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ビュルとヒャルマー

ドワーフゾンビのヒャルマーは倒した

    こいつには興味はない

勇者 待っていろよ

 ドワーフのヒャルマーの肉体を、入念に崩壊させた。

 体は崩れ、茶色い泥と、赤や黒い油となり、床に染みを作っている。

 骨格部分である骨も砕いた。

 首から上の部分だけを持ち、俺は小屋を立ち去った。


 ゾンビにしては知能があり、意志があり、魔法のようなものも使用している。何かに使えるかもしれないと思い、持ち歩くことにした。


 だが…


「いい加減にワシを解放しろ、骸骨」

「ワシは高貴な存在であるぞ、無礼者」

「体が戻ったら、貴様など粉々にしてやる。その後はエルフどもだ」


 生首は永遠に怨嗟と雑言を繰り返している。

 俺は気にしていなかったのだが、ビュルは怒りだし


「これ以上のケイ様への侮辱は我慢がなりません」


 どこからか伸びてきたつる草に囚われた生首は、ものすごい勢いで大木に叩きつけられた。

 その際に、つる草が巻き付いていた髪の毛は、頭皮ごとごっそりとはがれて落ちてしまったので、ヒゲを掴んでさかさまに持ち上げた。


「ケイ様、これを差して盾替りにするのはどうでしょうか」


 ちょうど握れる程度の、湾曲した木の枝が眼前に転がる。

 それを生首の頭蓋骨に突き刺し、左手に持った。


「ワシの頭を盾がわりに使うなど…」

 相変わらず、何かをブツブツと言っているが、俺は勇者の動向を確認し、周辺の地理を頭に叩き込んでいた。


 勇者は狩猟と採取で自給自足しているようだ。

 ヒゲが伸び、やつれているように見えるが、その目にはまだ光がある。


 いいぞ

 自害など許さん

 生きろ

 生きて苦しめ


 そうして、数日が過ぎた。

 あまり興味がなかったので、いつからかわからないが、生首は静かになっていた。

 少し微笑むような表情で「ひゃっひゃ」と奇声を上げたり、直後に苦悶の顔で唸っていたりした。

 だが、突如口を開いた。


「ケイどの」


 なんだ?まだ不満を喚くのか?

 何かに使えるかと思っていたが、有用な使用方法を思いつかなかった。

 もう、どこかの谷底にでも捨てるか。

 そんな事を考えていた。


「謝罪の機会をいただけませぬか」


 この感覚は、もしや


 不審に思い、持ち手部分の木ではなく、生首を直接触れる。

 ドライアドだ。半分以上はドライアドの意志や声音に近い。

 明らかに以前のヒャルマーとは違うものに変わっている。


「ビュル、何をした」

「はっ、支配下に置きました。ケイ様に対する数々の無礼な態度は目に余りました故。時間はかかりましたが、完全なる支配まで後僅かです」

「何故勝手に…いや、そうやって他者を支配し、思考を飲み込み、人格を増やしているのか」


 少しの間を置いてからビュルは答える。


「さすがでございます。隠していた訳ではございませんが、この人格も統合してよろしいでしょうか?」

「いいだろう。そうしてまた、俺に反旗を翻す算段をつけ、狙うのもいいな」

「わたくしの忠誠をお見せするまでです。それと…」


 ビュルは、この生首を俺の頭蓋骨内に格納したいと言い出した。

 完全なる支配が終われば、ヒャルマーの能力の一部を使用できるというのだ。

 肉体を持たないビュルには効果がないが、骨の身でも肉体を持つ俺にならば、その恩恵にあずかれるらしいのだが。


 勇者だけならば、現状俺だけの力でも討つのは容易だ。

 しかし、この先、聖女はどうだ。

 ドライアドの全面的な協力があったとしても、届かないだろう。

 カールやエッジですら、あっさりとやられた。

 勇者とは、力の桁が違う。

 ならば、僅かでも力をつけた方がいい。


「ビュル、やってくれ」

 俺がそう答えると、ヒャルマーの生首は割れた。

 頭蓋骨の中身は、細かい植物の根が隅々まで伸びていた。

 脳と根が混ざった物が、つる草に巻かれて俺の口と喉元の空洞から頭蓋骨内に運び込まれる。

「植物により固定しています。完全なる支配と、ケイ様への順応が済めば、その力を使用できるでしょう」

 重量や違和感は、ほとんど感じない。


 土や石が、以前とは違うように見える。

 草木や土の匂いを感じる。


 そしてビュルが告げる。

「ケイ様が望むのならば、わたくしとヒャルマーの力で肉体を構築することも可能でしょう」

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