新たな門出
ある晴れた良き日、二人はささやかな結婚式を挙げた。
彼らを祝うは、咲き誇る花々。
彼らを祝うは、飛び立つ鳥達。
彼らを祝うは、雲一つない空。
「誰よりも君を、幸せにするから」
「うん」
彼がそう言って、はにかむ。それに彼女も頷いて、微笑み合う。どちらからともなく、唇が重なった。
――瞬間、まるで彼らの門出を祝うように、花々が揺れ、鳥達が舞い、空が煌めく。それはまるで、自然が彼らを祝福しているかのようで。
彼らの結婚を知る人はいない。けれど、彼らは確かに″祝われて″いた。
小川のせせらぎも、木々から漏れる木漏れ日も、柔らかくそよぐ風も。
彼らの周りにあるもの全てが、まるで新しい門出を祝しているように感じられた。
例えこの先、どんな険しい道が待ち構えていようとも、二人で乗り越えていこう。
彼が、静かに呟く。それに彼女が頷いて、ぎゅっと手を握り合った。
――そんな、夢を見た。何時の記憶だったろう?酷く昔のような、ごく最近の事のような。……いや、そもそもこれは、本当に僕の記憶だろうか?
それほどに、夢の記憶は曖昧で、でも、まるで現実のように色鮮やかで。
「……」
思わず、空を仰ぎ見る。
――見上げた空は、何処までも蒼く澄み切っていた。