01.甲府戦乱 (8)変形 対 料理
「まだかなあ。早く来ないかなあ~」
聖軍拠点・最上階。
[料理]ポムフォンテは、夢見る乙女のように、
窓の外を眺めながら、両手を頬に当て、[変形]大凱を待っていた。
「……あ、来たあ~」
「突入ッ!!!」
そして、遥か彼方にみえた星のような瞬きが、爆発的なスピードで接近し、
聖軍拠点の最上階への突入を強行し、壁を吹き飛ばしながら強制的に着地した。
「……初めまして、[変形]の魔術師さん」
「……流石に初撃では堕ちんか」
"突入形態"。
[変形]大凱の"戦闘機形態"から、先端にドリル、背後にブースターを追加した形態である。
爆ぜるようなエネルギーをドリルの一点に収束させる、超高圧力突撃を繰り出した彼だが、
[料理]ポムフォンテは咄嗟に大釜を生成し、
鍋を掴むようにそれを盾代わりにして、ギリギリと震えながらもドリルを受け止めてみせた。
「とびっきりのディナーといこう!!」
[料理]ポムフォンテが突入の勢いを受け流すようにして大釜を離し、
中華包丁を左手に、フライパンを右手に持ち、
ぐるぐるとコマのように高速回転しながら[変形]大凱へと迫っていく。
「打撃と斬撃の合わせ技か。
だが、当たらなければ無意味だ」
[変形]大凱は身体をギュルギュルと凝縮させ、元の人間の姿に戻す。
そして左手を大盾、右手を長剣に変化させると、
スライディングしながら[料理]ポムフォンテの足元に滑り込み、斬り上げる。
「甘いよっ!!砂糖小さじ3000杯くらい甘いっ!!」
[料理]ポムフォンテはムササビのように飛び上がり、
下に割り込んできた[変形]大凱に中華包丁とフライパンを叩きつける。
[変形]大凱は反射的に顔を変形させ、身体全体を覆う屋根のようにして、
何十回も刻まれる打撃と斬撃を一手に引き受けながら、スライディングで股下を抜けきった。
「今の、効いたでしょ」
「さあな」
[料理]ポムフォンテが指を鳴らすと、
[変形]大凱を覆い囲うように巨大なオーブンが生まれる。
すぐさま突破しようと何度も[変形]大凱が殴打を加えるが、びくともしない。
「超強火で1分間加熱しま~す」
[料理]ポムフォンテがIHのツマミを捻り、加熱を開始する。
ボッという小気味良い音とともに、圧倒的な熱量が発生し、中の空間で自然発火する。
[料理]ポムフォンテは暇つぶしにスマホを取り出し、
自分がネットに投稿したレシピがバズっていないかを確認したが、
『人間の姿焼き』『魔物肉のスムージー』どちらも低評価爆撃を受けているのを見て、
そっとスマホをしまい、[変形]大凱が焼き上がるのを待った。
「そろそろかな」
[料理]ポムフォンテがオーブンの扉を開けた瞬間、
[変形]大凱が蛇のような姿で勢いよく飛び出し、すぐさま人間形態に戻り、格闘を始める。
すかさず[料理]ポムフォンテも中華包丁を生成し応戦するが、
[変形]大凱のコンパクトな戦い方にスピードで付いていけず、何発も攻撃を胴に喰らう。
「な~んで全然火が通ってないのお!?」
「体表をセラミックス化して、耐火構造にしたんだ。
溶鉱炉は溶けた鉄、1500度以上の熱にも耐えなければならない。
それと同じ身体構造にすれば、このくらい余裕だ」
今度は[変形]大凱が攻めに転じた。
"超高速形態"。
筋肉を凝縮した脚を四本生やし、ハイスピードで変則的なステップを踏みながら、
ジャブ、ローキック、左右フック、ボディブローをかまし、速度重視のコンボを決めていく。
「とっとと潰れろッ!!!」
「ぐ、ぐぐぐ………!!!」
正面にガードを集中させる[料理]ポムフォンテだが、
すぐさまサイドステップを踏まれ、ガードのない部分に良い打撃を加えられていく。
なんとか攻勢に転じたいところだが、スピード負けしている以上次の手が出せず、
追い込まれるように後退しながら打撃を受け続け、壁際に寄せられていく。
しかし、[料理]ポムフォンテの起死回生の魔術が、展開された。
「究極魔術!!!魔正餐!!!」
「っ!?」
究極魔術。
それは、強大な魔術師のみが使える、魔術師本人にとって究極の魔術である。
この言葉が宣言されたとき、莫大な魔素を消費する代わりに、
魔術強度が大幅に底上げされた魔術……すなわち必殺技を行使することができる。
「破れかぶれでの究極魔術……
さて、何を使ってくる?」
[変形]大凱が距離を取って重心を低く保っているなか、
[料理]ポムフォンテの体内の魔素がどんどん膨張していく。
強大な魔術の予感に、ぎり、と拳を一層強く握りしめながら、
[変形]大凱はファイティングポーズをとり、その時を待つ。
「前菜!!!」
[料理]ポムフォンテの中華包丁が、[変形]大凱の前左脚に深々と突き刺さる。
このとき、不可解な現象が2つ起きていた。
1つ目。[変形]大凱ですら見切ることができないほどの高速であったこと。
2つ目。[変形]大凱が自分の意志に反して、いつの間にかテーブルについて座っていたこと。
「スープ!!!」
[料理]ポムフォンテが[変形]大凱に滝のような熱湯を注ぐ。
肌を耐熱用のセラミックスに変換した[変形]大凱は、
腕を傘のように変形させ、開いて熱湯の雨を凌ぎながら、瞬時に考察を完了する。
「フルコースで10種の料理が提供されるところから連想して、
相手を強制的に着座させ、十発の攻撃を確定命中させる魔術か!!!」
「正解だよお~っ!!!
魚料理ぃっ!!!」
鯛のような巨大な魔物が出現し、炎熱を纏いながら[変形]大凱に噛みつこうとする。
しかし左腕をT字に変形させ、鯛の魔物の口に突っ込んでつっかえ棒のようにし、
口を閉じられないようにして、右腕を槍のように尖らせ、一気に突き入れた。
鯛の魔物は口から尾ひれまでを貫通され、醜い呻き声を上げながら死んでいった。
「残念だったな!!!俺の魔術と相性悪いぞっ!!!」
「ノンノン!!
肉料理!!ソルベ!!ロースト!!」
[料理]ポムフォンテの三連撃が、[変形]大凱に一気に押し寄せる。
魔素で追加の腕が四本生え、元の腕と合わせて合計六本の腕が、一斉に攻撃を始める。
左の二本は、ミートハンマーを[変形]大凱の肉体に叩きつける。
中の二本は、冷気を放ち、[変形]大凱の肉体を凍らせんとする。
右の二本は、牛刀包丁で[変形]大凱の肉体を斬りつける。
「無駄だ!!!」
[変形]大凱の身体がぐにゃりと変形し、状況に瞬時に対応する。
左半身は、身体を一気に硬質化させ、ばね機構を内包して衝撃を和らげた。
胴体は、大量の脂肪質を生成して毛皮を生やし、冷気に耐えてみせた。
右半身は、身体を一気に軟質化させ、スライムのような身体で斬撃を無効化した。
「きみ……強いねえ~」
「舐めるなよ、クソコック。
さ、ラスト4発で対応できねえヤツやってみせろよ」
[変形]大凱は人間形態に戻り、椅子に座ったまま両手で挑発してみせた。
しかし[料理]ポムフォンテはにやりと笑い、あごひげを撫でた。
「フルコースはまだまだ終わりません………が!!!
店内大変込み合っておりますので少々お待ちくださいませ~」
「は?」
[料理]ポムフォンテはその場を全力ダッシュで離れ、部屋から出ていこうとする。
[変形]大凱は何の目的かと逡巡した瞬間、はっと気付く。
「まさか………!?
十発喰らうまでこの椅子から離れられないという制限を利用して、
攻撃を終えないまま俺をこのテーブルに封じ込めて、自分は他へ行くつもりか!?」
「すでに聖王陛下は山梨など放棄してもよいとお考えなんだよ~。
それよりも、君の連れてる"黒炎"を回収するのが目的なんだ~」
[変形]大凱は身体を縦横無尽に変形させて移動しようとするが、一向に動けない。
そんななか、[料理]ポムフォンテは階段へと辿り着き、わざとらしく手を振る。
新たな危機が、迫ろうとしていた。
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