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001 何でも知りたいお年頃

「ねーえ、どう思う? シェナ」

「何がですか、お嬢様」

「あー、そのお嬢様っていうの辞めてよね。もう結婚したんだからさぁ」


 ソファーに寝ころんだままおやつを食べる私は、気だるそうに突っ立ているメイドに声をかけた。

 薄い緑の肩までの髪に、夏草のような瞳の色。

 シェナは私付きのメイドであり、結婚する際に唯一実家から連れて来たメイドだ。


 有能なのはもちろん、幼い頃より仕えてくれている彼女には、大抵十言わなくても会話が成り立つ。

 まぁ、やや癖があるものの私はシェナを誰よりも信頼していた。


「ああ、じゃあ奥様? ん-。なんかしっくりこないんですよねぇ。んー、ミレイヌ様どうしたんですか」

「だーかーら、よ。どう思う?」

「どれについてですかって、こっちも聞いてるんです。初夜がなかったことですか? それともまた、ドレスのサイズが合わなくなったことですか? それでもなければ、結婚したのに旦那様に言い寄って来る女が後を絶たないってことですか?」

「もーー。なんでそうやって、シェナは一気に言うかなぁ」


 どれもこれも私が気になっていることではあるけど、ピンポイントに全部当ててこなくてもいいのに。

 しかも頬を膨らませ、シェナを見上げても素知らぬ顔で視線すら合わせようともしない。


「だって全部本当のことではないですか。それにどう思うか、と先に振って来たのはミレイヌ様ですし。ワタシのせいではありませんね、はい」

「そうやって自分で言って、一人で完結しないのー。シェナの言ってることは合ってるけどさぁ。何も、一気に全部言うことないじゃないの」

「どれか特定できなかったので、致し方ないですね」

「もーぉー」

「ああ、ただでさえ動物みたいに見えてるので、鳴くのはおやめくださいね」

「ひっどぉぉぉい」


 シレっと、本当のことですからと言ってくるあたりがなんというか……。

 でも聞けばちゃんと裏表なく全部答えてくれるとこに、私は信頼を置いているから仕方ないのだけど。


 この貴族社会っていうのは少し特殊で、嘘と嘘の重ね合いっていうか、キツネとタヌキの化かし合いみたいな感じなのよね。

 言っていることが、ストレートでそのままの意味を持つことはとても少ない。


 だからこそ、ちゃんと言ってくれる人間ていうのは本当に信頼がおけるし、今の私には必要な人材だ。


「んで、実際はどれが聞きたかったんですか?」

「ん-。どれもだけどさぁ。一番は、もう結婚して半月以上も経つのに初夜がないってことよ」

「それは単純に、ランド様がお忙しいからじゃないですか?」


 確かにシェナの言う通り、ランドは帰国してから目まぐるしい日々を過ごしている。

 戦勝国とはいえ、相手国からの賠償やら自国の立ち直しやら。

 交易や貿易などの、他国との話し合いもたくさんあるみたいだし。


 お祭りムードはそのままに、やることは盛りだくさんなのよね。


 今まで出来てなかった国政が一気に回り始めたから、こうなることもある程度は分かっていたけど。

 ランドも国の要職に採用されるみたいだし、妻の立場としては喜ぶべきこと。


 それは分かってるけど……。


「でもどんなに忙しいくても、ちゃんと屋敷には帰ってくるのよ?」

「そうですね」

「しかも私とは、一日一回はお食事もして下さるし。今日だってご機嫌取りのように、こうやってお菓子を届けてくれたわ」

「ああ、街で一番流行りのお店のお菓子ですね」


 つまりランドに、私への愛情がないわけではない。

 しかも夫として、私を気にかけてくれてもいる。


 でも一向に同じ部屋で寝るということもなければ、そういった触れ合いすらない。

 別に私だって、欲求不満だから言ってるわけではないのよ。

 欲求不満では!


 でも妻となった以上、そういうおつとめが出来ないっていうのはどうなのかなって思うのよね。

 私はこの屋敷で、ゴロゴロ自適に過ごすために結婚したわけじゃないのに。


 だから何にもしていないのが心苦しいっていうか……なんか夫婦になったって気がしないのよ。


 そう。私は夫婦になりたいの。ちゃんとした夫婦に。

 ちゃんとって意味が分かっていない私が言うのもなんだけど、この生活が絶対違うっていうのだけは分かる。


「このままじゃダメだと思うの。だからこそ知りたいのよ、ランド様の本当のお気持ちを!」

「そんなの本人に直接聞かないと意味ないじゃないですか。こんなとこでゴロゴロ油売ってる暇があったら、ストレートに聞くべきではないですか?」


「もーさぁ、それが聞けないからシェナに聞いてるんじゃないのよぉ」

「はぁ。ご自身で行ってることが矛盾してるって思いませんか?」

「分かってるわよ、それぐらい分かってる。私だって本質から逃げてることぐらい、分かってるのよ。でもちゃんと聞く前に、ほら予防線みたいなものが欲しいじゃない?」


 ここで軽くジャブをもらってれば、本人にキツイことを言われてもきっと大丈夫。

 たぶん大丈夫。

 って思い込みたいだけなんだけど。

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