信じる者は救われる?
--ねえ君、悪魔を信じるかい?
街を歩いているとすれ違いざま、いきなりそうささやかれた。
--何ですか突然。新手の宗教か何かなら、お断りですよ。
見れば見るほど、気味の悪い男だった。
青白い肌に、妙に小ざっぱりとした身なり。そのくせまぶかに被られた帽子と口元を覆い隠すマフラーによって、ほとんど表情を見ることはできない。
けれども不思議なことに、彼が薄笑いを浮かべていることがわかる。それがますます、彼の疑心を色濃くさせた。
--いえね、別に怪しい者ではないんだ。ちょいとたずねてみたくなっただけで。
怪しい人間ほど、自分のことは怪しくないと言う。信用は限りなく地に近い。
疑いの眼差しを送る。すると男はそれを感じ取ったのか、わずかに苦笑いを浮かべた。
--さては君、信じていないね?
当然だ。大体誰が初対面の人間を無条件で信用するというのか。もし私が逆の立場だったら、はいそうですか、と簡単に信じたりしないだろう。
--まぁわからんでもないがね。だが、私の言っていることは事実であり、真実だよ。
完全に言い切った。言い切ったぞこいつ。
妖しさに磨きがかかった。いやもう、これで怪しくないなんて思うやつがいたら、もうそれはよほどのお人好しかバカだろう。
--急ぎの用があるので、では。
こういうのには、極力関わらないほうがいい。有無をいわせずにそう言い切って、逃げるようにその男から遠ざかった。
--ああ、今日も救えなかった。
ぼそり、とそんな声が、後ろから聞こえたような気がした。
それは古い古い、どのくらい古いかわからないほど、古い言い伝え。
もしも悪魔を名乗る者が現れたら、決して無下にしてはいけないよ。その人は、君を試しているんだ。君が生きるべき価値のある心を持っているかどうかをね。