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第15話

「森ちゃんたち、着替えてから行くからちょっとだけ待っててって」


 空太がメッセージを見て言った。




「部長、なんて言うかなあ」


 陸人は居心地が悪そうな顔をしている。




「かわいいって言ってくれるんじゃないの? 日菜ちゃん」


「言わないと思うけど……」


「ああ、部長、早く来ないかな……」


 なんだかうれしそうな草一郎を横目に、陸人は固まっていた。




 数分後、浴衣を着た日菜と森が部屋に入ってきた。




「あはは、何それ。空ちゃんだけはなんの違和感もないけど」


 日菜があきれて笑った。


「ええ? 二人もかわいいでしょ」


 空太が言った。


「うーん、まあ、私が二人を男だって知ってるからいけないのかな。そうね、一ノ瀬君は思った以上に似合ってるかな」


「え? ホントですか部長……無上の喜びにございます!」


 草一郎は小さくガッツポーズをした。


「山下君も、もう少しおしとやかにしたらかわいくなるかも」


 日菜は草一郎の反応をスルーして陸人を見てそう言った。


「そんなこと言われても……」


 陸人はますます困り果てた。


「あ、そうだ。一ノ瀬君。あなたのカメラで撮っておいてよ、その姿。私は部屋で動画の確認してるから」


「え? あ、はい!!」


「空、髪整えるからこっち来て」


「あ、わかった森ちゃん」




 部屋には草一郎と陸人が残された。呆然と立っていた陸人が口を開いた。


「なんなんだよこれはさあ」


「あ、まあ俺のせいか。ごめん」


「ごめんじゃないよ、まったく」


「でもさ、かわいいって言われると悪い気しないな」


 草一郎はニヤニヤしている。


「そうか?」


「ああ、ちょっと星野君の気持ちわかったかも。今度うちで女物の着物着て仲居やってみようかな」


「マジか!? まあ、お前も似合ってるっって言えば似合ってるけど」


「おお、山下までそんなこと言ってくれるか! がぜん自信がでてきたぞ」


「お前は自由でいいなあ」


「そうかあ?」


「俺は無理だよ。いまもむずむずするし」


「ええ? 別に女物の浴衣着てるだけじゃん。化粧してるわけでもないし」


「そうかもだけどさ」


「まあ、嫌な人に無理強いするのは確かによくないけどな」


「そうだよ」


「でもさ、星野君だって、ホントはかわいい服とか着たいのに、着られないように無言の圧力かけられてたようなものなんじゃないのかなあ」


「あ……」


「周囲の目って怖いもんなあ」


「うん……」


 もしかしたら自分も圧力をかけてたかもしれない。陸人はそう気づかされ、少し心に引っ掛かかるものを感じた。


「だから、俺らは絶対、そういうことしないようにしようぜ」


「あ、ああ……」




 空太が部屋に戻ってきた。ちょっとぼさぼさになっていた髪が、きれいにストレートに整えられ、帯もきれいな位置に着付けられていた。


「うっわ、星野君、まじ美少女だわ。浴衣似合いすぎ!」


 草一郎が感嘆の声を上げた。




「ホント? うれしいな。でもボクは男子だけどね」


「美少女男子ってのもいいんじゃないかな」


「あはは、何それ? 一ノ瀬君って、やっぱり面白いね」




 空太の浴衣姿を見た陸人は再び硬直していた。




「あ、山下君、早く写真撮ってもらおうよ」


 空太が言い、陸人は我に帰ったように答えた。


「え? あ、いや……俺はいいよ」


「あ、またそんなこと言う。さっき駅でさ、ボクの写真撮って変って言ったくせに」


「ああ、そもそも俺さ、写真撮るけど撮られるの嫌いで……」


「ええ? それはずるいよ。さ、一之瀬君、早く撮ろう」


「ああ、わかった。ちょっと待って、カメラ出すから」


 そう言って草一郎はバッグを開け、日菜から借りているコンパクトカメラを取り出した。




「どこで撮る?」


「いや、ここから出るのはちょっと……」


 撮られるのは観念した陸人が言った。


「あ、そうだ。まだ明るいから外で撮ろうよ」


「はあ!?」


 空太がまた突拍子もないことを言いだし、陸人に追い打ちをかけた。




「山下君と二人で歩くとこ撮ってよ」


 空太は困惑する陸人におかまいなしに調子に乗っている。


「そうっすね。あ、でも女性用の草履借りないと。下駄ってわけいかないでしょ?」


 草一郎は草一郎で、もうイケイケだ。




「この姿、さっきの女将さんに見られちゃうだろ」


 陸人はなんとか止めようとそう言ったが……。




「いいじゃん、さっきの温泉の人みたいに気にしないよ」


 空太は意に介さない。


「いや……俺が気にするんだけど……もう、勘弁してよ……」


 陸人の困惑は頂点に達しようとしていた。


「うーん、つまんないなあ」




「あのさ、星野君」


 草一郎が真面目な顔になって空太に言った。


「君は黒いランドセルや男子の制服は嫌いだったんだよね」


「え? うん、そうだけど……しょうがないから着てたけどね」


「で、山下はやっぱり、女性の服を着るのは嫌みたいなんだ」


「あ……うん」


「無理強いしたら、君が好きな服着られなかったのと一緒じゃないの?」


 草一郎は空太の目を真っすぐに見た。




「あ……うん。そう言われれば確かに……山下君、ホントに嫌なの?」


「え?」


(俺に振るなよずるいだろ……)


「そりゃあ恥ずかしいけど……」


「そうなんだ。残念だなあ……」


 空太がうつむき加減になり、そう言いかけたところで陸人が言葉をさえぎった。


「あ、ああ、いやさ、星野がどうしても着てほしいっていうなら……」


「え、ホント? じゃあ着てほしい!」


 空太の顔がぱあっと明るくなった。


「はああ……だそうです」


「ホントにいいの?」


 草一郎が念を押した。


「しょうがない。覚悟決めたよ」


「そうか。じゃあ美少女男子三人で出撃だ!」


 草一郎はこぶしを振り上げて声を上げた。


「いや、俺は美少女男子じゃないし……」


 か細い声で陸人がつぶやいた。


「あはは、山下君まで美少女男子とか言ってるし」


「山下もさ、自分で思ってるほど似合ってなくはないから、自信持てよ」


「いやそんなこと言われても……」


「とにかくさ、早く撮りに行こう」


「そうだよ、いこいこ」


「はあ……」


 陸人はため息をつくしかなかった。




「あら、その浴衣……」


 ロビーに来た三人の姿を見た女将が言った。


「ごめんなさいね、ぜんぶ女性ものになっちゃってたのね。今、男性用を持ってくるから」


「あ、いやいいんですこれで。それより、大きめの女性用の草履を借りたいんですけど。あ、一足は普通の女性用でいいです」


 草一郎が言った。


「ええ? まあよく見たら、二人ともそれほど変じゃないかな。お嬢さんはとてもかわいらしいしね」


 女将が空太を見て言った。




「えーと……ボク……男子なんです」


 空太はすまなそうな声を出した。


「あら!? そうだったのねえ。最近の子は面白いわね。ちょっと待っててね、外出用の草履持ってくるから」




「ほら、女将さんも別に変な目で見たりしないじゃん」


 空太が胸を張った。


「そうかもしれないどさ、俺が恥ずかしいんだよなあ」


 陸人はまだもじもじしている。


「山下もさ、堂々としてればいいんだって。誰も気にしないから」


 草一郎が陸人の背中を叩いた。


「うーん……」


 陸人はまた困惑の表情を浮かべた。

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