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Dragon Sword Saga3『砂漠の謎』  作者: かがみ透
第Ⅳ話 オアシス
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ヒトの道(2)

 男性用の水浴び場で、疲れを取ったカイルとケインは、木陰で瞑想するヴァルドリ

ューズとは別行動になり、キャラバンたちの露店を、プラプラと見物しながら、マリ

スとクレアを待つことにした。

 女性用水浴場は、始めに見た大きな湖を挟んで向こう側である。男性用同様、やは

り、背の高い岩場に覆われていて、浴場の中は見えない。

「しかし、こんなところじゃ、なかなか出会いなんかないだろうなー。別に、期待し

ちゃいないけどな」

 カイルが、露店で買った、果物の干したものをかじりながら笑う。

 彼が普段の元気を取り戻してきたのを嬉しく思ったケインも、くすっと笑った。

 しばらくして、カイルの足がピタッと止まり、そのまま茫然と立ち尽くす。

「どうしたんだよ、カイル? 」

 怪訝そうに、ケインがカイルの顔を覗き込み、その視線を辿ってみると、二人の、

まだ若い女性の後ろ姿があった。

 ひとりは、長い艶やかでストレートな黒髪。肩を包む程度の膨らんだ短い袖、ハイ

・ウェストを紐で結んでいる、淡いピンク色をした膝丈のワンピース姿だった。

 東方の踊り子が着ると言われている服に、似ているとケインは思った。

 もうひとりは、オレンジ色に輝く長いカールがかった髪で、赤い民族衣装に身を包

んでいた。

 背中が広く開いていて、中で赤い布を巻き、その上から、赤い、透ける素材の服を

まとい、腕のところは膨らんで、手首で締まっている。

 腰にサッシュを巻き、同じ色の膨らんだパンツの足首のところは、キュッと窄まっ

ていて、隣のピンクの衣装に比べ、彼らの着ている服装と近かった。

「後ろ姿を見る限りでは、お二人とも美人だよな。まさか、こんなところで、こんな

女の子たちがいようとは……! 」

 ウキウキしているカイルの横では、ケインも思わず頷いていた。

「そもそも、このオアシスに着いてから、食堂だろうとなんだろうと、女性客なんか

見かけたのは、初めてだな」

 ケインがきょろきょろしながらそう言うと、いきなりカイルが走り出したので、

慌てて追いかけた。

「ねえねえ、彼女たち、どこから来たの? 」

 カイルは、赤い方の女の子に声をかけた直後、ピシッと強張(こわば)り、動かなく

なった。

「すいません、こいつが何か変なことを……! 」

 カイルの首根っこを後ろから捕まえたケインが、ペコペコする。

「カイルにケインじゃない。何してるの? 」

 聞き覚えのある声に、ケインが顔を上げると、紫の瞳と目が合った。

「……マリス? ……クレア? 」

 砂だらけだった時とは打って変わった美しい姿に、しばらく言葉が告げられず、

二人の男は、茫然としていた。

「あー、わかった。あなたたち、あたしたちだと思わなくて、ナンパしようとしたん

でしょう? 」

 マリスが、からかうように瞳をくるくる輝かせて、カイルをつんつん(つつ)いた。

「まっ! こんなところに来てまで……! なんて人たちなの!? 」

 クレアが、横目でカイルとケインを交互に見る。

「俺は違うよ! こいつを止めてただけだよ。一緒にするなよ! 」

 固まったままのカイルの首を抱え、ケインは、自分名誉を守るのに必死だ。

「いやあ、あんまりかわいいから、思わず声をかけちゃったぜ。ホント、無意識のう

ちだったんだよ。かわいいってのは罪だよなー」

 カイルが、にっこり笑って、クレアとマリスに愛想を振りまく。

(な、何言ってんだ、こいつ? )

 取り繕っているカイルを見て、ケインは横で、背中がかゆくなるような思いがし、

思わず彼から手を引いた。

「あら、かわいいだなんて……」

 二人の少女たちは、まんざらでもなさそうに微笑む。

 東方の文化も手伝って、二人は、どこか神秘的な、不思議な雰囲気であった。

「こんなに短い服、着たことないわ。……変じゃないかしら? 」

 つい先程まで、目を吊り上げていたクレアが、膝上のスカートの裾を気にする。

「そんなことないっ! よく似合うぜ! 髪も、そうやって降ろしてるのも、かわい

いっ! 」

 カイルが大袈裟に絶賛する。

 ケインも同感であった。ただ、彼のように、ペラペラ言ってあげることが出来ない

でいた。それをもどかしくも思う。

「私には、こういう可愛らしいのは似合わないんだけど、やっぱり、クレアには似合

うわね。羨ましいわ」

 マリスは、クレアを眩しそうに見ていた。

 以前、カイルが指摘していたように、マリスは、中性的な雰囲気であることをうま

く利用する時もあれば、それを気に病むこともあるのかも知れないと、ケインはふと

思った。


「食料だ! 食料をよこせ! 」

「水もだ! もっと持ってこい! 」

 一行が、夕飯でも食べようと、宿に戻る途中、十数人の男たちが、キャラバンを脅

し、露店の前に群がっているのが見える。

 関係のない露店のキャラバンたちは、そそくさと荷造りを始めている。

 その場から逃げて来た商人を捕まえて聞くところによると、彼らは砂漠を旅するう

ちに、資金が底をつき、ろくに金も払わず、水や食料を強奪しようとしているのだと

いう。

「だからって、野盗に変貌するとは……」

 ケインは、彼らの前に進み出ようとすると、

「お待ちなさい! 」

 いつの間にか、赤いパンツスタイルと、ピンクのワンピース姿の女たち――マリスと

クレアが、彼らの前に立ちはだかっていた。

「水や食料が貴重なものであるのは、皆にとっても同じこと。それを、お金も払わな

いで持ち去ろうとは、不届き千万! 自分たちだけは特別だと思う、その(おご)

高ぶりを、今すぐ悔い改めなさい! 」

 クレアが、彼らに向かって、指を突きつけた。

「天に代わって、成敗するわ! 」

 マリスも片方の手を腰に当て、もう片方は彼らに突きつけ、クレアとポーズを揃え

た。

 ケインたちの知らない間に、二人の息はピッタリであった。ケインとカイルは、

そのまま様子を見ることにした。

「なんでぇ、てめえらは!? 」

「小娘どもが! おかしなこと言ってると、てめえらも、かっ(さら)って、売り飛

ばしてやるぞ! 」

 人相の悪い、茶褐色の皮膚をした男たちは、本物の野盗ではなさそうであるが、

随分と乱暴な口をきいた。

 だが、飢えが人をここまでにさせている、とばかりは言い切れなかっただろう。

 ケインやカイルが思うに、彼らは、もしかすると、ヤミ商人か、もしくは、それら

と取引をしている者たちかも知れなかった。

「人を売るという行為は、それだけで犯罪です! あなたたち、それ以上、罪を重ね

ていくつもりですか!? 」

 クレアが、大真面目に発言していた。

 言っていることは間違ってはいなくとも、彼女の言うことは、どこかズレていると、

ケインとカイルは思った。

「かっ(さら)えるもんなら、かっ攫ってごらん! 」

 マリスの先制攻撃だった。向かいの男に蹴りを喰らわせると、男は、どたっと倒れた。

 クレアも、呪文を唱え始める。

「このアマ! やっちまえ! 」

 野盗まがいの男たちは、一斉に、マリスとクレアに襲いかかっていった。

 待ってました! とばかりに、マリスが、男たちを次々と投げ飛ばしていく。剣は

なくとも、素手で充分であった。

「うぎゃーっ! 」

 クレアに、手を伸ばした数人の者たちも、彼女の放つ風の魔法によって、露店と共

に吹き飛ばされ、舞い上がった。

 大勢を一遍にやっつけるという点では、効果的ではあったが、関係のない人々まで

巻き込んでいた。

 実戦経験の少ないクレアには、まだ状況判断は難しいようだ。

 数十人の賊たちは、二人の少女により、みるみる『人山』となって、築かれていっ

た。


「これっぽっちじゃ、足りねえよ」

 男たちの持ち合わせでは、せいぜい三人分の食料と、水を買うので精一杯のようだ

った。

「おなかが空いたら、祈りなさい」

 クレアが、手を合わせた。

「祈って満腹になるか! 」

「そうだ、そうだ! 」

 男たちは、跪いたまま、ぶーぶー文句を言う。

「だからって、人様から食べ物を奪っていいの!? 」

 マリスが仁王立ちになり、腕を組んで、彼らを見下ろす。

(あのー、そんなこと、きみに言えた義理だろうか? )

 ケインは、ちょっと思った。

「金が足りないんだったら、真面目に、ここで働いて稼いだらどう? それでこそ、

初めて人並みの食事が出来るってものよ。地道にやりなさいよ、地道に」

 マリスが、手前にいる禿げ頭を、ポンポン叩いて言った。

「あなたたちの(すさ)んだ心に、よく効くお話をして差し上げますわ。

 昔々、あるところに、有り難い老修道士様が……」

 言いかけたクレアを、マリスが引っ張って連れ去った。

(一体、何を言おうとしていたんだろうか? )

 ケイン、カイルは、目を点にしながら、見守っていた。


「おっちゃん、あと、そいつとそいつも! 」

 機嫌のいいカイルの声が響く。

 一晩を、固い石のベッドで過ごし、完全復活した一行は、ダグラを二頭と食料、

水を買い、準備万端で、オアシスを後にしようとしていた。

「それよりも、お客さんたち、この砂漠の中を、ガイドなしに行くってのは、あまり

にも無謀なんじゃないのかい? いくら、そっちのお方が魔道士だと言っても」

 商人たちが、皆心配そうに一行を見ていたが、構わず出発する。

 いよいよ、次元の穴を捜す彼らとしては、どのような化け物が出るともわからなか

ったため、一般人を巻き込むことは出来なかったのだ。


 ぱたたたた……

 オアシスを出発して間もなく、何か白いものが飛んできて、一行の頭上で旋回して

いる。

「バヤジッドのハトだ」

 そう言って、ヴァルドリューズは、腕にハトを止まらせた。

 ハトの足に(くく)り付けられた小さな袋を開けてみせると、そこには、あの赤い

飴玉が入っていたのだった。

「……いまさら……」

 呟いたのは、ヴァルドリューズ以外、全員だ。

「また砂漠の熱で溶けちゃうんじゃないか? 」

 呆れたように、カイルが言った。

「ま、そうなったらそうなったで、仕方ないでしょう」

 マリスは、それを、無造作に布袋の中にしまった。


 やっとのことで、本来の目的である、魔物の通り道『次元の穴』を、目指せる『白

い騎士団』一行であった。

 クレアとマリスが同じダグラに、男性陣は、ひとりずつダグラに跨がり、再び砂漠

へと向かう。


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