俺以外の男子が全員スカート履いているんだが?
姿見に写った自分の姿を確かめる。少し大きめの制服に身を包んだ姿。新品の制服を見ると、新しい生活を想像してしまい、頬が緩んでしまう。
別段、中学までの生活が嫌だった訳ではない。今日から通う高校だって、同じ学校出身の顔馴染みが沢山いる。
それでも新しい環境に、何か楽しいことが始まるんじゃないかと期待してしまう。
仕度を済ませ家を出ると、丁度、隣に住んでる直が出てきた。
「新、おはよう」
直が声を掛けてくるが、俺は硬直して返事を返すことが出来なかった。
「どうしたの新?」
不思議そうに聞き返してくるが、聞きたいのはこっちだ。
「お前!女だったのか!?」
スカートを履いたその姿に、俺は混乱していた。
「男に決まっているだろ。修学旅行で一緒に風呂入っただろ?」
確かに、男のシンボルがついているのを確認しているので、性別を誤認してたなんてことはないはずだ。
だったら、なおのこと、その格好に疑問になる。
「何でズボンじゃ無いんだよ」
「え?だって、今年からズボンとスカート選択式になったじゃん」
疑問に思うことが不思議だと言う雰囲気で返してくる。
「あんなの、女子向けのルールだろ?」
「それ、男女差別だぞ!」
あれ?俺が変なのか?
ネットニュースとかでも、その手の話題に使われている写真は全部女子生徒が写っていた記憶がある。
「あれも差別だよな」
ネットニュースの話題を直に振ると、そんな返答が返ってきた。
ここで押し問答していても遅刻するだけだと意識を切り替え、高校に向かって歩き出す。
「新、直、おはようー」
聞きなれた声に挨拶をされ、振り替えると、そこには男友だちの毅が制服のスカート姿で立っていた。
「っ!」
言葉を失う俺を他所に、2人は会話を始める。
「毅、脛毛濃いね」
「そういう直は剃ってるんだな」
直の脛毛が綺麗に剃られていることに今更ながら気が付く。
「いや、そういうことじゃなくて、何でお前までスカートなんだよ!」
「グループチャットで皆、スカート選ぶって言ってただろ」
「俺、グループチャットとか知らないんだが?」
もしかして、俺、いじめられてる?
「誘ったけど、めんどくさいって入って来なかったんだろ」
前言撤回。誘われていたらしい。
なんか、適当に聞き流した記憶がある。
「ところで、それはどういったグループなんだ……?」
嫌な予感がしつつも聞かずにはいられなかった。
「同中で同じ高校になった、男子のグループ。新だけだぞ、入ってないの」
マジか。全員参加するほど俺の中学、団結力あったのかよ。
それにしたって、皆スカート選ぶって言った?全員じゃないよな?
「全員だぞ」
きっと、冗談だと捉えて、ズボン選んだやつもいるよな?な?
その願い虚しく、高校に向かう間に出会った男子生徒、皆がスカートを履いている。
それにしても、記憶に無い生徒までスカート履いてるんだが、他の中学出身の奴までスカート履いてないか?
「皆でスカートで合わせるなら、一声掛けてくれてもよかっただろ」
「メッセージ送ったけど、信じなかったんだろ」
はい。来てました。
制服買いに行く前日の夜に直からメッセージ来たけど信じませんでした。
「1人ズボンが嫌だって言ってるけど、マイノリティを否定するの良くないよ!」
そうは言っても、さすがに1人だけって寂しくない?
◇◇◇◇
どうしてなんだよ!!
入学式が終わり、クラス毎に別れて移動した後、俺は心の中で叫んでいた。
物の見事に俺以外の生徒全員がスカートを履いている。
女子は良いとしよう。百歩譲って同じ中学の男子も良いとしよう。何で、他の中学出身の男子までスカートなんだよ!
気になって前の席の男子に聞いてみる。
「他の中学のヤツがスカート選ぶって言ってたから俺らもってなってな」
後ろの男子に聞いてみる。
「制服選ぶときに、今年は皆スカート選んでるって教えて貰ったから、俺もってなって」
俺、そんなこと言われてないけど?
そういや、一番乗りで販売会場に乗り込んだから、他の生徒が買う前だったんだ………
いや、だからって、制服販売所でズボン買おうとしてる男子生徒にスカート進めるのか?
でも、さすがに先輩たちはズボンだった。
「兄貴も、この高校に通ってるんだけど、スカート選べるの今年からだろ?去年使ってた制服あるし、買い換えるのもったいないって言ってたな」
その理由は聞きたくなかった。ズボンの方が良いというマトモな感性の男子生徒は俺以外いないのか?
この場合、少数派の俺の方が変なのか?
教室に居ることに居づらさを感じ、廊下に出る。
そこには男子の行列が出来ていた。
その列の中に見知った顔、直の姿を見つけ声を掛ける。
「何の列だ?」
「トイレだよ」
「何でこんなに列になってんだよ」
「スカートだと小便器使いにくいんだって。だから皆個室を使おうとして、行列になっちゃったらしいんだよ」
左様ですか。スカートの悪いところ出てるじゃないか。
長蛇の列を横目に廊下を進むと、購買部を見つける。
何か面白いものはないかと眺めていると、とある商品が目に入る
「こ、これは……」
◇◇◇◇
初日はクラス顔合わせ程度で終了した。
なので、本格的な高校生活は2日目の今日からだ。
昨日と同じ時間に家を出ると、またまた直が家から出てくるタイミングだった。
「新、おはよう」
昨日と同じように声を掛けてくる。しかし、その姿に衝撃を受ける。
「な、何でスカートじゃないんだよ!」
「えー?だって、選べるのに片方だけってもったいないじゃん。それより、今日は新もスカートなんだな」
そうだよ。昨日、購買部で見つけて、疎外感に負けて買ったんだよ!なのになんで直はズボンなんだよ!
「新って、頑固な癖に流されやすいよね」
新は直がズボンを履いていることにショックを受けつつもそのまま登校をする。
「新、直、おはようー」
毅が声を掛けてくるがこちらもズボン。
「休み時間にサッカーしようぜって話になったから、ズボンの方が動きやすいかなって」
確かにスカートで激しく動くと、見えてはいけないものが見えるかもしれないけれど。
嫌な予感がしつつも高校へ向かう。
その日、スカートを履いていた男子生徒は新1人だけだった。
「偶然にしては出来すぎだろ!」
新の心の叫びは虚しく木霊するだけだった。
思いつきで書いたものですが、最後までお読み頂きありがとうございます。
これ、続き物で考えてたけど、物語が膨らまず、単物になりました。