1.サボり
俺は影山 成二。ある朝、目が覚めると、俺は見覚えの無い部屋に居た。
起き上がると、背中に違和感を覚えた。
恐々と背中に手を持って行くと、黒くて長い髪の毛がそこにあった。
これってまさか?
俺はベッドから出ると、部屋の隅っこにある鏡台の前に移動して鏡を覗いた。そこに映ったのは、容姿端麗な少女の姿だった。
俺はこの女の子を知っている。この子は俺と同じ学校のクラスメイトで、名を天道 光と言う。俺はこの光に片思いをしていた。
「──って、何で光になってんの!?」
驚き戸惑う俺。
落ち着け、俺。これは夢に違いない!
そう思って頬を抓ると、痛みを感じた。
夢じゃない。
何でこうなった?
俺は昨日の事を整理してみる。
昨日、学校で光に告白して振られた俺は、帰りに不思議なお店に立ち寄り、妖しい商品を購入した。それは、特定の人物になれる薬。なりたい人間の事を思い浮かべながら飲めば、翌朝にその人物になっていると言う代物だ。俺はきっと、薬の効果で光と入れ代わったに違いない。
そう思った俺は、光の携帯電話で俺の携帯電話にコールした。
「もしもし」
スピーカーから男の眠そうな声がする。
「もしもし」
「うん? ああ、光か。どうしたんだ?」
どういう事だ?
「いや、起こそうと思って電話しただけ」
「そうか」
ブツッと切れる電話。
俺は携帯を置いて制服に着替え、部屋から出た。
廊下を真っ直ぐ右へ進むと、左側に階段があり、半分ほど降りると右にUターンするかのように折れていた。
下の階に着いた俺は、リビングへ入った。
「光、お早う」
キッチンでお弁当を作っているおばさんが言った。
この人が光のお母さんだろう。
「お早う、お母さん」
俺は取り敢えずそう返して席に着く。
テーブルには既に朝食が並べられていた。
「いただきます!」
俺は朝食を素早く食べ、
「ごちそうさま!」
部屋に戻って携帯電話を懐に仕舞い、鞄を持って玄関に向かう。
「光、お弁当はいいの!?」
「今日は食堂で食べるからいい!」
俺は家を飛び出すと、登校中に昨日のお店へ立ち寄った。
「おじさん、昨日ここで薬を買った影山だけど!」
「──と言う事は薬を飲んだんだね」
「その事で一つ質問があるんだけど、入れ代わる前の俺はどうなってる訳?」
「君の本体には君の分身が入ってる」
「じゃあこの女の子は?」
「君の魂が入った事でその子の意識は眠ってる。言わば、君がその子の体を乗っ取ったと言う事になるね」
「成る程。お陰で状況が把握出来ました。では」
俺は店を出て学校に向かった。
学校に着くと、教室の前に少年が立っていた。
黒の短髪でブサイクに近い顔の彼は俺自身。俺と光は幼馴染みだ。
「お早う、成二。何してるの?」
成二は振り返った。
「お、お早う」
成二は気まずそうな顔をした。
先ほどの話を要約すると、この成二は俺の分身と言う事か。
「成二さ、昨日、私に言ったよね。好きって」
「あ、うん……」
これは願ってもないチャンスだ!
「振っちゃってごめんね。本当は私も成二の事が好きなの」
「え?」
「付き合ったげる」
「光……?」
「こんな所でボーッとしてないで中に入ろう?」
俺は成二の手を引いて教室に入った。
お互いに席へ着く。
光の席は窓際の一番後ろ。その前が俺だ。
「ねえ、成二」
「何だ?」
振り向く成二。
「あのさ……今日、お財布を忘れて来ちゃって、その……悪いんだけど、お昼奢ってくれない?」
「それは構わないけど、どうして俺なの?」
「近いから」
「……………………」
成二は無言で前を向いた。
前の扉が開き、先公が入ってくる。
朝会が始まり、先公がつまらない話をし出す。
やがて長い話が終わり、先公が出て行く。
朝から尿意を我慢していた俺は、女子トイレに駆けた。
個室に入り、用を足して出る。
スッキリした。
手を洗い、教室に戻って授業の準備をした。
一限目は数学。俺の苦手科目だ。
「光、サボろうか」
成二からの突然の誘い。
「うん」
俺は素直に同意してしまった。
「どこにする?」
「屋上でいいんじゃない? 行く所無いし」
「そっか。そうだね」
俺と成二は屋上でサボる事にした。




