を言うのが、人としての礼儀ではなくて?」


「そうだ、そうだ! クレア、もっと言ってやれーっ!」


 ミュミュがヴァルドリューズの盾になっているつもりなのか、彼の前からは離れずに、クレアにエールを送る。


「『親しき仲にも礼儀あり』と言うでしょう? ましてや、初対面なら当然のことです! いいですか? そもそも、挨拶というものは、昔々──」


 クレアが語り始めたばかりであったが、

「ふぇ~ん、おにいさん、助けて~」

 ケインに、マリリンが泣きながら抱きつく。ケインがよく見ると、嘘泣きのようであったが……。


「ちょっと、あんた、いちいち泣かないっ!」

 マリスが、マリリンの首根っこを引っ掴んだ。


「うきゃーっ! サラちゃん、助けてー!」

 マリリンが手足をバタバタさせて、余計に泣き声を立てた。


「乱暴はよしなさいよ! 男女っ!」

「露出狂!」


 事態は、また振り出しに戻っていた。


 わけのわからない女どものケンカに、ケイン、クレアがうんざりしてきた時、

「あのさあ、お取り込み中、悪いんだけど……」

 カイルが初めて口を開いた。


「きみたち、誰?」




「私は見ての通り、美人女剣士のサラ」


 長身の彼女は、手を腰に当て、長い黒髪を、色っぽい仕草でかきあげて言った。


「はぁ~い、美少女魔道士のマリリンでぇ~す」


 金髪巻き毛少女は、手をグーにして、ブリブリ腰を振りながら、にっこり笑う。


「実はぁ、マリリンたちぃ、町の人に頼まれてぇ、魔物退治してるんですぅ。だけどぉ、道に迷っちゃってぇ、しょうがないから眠ってたんですぅ」


 マリリンは、両手を組み合わせる。

 道に迷うというと、ケインは、ある人物を思い出さずにはいられないのだが。


「ね、眠ってた!? どう見ても、あれは、行き倒れだったぞ!?」


 驚いているケインに向かって、マリリンはきゃっと笑った。


「よく言うわよ。あんたたち、寝ている間に、私に変なことしようとしたくせに!」


 サラが、じろっとケインを睨む。


(だから、ぶたれたのか。ひどい誤解だ……)


 ケインの左頬には、スーの手の跡が、まだうっすらと残っていた。


「よく寝たからぁ、何だかぁ、体力も復活しちゃったみたいですぅ。うふっ、ラッキー♥」


 マリリンが、小さい手でピースをしてみせる。


「どうでもいいけどね、あんた、そのたるい喋り方、なんとかなんないの?」


 マリスに睨まれて、マリリンは、「きゃっ!」と、しゃがみこんで大袈裟に耳を塞いだ。それには余計にマリスが何か言いた気であったが。


「その、魔物退治を頼んだ人たちの町っていうのは?」

「トアフ・シティーよ」


 ケインの質問には、サラが威圧的態度で答えた。


「結構大きい都市だよな。だけど、ここまで遠いんじゃないか? ウマでも数日かかるだろ? なんで、こんなところまで?」


「トアフ・シティーでは、魔物を倒した者には、その魔物の死体と交換に賞金が配られるのよ。もうあの周辺には魔物がいなくなったから、賞金稼ぎたちは、皆遠出をするようになったの」


「早い話がぁ、マリリンたちも賞金稼ぎなのでぇ、魔物の出る噂のところを捜しているうちにぃ、こんな辺鄙(へんぴ)なところにまで来ちゃったんですぅ」


 ケインたちは、顔を見合わせた。


「おい、どう思う? あいつら、魔物を倒せるほどの腕があるってことか?」


 ケインは、隣にいたカイルに、小声で言った。


「さあな、魔物を斬るには、それ専用の剣がいるだろ? っていうと、あのおねえちゃんの持ってるロング・サーベルは、対魔物用ってことか」


「あっちのマリリンって子の方も、魔道士だって言ってたけど、あんなんで本当に魔法が使えるのかな?」


「魔法に関しては、俺も全然わかんねえからな。ただ、俺が思うに、あんな風にひけらかしているのよりは、ほのかに漂う色気の方に、ずっと魅力を感じるってことだな」


 ケインは、カイルを不審な目で見つめる。


「……おい、何の話だ?」


「だから、あの色っぽいけど高飛車なおねーちゃんよりは、もうちょっと露出は抑えててもいいから、やさしくて、しとやかなオトナの女の方がいいってことだよ。あの『コドモ』は問題外だな」


「誰が、お前の好みの話なんかしてるんだ?」


 カイルは、目をパチクリさせた。


「俺は、自分のわかることだけ答えたんだよ」


(……こいつに聞いた俺がいけなかったらしい)


 カイルとケインのやり取りには気付かないクレアは、笑顔になっていた。


「あなたたちの目的が、魔物退治ということなら、私たちと一緒だわ! お互いに情報交換したり、協力して、頑張りましょうよ!」


「なんですって? あなたたちも魔物退治をしてるっていうの?」


 サラは、嫌そうな顔で、じろじろと一行を見回した。


「人数が多かったら、それだけ賞金の分け前が減るじゃないの。冗談じゃないわ!」


 ぷいっと、サラは横を向いた。


「それなら安心して。私たちは、賞金のためにやってるのではないんだから」


 クレアは、にこやかに答えた。


「じゃあ、何のためにやってるっていうのよ?」


 (いぶか)しそうに、スーがクレアを見る。


「もちろん、正義のためです!」


 クレアは、きっぱりと言い切っていた。クレアのきらめく瞳を、スーとマリリンは、怪訝そうな顔で見る。


「世の中、金を越えるものがあると思って? 正義なんて金にもならなきゃ食えもしないじゃない。そんなもののために魔物退治をしてるなんて、おかしいんじゃないの?」


 サラの言葉に、クレアはショックを受け、その場に硬直して動かなくなった。


「そうだよ、世の中、お金よぉ! お金を貯めて、素敵なドレスやアクセサリーをいっぱい買うの! そうして、お金持ちの王子様に見初められて、マリリン、結婚してお姫様になるのぉ~!」


 マリリンは、きゃっきゃはしゃいでいた。

 ケインもカイルも、青ざめた顔で、引いていた。


「……てことで、私たちは、あんたたちとは手を組まないわ。今回は見逃してあげるけど、今度会った時は、商売敵として容赦しないから、覚悟なさいよ」


 サラは、威圧的に一行を見下した。


「そぉ~よぉ~、マリリンたちぃ、すっごく強いんだからぁ、あんまりナメないことね~」


 マリリンもブリブリしながら続く。


「覚悟するのは、そっちだわ」


 腕組みをしたマリスは、いつもの不適な笑いを浮かべる。


「そうよ、正義をバカにするなんて、人として許せないわ!」


 クレアも、キッと二人を睨む。

 四人の女たちの間では、今や火花が飛び散っていた。

 ミュミュも、ヴァルドリューズに、ぴとっと、くっつきながら、例の二人を睨んでいるが、男達にとっては、実に、どうでもよかった。


「マリリンちゃん、引き上げるわよ」

「うん、スーちゃん」


 マントを(ひるがえ)し、ぷいっと、彼らとは反対方向に歩き出した二人であったが、すぐに戻ってくる。


「ウマ一頭くらい、譲ってくれてもいいんじゃなくて?」


 スーは、両手を腰に当て、威張って言った。

 この荒れ地を歩いて行こうなどとは、自殺行為に等しいと言えた。自分たちの命にかかわることでもあるというそんな時でも、やはりスーは高飛車なのだった。

 またケンカにならないうちに、ケインは乗っていたウマを下りて、譲った。


「お礼は言わないわよ」


 サラとマリリンは、さっさとウマに跨がると、土煙を上げて、ものすごい勢いで行ってしまった。


「まったく、なんて人たちなの? あれが人にものを頼む時の態度かしら? お礼も言わないし」


「そうだよ、ケインも、なんであんなヤツらに、すんなりウマを引き渡しちゃったのさ? あんなの、ほっとけばいいのにさー!」


 クレアとミュミュは、目を吊り上げて、ぷりぷり怒る。

 ケインは、カイルのウマに乗せてもらおうと向かうと、マリスが言った。


「あたしがそっちに移るわ。男二人の体重は、ウマにはキツいわ。ケインは、あたしのウマにクレアと乗ってあげて」


 あれほどのケンカ(?)の後ではあったが、彼女は、もういつもの表情に戻っていた。

 ウマの綱をケインに預け、カイルのウマに乗る。

 ケインも、クレアの後ろに乗り、偵察の時に見つけた、草の生えた場所目指して進んだ。

 口にこそ出さなかったが、出来れば、この先、あの妙な二人組とは、会わずに済ませたいものだと、誰もが思っていた。


「……なんでいるのよ」


 カイルと同じウマの上で、マリスが呆れた声を出した。


「だぁって、マリリンの水晶(クリスタル)も、こっちだって言ってるんだも~ん」


 例の女剣士と少女魔道士が、一行とウマを並べていた。

 ケインの譲った一頭に、マリリンと、その後ろにはスーが乗っている。

 マリリンは、首から下げた、てのひらサイズの水晶球のネックレスを、自慢気に揺らせてみせた。


「そっちがマネしてるんじゃないの?」


 長身の美人剣士が言う。


「じょーだんじゃないわよ! あんたたち、淋しいんなら、素直にそう言ったら?」


「淋しいだなんて、見損なわないでちょうだい! 私たちは、そんなことで、会いたくもないあんたたちに、我慢してまでも、こうして追いかけてきたわけじゃないんだからね!」


 サラが、つんけんしながら、マリスに言い返す。


「まっ、やっぱり、私たちの後をつけて来たんだわ!」


 馬上で、ケインの前に乗っているクレアが、嫌そうな顔を向け、小声でケインに言った。

「あんたたち、不思議な飴を持ってるでしょう? ちょっとくらい、くれたっていいんじゃなくて?」


 馬上で、スーが手に腰を当てた。


(ああ、おなか空いてたんだな……)


 ケインは、目を丸くしていた。


「マリリンのクリスタルが言ってたよお。体力回復出来る飴なんだってねぇ? どんな味なのぉ~?」


 マリリンが人差し指を、物欲しそうにくわえている。


「……腹が減ったんなら、そう言いなさいよ……」


 呆れて怒る気力もおこらなかったマリスが、いくらかうなだれて言った。


「それよりも、きみたち、この先には、何があるか知らないか? 砂漠で魔物が出たとか、そういう噂とか聞かないか?」


 ケインが尋ねると、スーが手を腰に当て直し、踏ん反り返った。


「ほーっほほほ! そんなこと、この私が知るわけないでしょう!」


「えへっ、マリリン、知ってるよぉ。だけど、賞金取られちゃうから、教えてあげなぁ~い!」


 マリリンは、にっこり笑った。

 賞金目当てでないことは知らせてあるにもかかわらず、同業者でライバルだと思っている一行に対して、すんなり情報を提供する彼女たちではなかった。


「ほら」

 諦めたように、飴玉を別の小袋にいくつか移し、マリスがそれを渡そうと手を伸ばす。


「ほーっほほほ! 礼は言わないわよ!」


 サラは、ひったくるようにして小袋を奪うと、二人の乗ったウマは、土煙を上げて、素早く遠ざかっていった。


「あぁ~ん、サラちゃぁ~ん、マリリンにも早くちょうだぁ~い!」

「うるさいわね! 今開けてるんでしょ!」


 二人の会話は、微かに、それだけ、一行に聞き取れた。


今後ちょこちょこ登場する二人組です。


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