01.甲府戦乱 (3)獄鬼再誕
「___また死ぬとは、貴様は懲りんのう」
また、悪夢を見ている。
骸骨たちが毒の丘を歩き、針山で人肉が苦しんでいる。
煮えたぎる岩盤で焼かれた罪人たちが、ゆっくりと蘇り、また死んでいく。
「お主をまともに生きさせるため、
一部の感情と記憶を灼いていたとはいえ……ここまで忘れっぽいものか」
あなたは誰ですか。
目の前の存在にそう問いかける。
「わしは、貴様を調伏し、魔術を教えてやったものよ」
……意味がわかりません。
「じきにわかる。
それより、貴様はまた死んでしまったのだぞ?」
……また、って……?
「貴様は2024年1月1日、一度目の死を迎えた。
それを今日復活させてやったが、たったいま二度目の死が訪れたわけだ」
……わからないです。頭が痛い。
「くっくっく。
魂が失った記憶を呼び戻そうと自己修復を試みておる、治癒の痛みだな」
………
「まあよい。わしにはわしの目的がある。
貴様にここで死んでもらっては困る」
………
「よいか。貴様は心の壊れた、激情の塊だ。
恐怖、苦痛、憤怒、悲哀、殺意、絶望……負の感情があまりにも強すぎる。
普通に生きようとすれば、大量殺人なり、自滅なりしてすぐ死んでしまうだろう。
だからわしは貴様の一部の感情を灼いて、貴様を安定させてやっていたのだ」
………はい
「だが、目の前の敵を斃すため、少しのあいだ、貴様を在りのままにしてやる。
危険が去れば、わしは再び感情を灼き、貴様を安定させる。」
………わかりました
「では、三度目の人生じゃ。愉しむがよい」
……………その前に、一ついいですか
「___なんだ」
………助けてくれて、ありがとう。
意識がゆっくりとかき混ぜられていく。
絶望が渦巻く世界が、クリームのようにゆっくりとあやふやになっていく。
視界はゆっくりと暗転し、本物の闇から、瞼の裏の闇になっていく。
「……素直なヤツは、嫌いではないぞ」
小さく、愉快そうな声が、エコーがかって、聞こえて………
カツ、カツ。そんな奇妙な音とともに、
闇良龍真は、夢のような時間から醒めた。
*
「死ねッ…………!!!!」
怨嗟の声と共に、瞬間、湖が沸騰した。
「やばぁ………!?」
[重力]沙美誰はその様子を上空で見届けようとしたが、
業炎が想定以上に巨大であると気付き、ブラックホールに自ら入って、
3km先の空中にホワイトホールを作って、安全圏へとワープで退避した。
しかし、[液体]ウィリーンは違った。
あまりにも、闇良龍真との距離が近すぎたのだ。
「あ、っづうううううううぅ!?!?」
灼熱の火柱に呑まれ、ウィリーンの身体は燃え盛り、爛れた。
身体中の全てが燃料となり、一瞬で焦がし尽くされ、塵と化していく。
すぐさま冷水を滝のように生み出し、一気に浴びて冷却しようとするが、
あまりにも強大な燃焼エネルギーの前では、冷水も燃料にしかならなかった。
「殺したはずでは………ッ!?!?」
「死ね、死ね………
死ね死ね死ね死ね死ねッ!!!!」
あまりの熱量にブレ続ける超炎天下の大気のなか。
[液体]ウィリーンの前方上空に、闇良龍真が飛び上がっていた。
白目を剥きながら憤怒する彼は、本能的に鉄刀を生成し、固く握る。
「舐めるなよクソガキっ!!!
アタシの超高圧水流でブッ潰してや……!!!」
「黙れ」
[液体]ウィリーンが左手を構えた瞬間には、
闇良はすでに彼女とすれ違い、刀を振り抜いていた。
「る………?」
一瞬の静寂。
[液体]ウィリーンの胸から腹に斬撃が走り、大量の血液が噴き出す。
何が起こったのかようやく認識できた[液体]ウィリーンの額に、ぶわっと脂汗が流れる。
想像を絶する激痛に目を見開き、開いた口からは血液の塊が飛び出した。
「あ………ぐ、ぐぼあああああッ!!!」
「僕を傷つけるなッ!!!
僕を傷つける世界なんて嫌いだッ!!!嫌いだ、嫌いだあああああッ!!!」
超高圧の水噴射が、破れかぶれに行われる。
闇良龍真は大きく屈み、重心を低く保ったまま猿のように走り、
刀を中段に構えながら、再度飛び掛からんとする。
「何度も同じ手を………!!」
[液体]ウィリーンは飛び掛かる闇良龍真を水弾の弾幕で撃ち落とそうとする。
大量の水の奔流が、ぎゅるりと水滴ほどの大きさに凝縮され、
重量を持った弾丸のようになり、それらが雨のように彼の方向へ降り注いでいく。
「お前もおおおおッ!!!!僕を傷つけるんだろッ!!!」
しかし闇良は突如刀を地面に突き立て、
棒高跳びの要領で大きく跳び上がり、弾幕を回避する。
直下を通過していく水弾の弾幕が去ったあと、
闇良は獣のように両手両脚で着地し、刀の柄を咥え、四足方向で彼女のもとへ迫る。
「ぢょうしに乗ぐなよォ、ゴミクズがァッ!!!」
眼前に迫りくる闇良に対し、
[液体]ウィリーンはとうとう、最終手段を用いた。
「"王水波"あああああああああ!!!!」
コスパ最悪・出力最大の大技。
金すら溶かす最強の酸で7m超の大津波を起こし、大質量をぶつける大技。
彼女の叫びとともに、
橙赤色の王水の大波が、辺り一帯から湧き出でる。
浮世絵のように美麗な金色の大津波が、闇良龍真へと迫る。
異臭を放ち、ジュウと地面を溶かし、
全てを押し流しながら視界全てを覆い迫りくる"王水波"に対し、
闇良龍真は白目を剥いたまま猛進し、避ける素振りすら見せなかった。
「蛮勇だなクソガキっ!!!
溶かされて死ね、地獄に堕ちろ………!!!」
[液体]ウィリーンの獰猛な嘲笑が、闇良を嗤った瞬間。
闇良は飛び出すように立ち上がり、咥えていた刀を手に持って、
一段深く構え、呟いた。
「"獄黒炎斬"」
刀には、黒き炎が宿っていた。
美しい軌跡を描きながら、めらめらと黒炎で燃える刀が、
切っ先で"王水波"を捉え、水面を裂くように叩き斬った。
その瞬間。
闇良に迫った王水波は、消滅した。
「は」
[液体]ウィリーンの口から、呆けた声が漏れる。
自身の繰り出した大技が突然消滅したことに、動揺が隠せなかった。
そして眼前には、刀身を翻し、次撃の準備行動を終えた闇良。
「んな馬鹿な………」
2秒後、ふたたび振り抜かれた刀撃により、
[液体]ウィリーンの首は胴体を離れ、バスケットボールのように宙を舞った。
地に転がった彼女の生首に対して一歩ずつ近づいていった闇良龍真は、
刀を突き立て、ぐいと捻り、飛び散る血飛沫を顔に受けながら、彼女に確実な死を与えた。
まさに鬼神の如き戦闘を見せた彼は、立ったまま白目を剥き、気絶した。
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