表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/21

01.甲府戦乱 (6)魔術実地指導

「うおっ、と!!!」

「おい闇良、静かにしろ。

 敵がすぐ近くに居るかもしれないんだぞ」

「ご、ごめん………」


山梨県・甲府市。

巨大な廃墟の影に現れたホワイトホールからは、

[建築]日向、闇良が順に出て、そのあと[変形]大凱と[重力]沙美誰が現れた。



「敵の上級幹部……すなわち兆位相当のヤツが出張ってくるはずだ。

 俺はそれを叩く。日向、沙美誰は周りに湧いてくる億位の奴らをやってくれ。

 闇良は日向、沙美誰について守ってもらえ」

「了解っす」

「はい!」

「あ、あの……兆位とか億位とかって何ですか?」


闇良がおずおずと手を挙げて質問すると、

[重力]沙美誰が一歩前に出て、大きく身振り手振りしながら説明を始める。



「兆位、億位、万位ってのはね、魔術師の強さのレベルだよ!

 一般人の一兆倍以上強いと兆位って感じ!」

「え、えぇ……一兆倍?」

「そだよぉ。大凱さんは兆位だから1000兆倍くらい強いし、

 仁と私は億位だから一般人の200億倍から500億倍くらい強い感じかな」


あまりのスケールの大きさに唖然としていると、

[建築]日向が補足をするように会話に割って入った。



「闇良が勝った[液体]ウィリーンは下級幹部……つまり億位だから、

 お前も覚醒モードだったらもう億位ぐらい強いかもしんねえな。

 でも億位のなかでも全然レベルの幅あるし、あんま戦おうとすんなよ。

 あと兆位とか、マジで絶対戦うなよ。遺言考える間もなくあの世行きだぞ」

「う、うん!!」


食い気味に頷く闇良を後目しりめに、

[建築]日向は[重力]沙美誰と並んで、こちらに背を向ける[変形]大凱の後ろにつく。



「じゃあ、俺に乗って移動するぞ」

「え?大凱さんに乗る?」


[変形]大凱の身体に魔素が漲り、前傾姿勢のまま一際強く光る。

肩・肘の関節があらぬ方向へ回転し、腕の横幅を大きく広げて翼と為し、

太腿からはブースターのようなものが競り出すように現れ、

胴体は液体金属のように柔軟に変化し、まるで戦闘機のように滑らかな体表を創り出す。


そしてジェットコースターの乗客席部分のように穴が開いた部分に、

三人分の広さのシートと掴まるためのバーをあつらえ、ゆっくりと体勢を低くする。


そして、[変形]大凱の"三人乗り戦闘機形態"が完成した。



「こ、これが[変形]の魔術………」

「乗れ」

「は、はい!」


慣れた手つきで搭乗する[建築]日向・[重力]沙美誰に続いて、

焦って転びそうになりつつも、闇良も少し跳ねるように飛んで、搭乗した。




甲府市北部に位置する渓谷・昇仙峡。

美しい自然を楽しめる遊歩道を歩きながら、

聖軍上級幹部と下級幹部が一人ずつ、歩いていた。



「ポムさん、大変ですな!!

 再び公安が攻めてきたようですな!!」


[熊]の魔術師、ラビン。

聖軍下級幹部にして山梨県の防衛担当を務める半獣人の男。

全身が毛皮に覆われ、熊らしく丸い耳がついた彼は、

つぶらな瞳とは対照的に、吼えるようにそう伝えた。



「なら、ブチ殺せばいいじゃあ~ん」


[料理]の魔術師、ポムフォンテ。

聖軍上級幹部にして山梨県支配の全権を担うふくよかな男。

料理人らしいコック服を身に纏い、るんるんとお玉を揺らしながら、

たっぷり蓄えた白いあごひげを揺らし、穏やかに答える。



「特に、[変形]大凱が来てますな!!

 兆位相当のヤツを野放しにすれば、

 億位の仲間はみんなやられてしまいますな!!」

「僕が行くから大丈夫だよお~」


[料理]ポムフォンテが手を上に払うと、

ざく、とキャベツを切るような音が、滝の音に混じる。


その瞬間、手刀の衝撃波で上空を通りがかっていた鳥の頭が飛ぶ。

[料理]ポムフォンテは墜落する鳥の死骸をノールックで掴み取ると、

片手で握り潰し、むね肉・もも肉・手羽肉に手刀で斬り分け、材料袋に放り込む。



「大凱をバラバラにして唐揚げにしちゃおっかなあ~」

「ポムさん、俺はどうしますな?一緒に加勢しますな?」

「ん~、君には頼みたいことがあるんだあ」


訝し気に次の句を待つ[熊]ラビンに対し、

とびきりの笑顔で、[料理]ポムフォンテは答える。



「"黒炎"使いの少年を、狙ってくれるかな~?」




「魔物の大群を発見。殲滅するぞ」


雲の中を飛ぶ途中、突然[変形]大凱が大声でそう言って、減速を始めた。

そして雲を抜けると、眼下に広がる景勝地には、魔物達がひしめきあっていた。

轟音のなか、[重力]沙美誰も大声で、闇良に対して耳打ちする。



「闇良くんもさ、戦おうよ!!」

「えっ!?!?」

「魔物は万位ばっかで弱いからさ、行けるよ!!」

「えっ、えっえっ!?」

「飛ぶぞ!!!」


[変形]大凱の搭乗席がぱかりと下に開き、

闇良・[建築]日向・[重力]沙美誰は一気に落下していく。



「うわあああああああああああ!!!

 無理無理無理無理!!!助け」

「はい、重力操作」


ゆっくりと自由落下していく三人は減速していき、

わたわたする闇良と慣れている二人という対照的な構図で、ふわりと着地した。



「お前、叫んでわざと魔物呼んだ?

 ガッツあんね」

「え……?」


[建築]日向の声に釣られて周りを見渡すと、

闇良の目には、360度全方向から迫ってくる異形の魔物たちが目に入った。

否応なしに始まる戦闘の気配に、闇良の心臓がどくんと跳ねる。



「グガアアアアアア!!!!」

「建築、ビル」


[建築]日向は両手をポケットから出し、手を重ね、前へ向ける。

魔素が迸り、何もない山肌から鉄筋コンクリート造のビルが生える・・・

勢いよく飛び出していくビルは、多数の魔物たちを打ち上げるだけでなく、

生え切ったあとにはゆっくりと倒壊して、数多の魔物たちを巻き込みながら、

砂塵と轟音を伴いながら、昇仙峡の山々に激震を与えた。



「す、すごい………」

「闇良、覚えといてくれ。

 固有魔術はざっくり三種類に分類される。

 自分で戦う白兵魔術、環境を変えて戦う環境魔術、現実改変して戦う論理魔術。

 こうやって環境・地形を変えながら戦う俺みたいなのが、環境魔術師だ」

「そして私は、ゴリゴリに自分で戦う、白兵魔術師だよっ!!」


[重力]沙美誰が重力操作で高速かつ超低空飛行しながら、

先に拾っておいた石礫を投げて、重力操作で加速させる。

まるで弾丸のように加速する石礫が、魔物達の脳天を撃ち抜いていく。



「闇良!!今は割と余裕がある状況だ!!

 お前も魔術を使ってみろ!!」

「え!?そんなの、どうやって…!?」

「魔術でどうしたいかイメージして、

 全身の血液を集めるのをイメージするの!!

 まずは闇良くんが使ってた刀を生成してみて!!」


[建築]日向は次々にビルを建築し、倒壊させることで広大な範囲を一網打尽にしていく。

また、[重力]沙美誰はスケートで滑るように進みながら、石礫の弾幕を張っていく。

そんな彼らに追いすがるように、闇良も両手を構え、刀と魔素の流れをイメージする。



「まずは、刀をイメージする……

 玉鋼製の無骨な刀、とにかく切れ味が鋭くて、手に馴染むような……!!」


闇良の脳内で、刀の解像度がどんどん上がっていく。

刃文から、刀の反り具合、鍔、柄に至るまで、完璧なイメージが脳内に創り上げられる。



「心臓から、肩、腕、肘、掌に血液が届けられて……

 そしてその先の空間まで、血液が進んでいくような感覚……

 そして温かな血液が、両手のあいだの中空で、刀となっていく感覚………!!」


闇良の体内で、溢れんばかりの魔素が滾る。

そして魔素の奔流は浸透するように手のひらから溢れ出し、

先ほどのイメージを設計図代わりに、刀の形をとって空中で凝固されていく。



かちゃり。

そんな音と共に、闇良龍真の手の内には刀が握られていた。

無骨な無銘の鉄刀。あまりの鋭さに、刃にひらりと舞い降りた枯れ葉が二つに裂けた。



「できた………!!!」

「………お前多分魔術使ってたことあるよな。

 そもそも魔術って普通初見じゃ使えないし、クオリティ結構高いし。

 記憶喪失なだけで、経験者だから身体が覚えてるって感じに見えるわ」

「ほんとね。

 さ、その辺の魔物で試し切りしてみて」


闇良はきょろきょろと辺りを見回して、一番近くの魔物群を見つける。

少しの緊張はあるが、"できる"という根拠のない自信が、闇良を高揚させる。

静止した状態から、一歩、一歩と踏み出し、闇良は歩き、走り、疾走し、魔物へと迫る。



「グガアアアアアッ!!!!」


頭部が魚、それ以外が人間といった半魚人が、鰓をひくひくと動かしながら走って迫る。

闇良は間合いに入る瞬間、後ろ足でひときわ強く地面を蹴り、

身体をよじって力を溜めながら刃身を水平に構え、エネルギーを爆発寸前まで溜め込んだ。



「こうかなっ!!!」

「グゲェッ!!!」


思いきり刀を振り抜く。

熱帯魚らしき頭部が一刀両断され、斬れた鱗が宙を舞い、鮮血がドバドバと溢れる。

闇良は慢心せずに刀を引き戻すと、今度は二歩踏み込んで刺突し、魔物の心臓を貫き、

鍵を捻るように90度回転させたあと、蹴り飛ばすようにして魔物の身体を刀から抜いた。



「……現時点では100点だな」

「ほんと、空恐ろしいよねぇ」


魔物の群れとの乱闘はその後も数分間続いたが、

圧倒的格下との戦いであったため、公安メンバーは無傷で戦いを終えることができた。

お読みいただきありがとうございます。

評価(★★★★★)を何卒よろしくお願いします!!

ブクマ・感想のほうも、本当に励みになります。

少しでも面白いと思われましたら、ぜひともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ