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Dragon Sword Saga3『砂漠の謎』  作者: かがみ透
第Ⅵ話 砂漠での戦い
14/19

VSゴーレム VSサラマンダー

 どぼふあっ! 


 その時、強い風が地面をえぐった。

 サラマンダーの巨体は、何かで突き飛ばされたように、一瞬で弾き飛び、砂にめり

込んだ。

「ヴァル! 」

 マリスの歓喜の声が響く。

 ケインのすぐ後ろの空間が揺らめくと、そこには、ヴァルドリューズが姿を現した

のだった。

「おーい、ケイン、マリス、大丈夫だったかー!? 」

 舞い上がる砂煙の中から、カイルとクレアの乗ったダグラと誰も乗っていないダグ

ラがやってきた。

「き、貴様、仲間がそんなにいたのか!? 」

 プーが、素っ頓狂な声を上げた。

 ケインの隣に来たヴァルドリューズは、ちらっと、プーの乗るゴーレムを見上げた。

「ヤツは? 」

「ああ、昔の知り合いだ。どうやら、『蒼いじいさん』の一派らしい」

 ヴァルドリューズの瞳が、一瞬鋭く細められた。

「ヤツ自身は、まだ駆け出しの魔道士なんだが、あのゴーレムは、上級魔道士の作っ

たものだと言っていた。剣で斬ってもすぐにくっついてしまうんだ」

 ケインが話し終わるか終わらないうちに、巨大トカゲが砂の中から、むっくりと

起き上がる。

「ゴーレムは私がなんとかする。魔獣は、お前が倒せ」

「あんなデカイ魔獣を、俺ひとりで!? 」

 思わず、ケインはヴァルドリューズを見返した。

「どうした? お前ひとりでも、マリスを魔獣から守ってやるのではなかったか? 」

 彼の静かな声は、挑発しているかのように、ケインには思えた。

「……そうだったな」

 ケインは、手にしているバスターブレードに、ぎゅっと力を込めた。

「それではない。マスターソードを使え」

 落ちているマスターソードを拾って、ヴァルドリューズが差し出した。

 バスターブレードを背中に担ぎ直し、戻って来たマスターソードを両手に握り締め、

ケインは、サラマンダーに向かって構えた。

「それは、あたしの獲物よー! サンダガーに食わせるんだから! 」

 マリスのヤツ、この期に及んで何を言ってるんだと思いながら、ケインは、大トカ

ゲに向かい、斬り込んでいった。

 サラマンダーは、さすがに砂漠慣れしていて、ゴーレムよりも、動きが敏捷だ。

 ケインが、フェイントをかけても、すぐに方向転換が出来る。

 深い砂場を走り回らなくてはならない人間の方が、断然不利な状況には違いなかっ

た。

 それでも、一瞬の隙を見つけ、ケインは魔獣の振り翳す鋭い爪目がけて、一気に

斬りつけた。


 しゃあああぁぁぁあああ! 


 三本の指先は、それぞれ飛び散った! 

 そこから不気味な緑色の血液が、ぶしゅ~と勢いよく流れ出る。

 牙だらけの口は天を仰ぎ、舌もちりちりと伸び上がっていく。

 その間にも、ケインは、魔獣の白い腹の下に滑り込み、斬りつけていった。

 魔物特有の血が、白い腹からも吹き出す。緑色のぶよぶよした内蔵が、割れた腹か

ら覗く。

 彼は、その場から脱出し、倒れるのを見届けようとしたのだが、

「ケイン、よけて! 」

 マリスの声が聞こえたような気がした。

 と同時に、サラマンダーの口から炎が吐き出された! 

 人ひとりなど簡単に包み込んでしまうほど、大きく、勢いもある炎の渦が、ケイン

を襲った。

 マスターソードを迫り来る炎に向けて突き出す。


 しゅるるるるるる……! 


 炎はすべて、マスターソードの中に吸収されていった。

(良かった。マリスに剣を使われても、中のダーク・ドラゴンは逃げなかったみたい

だ)

 ちらっと、剣の柄を見て、ケインは、わかっていたことでも安堵した。

「むうぅぅ! やはり、恐るべし、マスターソード! 」

 プーの声だった。

(あいつは、きっと、魔石を三つとも揃えたマスターソードのままだとでも、思って

いるんだろう)

 炎を吐き続けるトカゲの術を、次々と、難なく吸い込んでいくマスターソード。

 ダーク・ドラゴンも喜んでいるのか、剣の中で、勢いよく、くねりまわっている

感じが、ケインにも伝わる。

「そろそろ、反撃させてもらおうか」

 サラマンダーから、再び発射された炎目がけ、ケインがマスターソードを向けた。


『剣に()まいし黒き竜――ダーク・ドラゴン――よ。(くれな)いの竜に、その身

(うつ)せ! 』


 剣先から現れた、西洋竜を(かたど)った黒い影は、瞬時に赤々と燃え盛った。

 渦巻く炎に、まるで生きたドラゴンのような炎が激突する! 

 炎のドラゴンが、炎の渦を喰らうように、二つの炎は絡み合い、周囲を赤々と照ら

す。

「レッド・ドラゴン――!? 」

 マリスとカイルが同時に叫ぶ。クレアは、驚きのあまり、声も出せなかった。

 ヴァルドリューズの瞳は、何かを確信したように、微かに光る。

 炎の竜が渦を吸収し、サラマンダー本体にも襲いかかると、もはや、サラマンダー

に逃げる(すべ)はない。

 レッド・ドラゴンに絡めとられた巨大トカゲは、跳ね上がりながら、なんとか飛び

退いたが、口先から腹にかけた全身の半分が焦げ、パリパリと、皮膚が(ウロコ)

ように割れ目が出来、()がれかかり、激痛に、のたうち回っていた。

「すごいわ……! マスターソードって、炎の技も出来るのね!? 炎系の得意な

サラマンダーにさえダメージを与えるなんて――! 」

 捕らわれの身であるマリスが、そんなことは一切忘れているかのような、感心した

声を上げた。

「ふふん、あんなのは、ほんの序の口だ。あの剣は、私の呼び出したデモン・ビース

トですら、一瞬にしてやっつけてしまったくらいなのだからな! 」

 プーが、誇らし気に、威張って見せた。

(お前って、一体……? ホントに敵なのか? )

 時々、ケインは疑問に思う。

 それまで、ゴーレムに水の呪文を浴びせる様子のなかったヴァルドリューズに、

動きが現れた。

 彼の指が三角印を作り、その中に、ぼわーっと金色の光が生まれていた。

 マリスの周りにも、白い煙のようなものがしゅうしゅうと集まっている。

 その光景を、一行が目にしたのは、二度ほどあった。

(まさか、獣神『サンダガー』!? )

 プーの目の前で、マリスの身体は、金色の光に包まれたかと思うと、巨大化が始ま

った! 

「な、なんだ!? 」

 ゴーレムの肩の上で、プーが驚いていた。

 マリスを掴んでいたゴーレムの指が、どれもみしみしと(きし)みを立てると、

大きな(ひび)が入っていったのだった。


 ばごほぼふぁおっ! 


「ぎゃーっ! 」

 ゴーレムの手が崩れる音と、プーの叫び声は、殆ど同時だった。

 金色の光は、ますます巨大化していき、ゴーレムと同じ位の大きさにまでなって

いった。

 そして、その金色の光の塊は、ヒトのような形へと変貌していったのだった。


「ふはははは! お久しぶりだぜーっ! 」

 聞き覚えのある声が、響き渡る。

 金色にたなびく長髪、白い彫刻のような整った顔立ち、全身を金色の鎧に包まれた

美しくもあるが、邪悪でもある姿形――それはまさしく、『彼』以外の何者でもなか

った。

「今まで退屈で、しょーがなかったぜ! マリスは死にかけるしよー。俺様の出番も

もうおしまいなのかと思ったら、つまんなくなって、ついフテ寝しちまったぜー! 」

 彼は、皆が呆気に取られていても気にせず、大声で笑った。

「あああ……! 何者なんだ、こいつは!? 金色の……しかも、喋るゴーレムなん

か見たことないぞ! 」

 事態がよくわかっていない哀れなプーは、それ以上、目を開けないほど見開き、

足はゴーレムの肩の上を落ち着きなく歩き回っていた。完全に混乱している。

 サンダガーは、それへ、ちらっと目を向けた。

「ほほう、俺様のことがわかっていない人間がまだいたとはな。それじゃあ、自己

紹介してやるぜー! 何を隠そう、俺様はゴールド・メタルビーストの化身、獣神

『サンダガー』様だーっ! 恐れ入ったかー! ゴーレムなんかと一緒にすんなよぉ

ー! はーっはっはっは! 」

 サンダガーは、五月蝿(うるさ)かった。両手を腰に当て、下界に出て来られるのが

嬉しいとでもいったように、いつでも高飛車な笑い声を立てている。

「獣神『サンダガー』だと!? そのような邪神がなぜこんなところに!? 」

 プーには、理解不可能であった。まだ気が動転しているらしく、頭を片方の手で

押さえ、思いっきり見開いた目はサンダガーに釘付けだった。

(それにしても、自分の主人は悪い魔道士だっていうのに、それは棚に上げた発言だ

よな)

 ケインは、ちらっと思った。

「今日の獲物は、ゴーレムと壊れたトカゲか。まあ、いっか。二つもあるんだからな。

ふっふっふっ……」

 サンダガーは、腕を組んで、ゴーレムとサラマンダーの二体を物色するように眺め

降ろしていた。

「よしっ! ゴーレムはぶっ壊すとして、トカゲは焼いて食おう! 」

 ぽんと手を打って、彼は言った。

(言うことまで、マリスにそっくりだ! )

 一行の皆は、そう思った。

「よーし、それじゃあ、いくぜー! 木偶(デク)人形めー! 」

 嬉しそうに笑いながら、サンダガーは片方の拳を振り上げた! 

 その直前に、ヴァルドリューズが一瞬でケインのところへ現れ、次の瞬間、彼ら

一行は同じところに集められていた。ヴァルドリューズの張った結界の中へ。

 巨大ゴーレムは、サンダガーの拳を、砕けた方の手とともに両手で、受け止めよう

と突き出すが、勢いのいい拳をまともに受け、両方の腕は肩まで罅が入っていくと、

ガラガラと崩れ落ちていってしまったのだった。

「うわあああーっ! 」

 プーが、ふわっと宙に浮かんだ。粉々になったかけらは、復活することはなかった。

「な、なんということだ……! こんなことは聞いたことはない! 『水』を使わず

して、ゴーレムを、たったの一撃であそこまで……! 」

 プーは、あわあわ言っていた。

「だから、俺様は『神』だって言ってんだろー? 所詮ヒトが作ったモンなんか、

神に(かな)うわけないのさー! 」

 サンダガーは舌舐めずりすると、同じ拳でゴーレムの中心を殴りつけた。

 黒い巨体は、あっけなく、石ころとなってドサドサ砂の上に転がっていった。

「あああ……なんてことだあ! これは一大事! 今すぐ大魔道士様に、ご報告せね

ば……! 」

 プーは、忠実にも、蒼い大魔道士のもとへ知らせようと消えていったのだった。

「ふっ、弱者は逃げ足が速いもの」

 サンダガーは、兜からはみ出た金髪をかき揚げ、ふっと笑った。

「次は貴様の番だぜ、トカゲー! 」

 言うと同時に、それまで警戒するようにサンダガーを伺っていた巨大サラマンダー

に向かい、彼は掌を向け、大きな炎の球を出したのだった。


 げきゃぴっ! 


 サラマンダーは、瞬く間に炎に包まれ、奇妙な叫び声を上げながら、悶えて、跳ね

上がった。

「よーく焼かないとな。デリケートな俺様の胃でも、ちゃんと受け付けるようにな」

 サンダガーは、ぶつぶつ独り言をいながら、炎の中に手を突っ込み、大トカゲを

裏返ししたりしていた。

 炎に触れても、彼は平気であった。

 一行にとっては、自分と同じ位の大きさのサラマンダーを喰らうとは、度肝を抜か

れたが、呆れてしまうほどでもあった。

「なんか、マリスに似てないか? 」

 カイルが、ぼそっと言い、クレアも、ケインも頷く。

 いつの間にか、結界の中に現れたミュミュは、結界の『壁』に、ペタッと張り付き、

その様子を、物欲しそうな顔で見つめる。一見して、腹が減っているようだった。

 突然、ヴァルドリューズが顔を上げる。

「どうしたんだよ? いきなり、びっくりするじゃないか」

 カイルもクレア、ケインも、ヴァルドリューズを見上げる。

 ヴァルドリューズは、結界の壁へ近付き、遠くを見据えるようにして外を見る。

 サンダガーは、胡座(あぐら)をかいて、座り込み、嬉々として、少し縮んでしまっ

たサラマンダーの肉に、かぶりついた。

 間もなく、一行を覆っていた結界が、急に解かれた。

「どうしたんだよ、ヴァル。いつもサンダガーが退場するまで、結界を解かないじゃ

ないか」

 ケインは、ヴァルドリューズの様子から、不安げな表情を浮かべていた。

「何か、地鳴りのような音が聞こえた気がした。……やはり、今も聞こえる……! 」

 彼に続き、クレアも頷いた。

「そう言えば、なんとなく、聞こえるような……? 」

 ケインとカイルも、顔を見合わせ、再び、ヴァルドリューズを見ると、いつもと

様子が違うのがわかる。

 彼の碧眼には、深刻な色が浮かんでいたのだった。

「……次元の穴の謎がわかった……! 」

「えっ? ああ、あの巨大サラマンダーが出て来たところが? 」

 ケインの問いかけには頷きもせず、彼は進み出て、珍しく、声を張り上げた。

「マリス、戻れ! そこは危険だ! 」

 彼は、サンダガー――マリスに向かって、そう叫んでいた。

 たちまち、サンダガーの身体は、下から白い煙に包まれる。

「うわあっ! 何すんだよー! 」

 サンダガーが泣きそうな声で(わめ)いた。

『いいから、早く戻るのよ』

 マリスの意志の声も、どこからともなく聞こえる。

「いやだーっ! まだ食いかけじゃねーか! 」

 それでも、サンダガーは、トカゲにかじりついていた。

「マリス、早く戻るのだ! 」

 いつになく、ヴァルドリューズの真剣な様子に、一行が不思議に思っていると、


 ずごごごごごごご……! 


 地響きと共に、サンダガーの足元の砂が、一気に崩れ去った。

 それと同時に、ヴァルドリューズの姿が消えた。

「なんだ!? また砂地獄か!? 」カイルが叫ぶ。

「違うわ! あれは……! 」

 クレアが言いかけた時だった。

 サンダガーが白い煙に巻かれたまま、絶叫し、地割れの中に、沈んでいった。

「マリスー! ヴァルー! 」

 ケインたちが叫び続けている間も、地割れは更に広がっていき、一行のいる場所に

まで及んで来たのだった。

「うわあーっ! 」

 一行もダグラも、砂の中に出来た地割れへと、吸い込まれていくようにして、堕ち

ていった――! 


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