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Dragon Sword Saga3『砂漠の謎』  作者: かがみ透
第Ⅶ話 時空の歪(ひず)みと辺境
16/19

時空の歪(ひず)み

「ああ! 一体いつになったら地上に出られるのかしら! 皆も、ちゃんと無事なの

かしら? 」

 バスターブレードとチャール・ダパゴの魔道書を無くしたケインとクレアは、仲間

を探し、砂漠の地下を歩く。

 もと来た迷路のような白い壁や、サンダガーと出会った草むらなど、再び隈無(くまな)

探すが、誰も見つけることは出来なかった。そんな最中に発せられた、クレアの嘆き

であった。

「なんて悲惨な境遇なの!? この世は、本当は神など存在していないのではないか

しら!? 」

「だから、ここにいるって言ってんだろー! 」

 マリスから分離したヒトサイズのサンダガーが、面白くなさそうな声を出す。

 異次元の自分の居場所に戻り損ない、地上で暴走を目論み、失敗した彼が、ケイン

たちと行動を共にしているのを、ケインは不思議に思っていた。

 クレアが、キッと、サンダガーを睨みつける。

「あなたのような、野蛮な獣神のことじゃありません。ヒトの拝む尊いお方のことを

言っているんです。それとも、邪神は存在するというのに、人々を導いてくれる聖な

る神は、いらっしゃらなかったというのかしら? そんなの、あんまりだわ! それ

なら、ヒトは一体、何を心の支えにして生きていけばいいというの!? 」

 クレアは、天を仰いで、今にも泣き出しそうだった。今の獣神にはたいしたことが

出来ないとわかってからのクレアの態度は、一変していた。

「ぎゃあぎゃあうるせえ女だなぁ! こんなことで、いちいち泣き言いうんじゃねえ

よ」

「あなたって人は――! 」

 言いかけて、彼女は、ふらふらとその場に崩れるようにして、座り込んだ。

「大丈夫か、クレア。薬は? 」ケインが、彼女の側に屈む。

「全部落としちゃったみたいなの」

 砂漠病の一種である、貧血に似た症状の病気は、一日で完治はしなかった。

 彼女の顔色は、徐々に青ざめていき、色白であったのが、一層白くなってしまって

いる。

「早く、ヴァルか、ミュミュでもいいから探さないと」

「しょうがねえな。ほらよ」

 クレアの前で、サンダガーが背を向けたまま、腰を屈めた。

「結構よ! あなたの手なんか借りなくたって――! 」

 先よりも弱々しい声で彼女が言いかけるのを、ケインが打ち切った。

「そんなこと言わないで、ここは、彼の言う通りにした方が、クレアのためだと思う

よ」

 つり上がった目尻を元に戻す。

「……ケインがそう言うなら……」

 クレアは、渋々サンダガーの背に乗った。

(サンダガー、意外にいいヤツなのかも知れない)

 感心しながら、ケインは獣神の隣に並び、草むらの中を歩き続けた。

「まずは、ヴァルドリューズのヤツを見つけないとな」

 そのサンダガーの声に、クレアが嬉しそうに面を輝かせる。

「あの野郎縛り上げて、俺様にかけた術を解かせなくちゃなんねえ」

 忌々(いまいま)しそうに言うサンダガーを見て、二人は、彼がなぜ自分たちと行動

していたのかを理解した。

「神様でも術を解けないなんて——ヴァルドリューズさんて、よほどすごいのね! 」

 クレアが嬉しそうな声を上げた。

「そうじゃねえよ。ここの空間がおかしいんだよ。俺が元通りになれば、こんなとこ

ろ早く抜け出せるんだがな。ヤツは、俺が『そのもの』に戻る前に術をかけやがった

のよ。まったく面白くもねえ! 」

 サンダガーは、ブツクサと続けた。

「だいたい、あいつは人間のくせして、生意気なんだよ。妙な術ばかり編み出しやが

って……! 魔神『グルーヌ・ルー』とグルになって、素直な俺様をハメやがるんだ」

 ケインは、密かに笑いをこらえていた。

(神とは言っても、獣神は動物に近く、あまり小ズルイことは出来ないのかも。ある

意味、自分で言うように、素直なのかも知れない)

「やはり、ヴァルドリューズさんは、すごい方なんだわ! あの方から魔術を習える

なんて、本当に光栄なことだわ! 」

 サンダガーの背の上で、クレアは顔を(ほころ)ばせていた。

「お前、ヴァルドリューズの女か? 」

 平然と、サンダガーが言った。

 神にしては、俗っぽい発言だとケインが思っていると、クレアの顔が上気していき、

またもや目尻が上がっていった。

「な、なんて品のない……! あなた、それでも神様ですか!? 信じられないわ! 」

「あいつ、意外とモテるみたいだな。あんなんでも、実は、結構スケコマシだったり

してなー。お前も、魔道以外にも教わってること、あるんじゃねえの? 」

 サンダガーがゲラゲラ笑い出す。

 ケインは、ハラハラしながら、二人を見る。

「ひどいわ! なんてこと言うのよ! あの人は、そんな人じゃないわ! この邪神

(ケダモノ)! 降ろしてちょうだい! 」

 サンダガーの背で、クレアが暴れ出した。カイルにからかわれても、ここまで彼女

が怒ったのは、ケインは見たことがない。

「なんだよ、冗談も通じねえのかよ。お固い女だなー。そんなんじゃ、おめえ、モテ

ないぞ」

「おっ、大きなお世話ですっ! あ、あなたみたいなケダモノ獣神になんか、おぶっ

てもらうんじゃなかったわ! 今すぐ降ろしてよ! 」

 本心なのか、からかっているだけなのか、彼の言うことは、彼女を怒らせるばかり

であった。

 無理矢理背から降りたクレアは、崩れるように座り込む。

「大丈夫か? 」

「え、ええ」

 クレアはケインに答えると、額に手を当て、乱れた呼吸を落ち着かせようとする。

 獣神は腕を組み、そっぽを向いていた。

「なんだか、さっきよりも具合が悪くなってるみたい……。巫女の名残かしら? 

(よこしま)なものに長い間触れているのは、身体が耐えられないみたい」

「なんだと、このアマ! 俺様は邪神じゃねえ! 失礼な! 」


「ここから別の次元になってるみてえだな」

 どのくらい歩いたか、三人には見当もつかなかったが、進んで行くうちに、あたり

は岩山のような景色になっていた。

 岩の間から覗く、奇妙な、はっきりとしない、まるで水溜りが縦に出来たような

ものが、どうも時空の(ひず)みらしいことがわかる。

「やたら通り抜けない方がいいだろう」

 珍しく、サンダガーの口調は真面目だった。

「他を探すぞ」

 さっさと違う方向へと進みかける彼の背に、クレアが弱々しく声をかける。

「そこにヴァルドリューズさんたちが(まぎ)れ込んでしまったということは、ない

かしら? 」

 体調のよくならない彼女には、ケインが肩を貸していた。

「……かも知れねえが、今、俺たちはここを通るべきではない、そんな気がする」

 能力もヒトサイズになってしまったと嘆いていたサンダガーではあったが、神らし

い感覚はあるようだ。

「可能性があるのなら、探した方がいいのではないかしら? 」

「やたら、生身の人間が空間を越えるもんじゃねえ。身体にはたいしたことはねえが、

精神にダメージを受けるぞ。今の俺は、お前らのために、いちいち結界を張ってやる

ようなことはできねえんだからな」

 慎重な面持ちでそう言うと、獣神は、そこを離れた。

「だったら、自分が行って、ちょっと見て来てくれればいいじゃないの、ねえ? 」

 クレアが、ケインに耳打ちする。

 辺りには、特に目印になるようなものはなく、風もなにもない薄暗い空間をひたす

ら歩き続ける。

「ここもか。……一体、なんだって、『ここ』は、こんなに時空が入り組んでやがる

んだ? 」

 岩の間の妙なうねり――縦になった水溜りを再び発見したサンダガーが、舌打ちす

る。

 その奥も、同じようにうねっている『水溜りの膜』が何重にも重なっているらしく、

眺めているだけで、目の感覚が狂いそうだ。

 その時、後ろから何かの気配が感じられた。

 三人が振り向くと、そこには、いつの間にか現れた、ヒトほどもある巨大な茶色い

ムシが一匹いたのだった。

 ムシは、背から羽を生やし、大きな逆三角の頭部には、触角が、長いものと短いも

のと二本ずつ生え、大きな丸い赤い目が不気味に輝いていた。

 しゃあっ! と開いた口からは、牙が見える。細長い胴からは、両脇に足が五、六

本ずつ生え、特に前の左右四本には鋭く長い爪が見られた。

 ムシは、それを彼らに向け、威嚇するように伸び上がり、振り上げた! 

「ミドル・モンスターか。へっ! こんなヤツ、俺様の敵ではないわ」

 サンダガーがにやっと笑い、手を組んでボキボキ言わせながら、一歩前進した時、

「きゃああああ! いやーっ! 」

 ぼわーっ! 

「うわあああ! 」

 クレアの放った強風に、モンスター、ケイン、サンダガーまでもが吹き飛ばされた。

 だが、威力は、普段の彼女に比べて、落ち込んでいただろう。

「このヘタクソ! どこに向けて打ってやがんだ! 」

 サンダガーが立ち上がり、怒鳴ったと同時に、クレアは、へなへなとその場に倒れ

た。

「ちっ! 俺様としたことが——! 油断したぜ! 」

 自らの背で、ざざざーっと草むらを削り取っていった跡から目を反らし、サンダガ

ーは、少しだけ羞恥心に顔を赤らめながらも、よろよろと起き上がったムシに、手の

ひらを向けた。

 発射された小さな炎がムシに到達し、ムシ全体を火達磨(ひだるま)にして、消滅さ

せたのは、あっという間だった。

「クレア! 」倒れた彼女をケインが揺さぶる。

「寝かせておけ。その方が回復するだろう」

 ケインはクレアを背負うと、獣神が歩き出す後ろについていく。

「うるせえ女が眠ってくれたおかげで、助かったぜ! 」

 伸びをしながら、彼は悪ぶって言った。


 進んで行くと、草むらに、焼け焦げたような跡がいくつか見える。

「これは、モンスターを()った跡だ」

 地面をじっと見下ろしていたサンダガーが、何を思ったか、突然走り出す。クレア

を背負ったケインも、後を追う。

「ヴァルドリューズ! 」

 サンダガーが立ち止まった前には、長身の黒マント姿が見える。

 彼らの探していたうちの一人、ヴァルドリューズであった。

 彼は、ゆっくり振り返ると、驚くこともなく、いつもの静かな眼を、獣神に向けた。

「おい、てめえ! 俺様をこんなにしやがって! ヒト並みの術しか使えねえもんだ

から、いろいろと恥かいちゃったじゃねえか! 」

 赤面したサンダガーが、威勢良く文句を言った。

「……では、あの呪文は成功したのだな」

 ヴァルドリューズの方は、それでも冷静だ。

「ヴァル、クレアをなんとかしてやってくれないか? 薬を落としちゃって」

 ヴァルドリューズは、ケインと、背で眠っているクレアとを見つめた。

「そんな女、眠らしときゃいいんだ! うるせーったら、ありゃしねえ! 邪神邪神

て、ヒトのこと何だと思ってやがんだ」

 横では、サンダガーがぶーぶー言う。

「悪いが、私の魔力も通常の半分ほどに減っているのだ。彼女は特殊な病気のため、

体力を復活させても、またすぐに減ってしまう。ここは、サンダガーの言う通り、

眠らせたままにしておいた方がいいだろう」

「そんなことよりもさー、早く俺様のことを、もとに戻せよー! 俺様の、神様とし

てのプライドは、もうズタズタだぜー! 」

 サンダガーは、まるでだだっ子のように、ヴァルドリューズの周りを、うろうろし

ながら抗議していた。

 ヴァルドリューズの碧眼は、一見いつもと変わらず穏やかではあったが、どこか

おかしさを(こら)えているようでもある。

「言った通り、私の魔力も半減しているのだ。悪いが、あなたをもとに戻すことは

できない」

「ウソだろ……? 」

「本当だ」

「…………わーっ! 」

 放心していたサンダガーは、しゃがんで頭を抱えこむ。

「それじゃあ、俺様は、いつ、もとに戻れるんだよー! こんなひどい話がある

か!? 貴様ら、俺に一体何のウラミがあるってんだー! 」

 彼には、既に、神の威厳などというものは存在していなかった。

「ところで、他のみんなを見かけなかったか? 」

 ケインの質問に、ヴァルドリューズは、静かに首を横に振る。

「マリスは? 」

「今探している」

 そう答えると、ヴァルドリューズは彼らに背を向けて、歩き出した。クレアを背負

ったまま、ケインも歩き出すが、側でしゃがみこんでいる獣神を見下ろした。

「ほら、探しに行こう。あなたは、マリスの守護神なんでしょう? 」

 そう言って、ケインはサンダガーの腕を引っ張り上げた。



「誰かが通った跡がある」

 ヴァルドリューズは、『それ』に触れもせずに調べたところだった。

「なんだ、ここの時空の(ひず)みは? さっきまで見て来たのと、ちょっと違う

みたいだな」

 岩の間に出来た、大きな薄い膜を前にして、ヴァルドリューズとケイン、眠って

回復したクレア、サンダガーは立ち止まっている。

 その『時空の膜』だけは、他のものと違い、水溜りの向こう側の景色が、揺らめき

ながらも見える。

「なんだか、さっき通った砂漠にも似てるけど、……なんか違うような? 」

 ケインの言う通り、その景色とは、彼らが通ってきた砂漠とよく似ていた。

 立っている樹木と、ところどころに生えている植物は似ていても、違うものであり、

岩も、まったく違う鉱物だ。

 砂漠のようには見えたが、砂漠では赤茶色をしていた砂の地面が、膜の向こうでは、

石が細かくなったような、粗い灰色で、砂丘といった方が近い。荒れ地に砂が溜まっ

ているようなところも見える。

「なんでえ、ありゃあ、ベアトリクスの辺境じゃねえか」

 ケインの右肩から顔を覗かせて、サンダガーが言った。

「ベアトリクスですって……!? 」

 クレアが、サンダガーと、仲間を見回す。

 ヴァルドリューズは黙ったままだ。

「どうして、こんなところに、そんな離れた国の辺境なんかが見えるのかしら? 」

「だから、『ここは、そういうとこ』なんだ。空間がよじれて、合わさって、乱れて

る! 世界中の自然の森――特に、辺境みたいな得体の知れない場所と、つながって

んだ。

 お前たちの辿ってきたモルデラの山や、アストーレの北の山なんかにあった次元の

穴は、それぞれ独立して沸いたものだったが、ここは違う。次元の穴すら、こういう

歪みに左右されてんだ。ある時は砂漠の上に、またある時は地下に――それも、しょ

っちゅう位置が移動しているらしい、すげえ不安定な状態なんだぜ」

 獣神の静かな口調には、真実味を帯びていた。

「……誰かいる」

 ヴァルドリューズの静かな声に、彼らは、さっと緊張して、時空の膜を覗き込んだ。


 砂埃(すなぼこり)の奥には、黒い、ひとつの影がある。

 砂が風に巻き上げられていくと、それが、全身を黒いマントに包んだ、痩せた男で

あるのがわかった。

 顔は、フードに覆われていて、彼らからは見えなかったが、その男の手には、見覚

えのある大剣が握られていたのだった。

「それを、返してもらいましょうか? 」

 聞き覚えのある声とともに、膜に映った左側から、赤い衣装に身を包んだ、独りの

女が現れた。


「……マリス! 」

 ケインとクレアが、同時に叫んだ。

 まさしくマリスであったが、二人の声は届いていないのか、膜に映った二つの人影

は、反応しなかった。


「これは、これは――! まさか、このようなところで、お遭いするとは、思いも

よりませんでした。これは、盲点をつかれましたな、マリス殿」

 ゆっくりとマリスの方へ首を回し、その一見して魔道士とわかるマントの男が、

平坦な声で告げた。

 声の様子からすると、それほど年齢は離れていないようだ。

「私だって、戻ってくるつもりはなかったわ。だけど、ちょっと落とし物しちゃった

から、取りに来たのよ」

「それが、この剣なわけですか? 」


 ケインの背に緊張が走る。

 その魔道士が持ち上げて、彼女に見せた剣は、紛れも無く、バスターブレードで

あったのだ。


「それさえ返してもらえば、用はないわ。おとなしく帰るから、剣をこっちに、ちょ

うだい」

 マリスが、手を差し伸べた。

 男との間には、互いの顔がはっきり見える程度ではあるが、いつ戦闘が始まっても、

攻撃を()けられるほどの距離はあり、それは、決して、二人が友好関係などでは

なく、実力がわかった上での警戒なのだということを、充分に感じさせる。

「……さて、どうしたものでしょう」

 魔道士の男は、フードの頭を傾げた。マリスも黙って、彼を見つめる。

「見たところ、この国の剣ではないようですが、これを、あなたは、どうされたので

す? 」

 魔道士は、大きく、重厚な剣の先を地面に立て、上から下まで眺め回す。

「もらったのよ」


 「あげてないぞ」と、心の中で反論しながら、ケインはそのまま状況を見守る。


「本当に、これは、あなたのものなのですか? 私には、なんとなく、違う方のもの

のように、思えるんですけれども? 」

 男の声は、からかうような響きをはらんでいた。

「この剣は、後で私が持ち主に返しておくとしても、あなたを見逃すというのは、

ちょっと――いや、大分、もったいないですねえ。そうは思いませんか? 」

 男は、にたりと笑っているような声で言った。

 マリスは表情を変えずに、男を見ている。

「あなたを、女王陛下に突き出す、そうすれば、宮廷での私の株も上がりますしねえ。

それどころか、私は、国を挙げての英雄にまでなってしまうかも知れませんよ! 

 反対に、そんなチャンスをみすみす逃してしまえば、怒られるだけでなく、たちま

ち謀反人扱いです。そんなのは、まっぴらごめんです」

「女王への反逆罪で追われてるあたしには、『謀反人』なんていうと、仲間意識が

湧いてきちゃうけど? 」

 マリスも、不適な笑顔で返す。


「マリスが、ベアトリクス女王へ、反逆――!? 」

 無意識に繰り返したクレアが、驚いて、口に手を持っていく。

 ケインの目が細められ、一層、二人のやり取りに注目する。

 膜の向こうの二人は、しばらく、そのまま動かなかった。

 それを見守る膜の外の四人の中でも、身動きするものはいない。


「この剣は返さない――と言ったら、どうします? 」

 魔道士が、再び口を開く。

 マリスが、キッと、男を睨みつけた。

「ここで、私は、この剣を拾った。誰にも遭わなかった。剣ひとつで、あなたを見逃

そうというのです。どうです? 悪い話じゃないでしょう? 」


 ケインは、思わず身を乗り出していた。

 緊張したまま、歪みの向こうの彼女の表情を見つめる。


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