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Dragon Sword Saga3『砂漠の謎』  作者: かがみ透
第Ⅵ話 砂漠での戦い
15/19

獣神の暴走!?

 ぽたっ……ぽたっ……

 どのくらいの時間が、経っただろうか。

 頬に当たる冷たい(しずく)で目が覚め、ゆっくりと瞼を開いていく。

 周りは、薄暗かった。

 特に打った様子はなく、怪我もないようだとわかると、ケインはゆっくりと身体を

起こす。

「……ここは! 」

 ガバッと跳ね上がると、目の前には石造りの建物が、ずらりと並んでいたのだった。

「確かに、あの時、砂漠に出来た地割れの中に落ちて行ったはずだけど、まさか、

ここは、あの砂漠の地下!? 」

 周りを見渡すと、少し離れたところにある、ピンク色の布が目に留まる。

「クレア! 」

 ケインがクレアのところへ駆け寄ろうとすると、何か薄い膜のようなものに当たっ

た。弾力性があり、押したり、引きちぎろうとしても破れそうにない。

「クレア! クレア! 」

 ケインの呼びかけが届いたのか、ピンクの服の少女は起き上がった。

「……ケイン? 」

「良かった、無事だったか」

「ええ、ケインも」

 駆け寄ったクレアの声は、膜のせいか、いくらか声がこもって聞こえる。

「ここに、変な膜があるらしいんだ。待ってて、今破るから」

 クレアに離れるよう合図してから、空間さえも切り裂けるバスターブレードに、

ケインが手をかけようとするが、次の瞬間、彼の顔から血の気が引いた。

「なんか背中が軽いと思ったら……! 」

 そこに、剣はなかった。認めたくはなかったが、どうやら、バスターブレードを

落としてしまったようだと、彼は悟った。

 慌てて周囲を探すが、それらしいものは見当たらない。

 視線を腰に移し、マスターソードは無事であることがわかり、ほっとする。

(だけど、バスターブレードが……レオンの形見の剣が……! )

 茫然と立ち尽くしているケインを、膜の向こう側から、クレアが心配そうな顔で

見ていた。

 思い直したケインは、マスターソードを抜くと、膜の壁に斬りつけた。剣は、あっ

さりと膜を貫通した。

「他の皆は? 」

「私の見たところ、他に誰もいなかったわ」

 落胆した様子で、クレアは言った。

「俺、どこかにバスターブレードを落として来ちゃったみたいなんだ」

「ケインも!? 私も、ヴァルドリューズさんから頂いた魔道書がなくなってるの」

 二人の間には、心細い沈黙が生まれていた。

「……とにかく、剣や魔道書もだけど、皆のことを探そう」

「ええ」

 ケインのいる場所は、石がごろごろと転がっており、行き止まりであったので、

クレアのいる側へと、膜を通り抜けた。

 クレアの手のひらに、小さな光の球が浮かぶ。それを頼りに、白い煉瓦(れんが)

ような石造りの町の中へと、進んで行く。


「こんなところに町があるなんて……」

 おそるおそる、辺りを伺いながら歩く二人は、近付くにつれ、建物に見えたものは

ただの壁であったこと、町全体が迷路のように入り組んだ作りになっていることが、

わかってきた。今のところ、家らしいものには、出くわさずであった。

「ヒトは住んでいないのかしら? 」

 心細そうな声で、クレアが呟いた。

 天井を見上げてみても空ではない、星のない闇が広がるばかりだ。日もないため、

辺りは薄暗いが、クレアの魔法の光球が白い石の壁に反射し、またそれらの石材が

わずかに発光しているようで、うっすらと青白い光であったが、町の中は、多少は

様子がわかった。

「ヴァルは、いそうか? 」

「それが、この場所は、魔力を察知しにくいみたいなの」

 思わず、ケインの足が止まり、改めて、クレアを見直す。

「今までいた砂漠みたいに、……いいえ、なんだかそれ以上に、魔力を妨害している

何かが、強くなっているみたいなの」

「魔力を妨害する何か……? とにかく、得体の知れない場所らしいな。今のところ、

住民とか生き物とかには出会ってないけど、ここは、俺たちにとって安全な場所とは

言い切れない。早く皆と剣、魔道書を見つけて、ここから脱出する方法も探さないと」

「そ、そうね」

 ますます心細そうな声で、クレアは頷いた。

「マリスー! ヴァルー! カイルー! ミュミュー! 」

 ケインが呼びかけるが、反応はない。二人は、仲間の名前を呼びながら、いくつか

の角を曲がる。

 そのうちに、とうとう町の出口と思われる門を出ていた。

 そこには、不思議なことに草も生え、木まで立っていたのだった。

「こんな日の当たらない場所に、草木が……? 」

 ケインが辺りを見回していると、クレアが、ある木の影を指さした。

「……誰かいるわ! 」

 ケインも見てみると、確かに、ヒトが座り、背中を丸めているような影が見えたの

だった。それも、鎧を着ているようで、暗闇の中でも、光球に反射し、背中が光って

いる。

「マリスは甲冑着てなかったし……、もしかして、ここの住民かな? 」

 ケインがクレアを振り返ると、クレアも頷く。二人は、ゆっくりと、その人間に

近付いていった。

「すいません、ちょっと、お聞きしたいんですが……」

 草むらを踏みしめ、声をかけながら近付くが、その人間は、なかなか振り向かない。

 かなり近付き、二人は、その者のすぐ後ろにまで来ると、どうやら、夢中で何かを

食べているようで、物を飲み込む音が聞こえてくる。

 その後ろ姿を見ているうちに、どこか奇妙な感じがする。

 やはり、甲冑を着ていて、兜からは長い髪が、背中に垂れている。そして、最も

奇妙なのは、尾が生えていることだった。

「人間じゃなさそうだけど、ここの住民かな? 」

 ケインが小さな声で言うと、クレアも、どうしていいかわからない顔で、曖昧に

頷いた。

 身体の大きさは、ケインと大して変わらないように見えた。この世界に住む種族で

も、言葉が通じるものか不安はあったが、思い切って、ケインは問いかけてみた。

「あのー、すいません。ここのヒトですか? 」

「俺のことか? 」

 そう男の声が返ってきた。彼は、両手に何かを抱えたまま、むしゃむしゃ言いなが

ら、くるっと振り向く。

「良かった! 言葉は通じるみたいだ! ……ん!? 」

 ケインもクレアも、思わず目を見開き、まじまじと、その男の顔を覗き込んでいた。

 よく見ると、彼は金色の甲冑に身を包み、髪も金髪(ブロンド)、男の割に綺麗な

整った顔をしているが、目付きは悪い――明らかに、二人の知っている顔であった。

しかも、つい先に見たばかりの。


「……サ、サンダガー!? 」


 ケインとクレアは同時に叫ぶと、後退っていた!

 時が止まってしまったかのように思えた二人であった。


「サンダガー……いや、マリスなのか? 」

 ケインが思い切って尋ねる、というよりも、無意識のうちに言葉が口から出ていた。

「はーっはっはっはっ! 」

 獣神がいきなり豪快に笑い出したので、二人はビクッと、再び後退った。

「俺はマリスじゃねえ。正真正銘のサンダガー様だ! 」

 それだけ言うと、彼はまた両手に持った肉にかぶりついた。

(それは、もしかして、あの時食ってた、巨大サラマンダーの……? )

 ケインは目を丸くした。

「あの、ここは一体、なんなのでしょう? 」

 クレアが、ケインの背に隠れながらも、おそるおそる問いかけた。

「どっかの国みてえだな、それも相当古く、(さび)れてる。大昔に滅亡して、砂漠

ん中にでも埋まっちまった国なんじゃねえの? 」

 興味のなさそうにいい加減な口調で答えると、骨までも食べ尽くしてから、立ち

上がった。一八〇セナ以上ある長身のケインと同じくらいの背丈であった。

「だが、その割には、その辺の石には魔力が宿ってるんだか、発光してんのはその

せいだ。ここも、微妙に魔空間に近い。その光の球を消してみな」

 言われて、クレアは光球をしぼませた。

 淀んだ月明かりにでも照らされたような、ぼんやりとした青白い光ではあったが、

瓦礫のような石からは、僅かに発光していた。

「……それで、その、……マリスは、一体どこに? 」

「さあな」

 ケインの質問に、彼は、あっさりと答えた。

「マリスの身体から押し返されて分離した俺様は、仕方なく、自分の住処(すみか)

帰ろうとしたんだが、その時には、既に、『ここ』に来てたんだよ。おかげで、やっ

と自由の身だぜ! 」

 サンダガーが自由の身とは、もしかしたら、それは、とんでもないことなのでは…

…! と、顔を見合わせたケインとクレアの表情は、緊張を帯びていく。

「ふん、マリスのダチどもか」

 サンダガーは両手を腰に当て、二人をじろじろと眺め回した。その威圧的な雰囲気

は、巨大化している時と何も変わらない。

「特に、お前」

 サンダガーは、ケインに指を突き出した。

「お前は、どうも気に食わねえ。いずれ、俺様に楯突(たてつ)くような気がする」

「なんだって!? 俺がマリスに……? 」

「マリスにじゃねえ! ――いや、そうかも知れねえが、俺様にだ! 」

 ケインにもクレアにも、どういうことなのか見当も付かない。

「かといって、今のうちに潰しとくってほどでもねえけどな。マスターソードも、

まだまだたいしたことねえし」

 サンダガーは、ケインを見下すように見て、にやっと笑った。

 ケインの背筋が、ぞくっとした。獣神がその気になれば、人間など一瞬で――と

考えると、脂汗が流れる。

「だが、今のところ、お前はマリスの役に立ってるみてえだからな。俺様が付いた

おかげで、あいつもストレス溜まってるから、それを発散してやれば、俺様も、

少しは助かるからな」

「……? 」

 訳がわからないといった風に、ケインとクレアは、またもや顔を見合わせるが、

獣神は構わず、ふふんと鼻で笑った。

「マリスもヴァルドリューズのアホも、まだ気付いてはいないが、俺様の計画は着々

と進んでるってわけよ! 」

 サンダガーは、笑い声を上げた。

「まあ、あのヴァルドリューズさんを、アホ呼ばわりするなんて! 」

 クレアが信じられないという顔になる。

「ちょっと待て。なんなんだ、その計画って? 」

「なあに、ほんのささやかなもんよ」

 聞き捨てならないといったケインに、サンダガーは、にやにや笑いながら、肩を

竦めてみせた。

「ウソだろ? ささやかなもんとか言いながら、実は、世界征服とか考えてるんじゃ

……!? 」

「ウソなもんか。神はウソつかないぜ? 」

 けろっとした顔で弁明する神を、ケインは横目で睨む。

「だいたい、あなたは、何の神様なんですか? 」

 ケインの後ろから、クレアが震える声で尋ねる。

「五人の獣神のうちのひとり、雷獣神のサンダガー様だ。うーんと……、そうだな、

()いて言えば、勝利の神かなー? まあ、戦いにおいては無敵の神ってことさ。

雷の術なんか得意だぜー! 後はな、そうだなぁ……」

(……それ、今考えてないか? )

 にこにこと得意顔のサンダガーに、目を丸くするケインは、どうも『神』と話して

いるような気がしなかった。

「とにかく小僧ども! 俺様は、せっかく自由になったんだ。てめえらの話に付き

合ってるヒマはねえ。腹も膨れたことだし、いっちょ地上で暴れるとするか! 

あばよっ! 」

「なっ、なんだって!? 」

 いきなりサンダガーは物凄い勢いで、土埃(つちぼこり)を巻き上げ、飛び上がった。

 それだけの動作でも、かなりの風圧が起こり、木は揺らぎ、草は抜けてはらはら

散っている。

「はーっはっはっは! 」

 サンダガーの笑い声だけが、暗闇の空に響いていた。

「ケイン! サンダガーは、マリスを離れた今、人間界で暴走するつもりなんじゃ

……!? 」

 立っているのもやっとの暴風の中、クレアがケインにしがみついて、声を張り上げ

た。ケインも、彼女が飛ばされないようしっかりと抱きかかえ、獣神の消えた天空を、

睨むようにキッと見上げた。

「制御出来る者が地上にいない今、サンダガーに暴走されたら、世界は一体……!? 

 魔物から世界を救う為に使おうとしている召喚魔法『サンダガー』が、今まさに、

世界を滅亡の危機へと、追い込もうとしているなんて! 」

「禁呪は、やっぱり、こうしたことが予想された、使ってはならない技だったんだ! 」

 ケインがどうしようもなさに、ぎゅっと目をつぶり、口を引き結ぶ。

 クレアも、顔を覆った。


「いてっ! 」


 遠い空の彼方から、そのような声が微かに聞こえたと思うと、ひゅるるるるる……

と、何かが堕ちてきた。

 『それ』は、地面に触れることなく、くるっと回転して、宙に浮かぶ。その時、

ちょっとした風圧が起こった。

「ちくしょう! どうやら、ヒト並みの術しか使えねえらしい。しかも、このよじれ

た空間の中じゃあ、ヒトの力では、『外』に出るのは不可能らしいな。

 ……ヴァルドリューズの野郎、ハカリやがったな!? 」

 そう空中でブツブツ言い、悔しそうにしているのは、つい今し方飛んで行ったばか

りの、『獣神サンダガー』その人であった。


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