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016 凹むときは凹みます

「こんなに可愛らしくて、キュート……本当だったらおうちの中に閉じ込めて置きたいくらいの存在なのに」


 なになになになに。

 普通に聞いたらヤンデレまっしぐらのセリフなのに、ランドが言うと何かが違う。


 そう、なんていうか……対象相手が人じゃないみたいな……。


 そこまで思ってはたと気づき、周りを見渡した。

 騎士たちのなんとも、言えない視線と被る。

 何よ! 目で『あー』とか言ってるんじゃないわよ。


 どうせ今、あ、ペット枠だなって思ったでしょう。

 私だって、私だってねぇ、思ったわよ。

 うん。思ったわ、はっきりと。

 やっぱりダイエットしないとダメね。


「と、ともかく皆さんで飲んでみて下さいな。また好評いただけるようでしたら、持ってきますから。で、ではまた」

「気を付けて帰るんだよミレイヌ。馬車とか馬車にひかれないようにね」

「……はい」


 そんなに動物感ある? なんで二回も馬車って言うかなぁ。

 もうどう考えてもランドの中の私って、ソレじゃないの。


 騎士団の人たちに挨拶もそこそこに、私は足早に演習場を後にした。

 さすがにシェナも私が気の毒に思ったのか、王宮の廊下を抜けるまで声をかけてはこなかった。




     ◇     ◇     ◇




 王宮の前で馬車に乗り込む手前で、私はふと立ち止まった。

 なんだろう。んーーーー。

 試合に勝って勝負に負けたみたいな感じっていうのかな。


 あの令嬢たちにを言い負かすことは出来たのに、結局ランドにペット認定されてたら意味ないじゃない。

 原因は分かってるけどさ。


 でも一瞬でもドキドキしたから、ほんの少し凹んじゃった。

 

「馬車に乗らないのですか、ミレイヌ様」

「そうね……少し歩こうかな」

「え? 今日は散々いつもより歩いたではないですか」

「でもさ……痩せてないし……」

「あー、ようやく現実見た感じですか?」

「ひっどぉぉぉぉぉぉい」


 何も凹んでいるとこに塩塗らなくてもいいのに。

 現実なんて初めから見てはいるわよ。


 ただ体重が結構あるから、少しやるだけでも痩せるって思ってたのは事実だけど。

 テキトーにやってた分、体重もテキトーにしか落ちないのよね。


 だから見た目的にも、痩せたって感じはない。

 全く痩せてないわけじゃないけど、これでは普通に毎日会っていたら気づかないわよね。

 ドレスだって、前のが入るようになっただけだし。


「今日はもう少し歩こうと思う」

「膝は大丈夫なんですか?」

「……うん、なんとか」


 膝を覗き込んでも、厚いお腹の肉が邪魔して見えはしない。


 でも痛みはまだない。

 まだ一週間ちょっととはいえ、一日家にいても細かく歩くようにはしているのよね。


 前に比べたら二倍以上は歩いているから、体力も少しずつはついてきた。

 だからまだ今日は頑張れそう。


「で、どこまで歩くんですか?」

「街の中心の市場までかな」

「結構ありますよ?」

「うん、でもちょうど食材を見たかったし。歩きたいからいいの。ああ、シェナは別に馬車でもいいのよ」

「……付き合いますよ」


 シェナは深くため息を付いたあと、私の隣に並んだ。

 そして私の顔を見上げる。


「まったく、うちの#お嬢様__・__#はほかっておけないですからね~。何せ馬車にでも轢かれたら困りますから」

「もーーー。ひかれないし! またお嬢様って言う。奥様って言ってよー」

「それは初夜が終わったら考えます。ただランド様のあの言葉は、ペットだからって意味ではなく、ただ単に過保護からくるセリフだと思いますよ?」

「え?」


 あのセリフって、さっきのランドのセリフのことよね。

 私がすごく気にして凹んでるの分かってたんじゃない。

 なんだかんだいって、こうやってちゃんと私が欲しい言葉をくれる。


 シェナがいてくれて本当に良かったと思う。


「シェナのばか……ぅーーーーー」

「はぃはぃ。遅かったら置いてきますからね、ミレイヌ様」

「もーーー」

「ほら、また」


 そんないつものやり取りをしていると、あれほどまでに重かった胸の中も足取りも軽やかに動き出せる気がした。

 

「さーて。帰ったら何作ろうかな。またダイエット頑張らないと~」

「そうですね。それは当面必須です。ですので、市場でのつまみ食いは厳禁ですからね」

「え」

「え、ではありません」

「そんなー。もーーーーーーー」


「そこはせめて、ぶぅで」

「ひどぉぉぉぉぃ」


 市場に近づくにつれて胃袋を刺激する匂いをかげば、まだまだダイエットは程遠く感じた。


「あ、明日から……明日からじゃダメー?」


 私の切なる叫び声を、シェナが知らん顔したのは言うまでもなかった。

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