02.原宿の乱 (9)原宿の乱、その戦後
「闇良っ!」
「闇良くんっ!」
無間地獄を解除し、[地獄]闇良と[光]永遠乃が爆心地と化した原宿へ帰還したとき。民間人保護を完了した[建築]日向と[重力]沙美誰がそこへ駆け寄る。
「おま………本当に永遠乃さんが来るまで時間稼いだのかよ!?」
「相手はリヴァなのに!?うそでしょぉ!?」
「い、いや、それは永遠乃さんがすぐ来てくださったから…」
「馬鹿、あんなバケモン相手にしたら普通は一秒以内に瞬殺されんだよ!!」
「闇良くん!!自己肯定感上げてこ!!普通の人なら一生ドヤ顔する自慢話だよ!!!!」
やいのやいのと盛り上がる二人に押され気味の[地獄]闇良は、偉業を成し遂げた素振りなど微塵もしないまま、ただただ困り笑いを浮かべていた。
「三人とも、仲が良いようで何よりだね。ところで、民間人保護は大丈夫かな?」
「それに関しては、俺から報告します」
[光]永遠乃の質問に答えたのは、[建築]日向たちの背後から現れた[変形]大凱だった。
「結論、出来ることは全てやれています。こちらが把握しているかぎり、民間人の死者・行方不明者は約3400人、けが人は8200人。うち怪我人は重傷者を中心に治療を受けており、おそらくちょうど今頃全員に一通りの応急処置が済んでいる状況かと思われます」
「流石。ありがとう…………3400人も亡くなったんだね」
「これでも、今日原宿周辺にいたのは約18000人ですから、5人に4人は助かっている計算です。三人の初動対応が功を奏しましたね」
「大凱くんと藍羅ちゃんもだよ」
[光]永遠乃がそう言うと、[変形]大凱の大柄な背中からひょこっと[蹴術]藍羅も顔を出す。ギザギザの歯を見せるようにぱぁっと表情を輝かせると、[光]永遠乃の方へ、慕っている学校の先輩に話しかけに行くような態度で駆け寄っていく。
「そうなんですよ永遠乃さぁん!!あたし偉いんですよ!!ジョークマンとタイマンして倒したんですよ!!」
「うんうん、藍羅ちゃんの功績は十二分に把握してるよ」
「咲って呼んでください!!」
「藍羅ちゃんは、と~っても偉いね」
「えへへ!」
そんなやりとりの最中、[変形]大凱はクレーターと化した車道だったものを踏みしめ、[地獄]闇良たちの方へ向かう。三人は別の話題で盛り上がっており、そこに水を差すのを承知で[地獄]闇良へ話しかける。
「どうせまた自爆戦術とか使ったんでしょぉ?正直に言いなよぉ……?」
「いやいや、ほんとに自分のこと大事にしてるよ、大丈夫、あはは……」
「闇良。お前に一つ聞きたいことがある」
「え、あ、はい。なんでしょう」
「お前、どうやってリヴァを数分間も足止めした?俺クラスの人間じゃないと難しいことのはずなんだが」
その言葉に、[建築]日向と[重力]沙美誰もうんうんと頷いて[地獄]闇良の方を見る。彼は困り笑いを浮かべながら、おずおずと答え始めた。
「えっと、まず、究極魔術で異空間に引き込んで………」
「………は?」
「………え?」
「………なに?」
「あとは迷路地獄をつくったり無間地獄をつくったりして、ひたすら距離を離せるように………」
そこまで話したところで、[地獄]闇良は目の前の三人が硬直していることに気付いた。そんなにおかしいことを話しただろうかと、言いようのない気まずさを覚えて二の句を継ぎかねているとき、[光]永遠乃が口を挟んだ。
「すごいね、闇良くん。究極魔術が使えたの?」
「え、あ、はい。その、なんか良くなかったですかね……?」
「ううん、驚いてるだけだよ。悪いことじゃない。究田くんに究極魔術を習ったのかい?」
「いや、習ったのは環境魔術だけです。なんなら練習もしたことなかったので、その、土壇場で……」
「だとしたら超天才だね」
その場にいる全員が固唾を飲むなか、[光]永遠乃は目線を合わせたまま、言い含めるように、[地獄]闇良へと短く伝える。
「正直に言ってほしい。戦闘経験や魔術の使用経験はある?私はどうしても君が未経験者には思えないんだ」
「その、記憶喪失で………皆さんそう仰るので、もしかしたら記憶がないだけで、戦闘経験があるのかもって最近は思ってますけど………」
「本当に記憶喪失?」
[光]永遠乃は鋭い眼光を[地獄]闇良の瞳の奥へと向ける。ごくりと生唾を飲み込み、なぜか震える身体を抑えながら、[地獄]闇良はか細い声で答える。
「………本当です、その、本当なんです…………」
「うん」
「本当に何も覚えてないんです、だから何もお伝えできることがないんです、その、ごめんなさい」
「…………ううん。こちらこそ尋問しちゃってごめんね、良くわかったよ。ありがとう」
[光]永遠乃の氷のように冷たかった声が、聴き心地がよく温かい声に戻った。にこりと微笑むと、ぱんぱんと手を叩いて、張り詰めていた空気を一瞬で変える。
「じゃあ、帰ろう!まだやることが山積みだよ。やることない人は休養!みんな帰って休むよ~!」
「うへえ、どうせ俺は[建築]の力使うために駆り出されて二徹以上確定コースなんでしょ………」
「安心しろ、日向。俺もブルドーザーかクレーン車に変形して土木工事することになると思うから、一人にはしないぞ」
「二人とも、終わったら[快適]の魔術師さんのとこでいっぱい癒されてねぇ」
「仁っちマジでいつも過労死寸前だよね~。アタシも破壊なら手伝うから、いつでも言ってね?」
五人が歩くところから少し遅れて、[地獄]闇良はぽつぽつと歩く。もはや通りではなく焼け野原と化した竹下通りを歩きながら、思考を巡らせていた。
「(僕は何者なんだ?僕のなかにいる何者かは誰なんだ?なんでこんなに魔術が使えるんだ?そして………"黒炎"ってなんなんだ?)」
言いようのない不安に、拳を固く握る。すると、その拳を包み込むようにして、[重力]沙美誰の柔らかい両手が添えられる。体温が伝わって、蒼氷で冷えて凍え、強張った手の筋肉が解れていく。
「闇良くん、帰ろう?」
「………帰る?」
「うん。公安第零課に帰ろう?ここは私たちの帰る場所だから」
[地獄]闇良が見上げると、橙色の夕陽を背にして、[重力]沙美誰、[建築]日向、[光]永遠乃、[変形]大凱、[蹴術]藍羅らが振り返って視線を送ってきていた。みな微笑んで、こちらに手を差し伸べるようにして手招きしてきている。
「帰ろう」
「………うん!」
[地獄]闇良にとって人生で初めての、"居場所"。その温かさに自然と込み上げてきた涙を滲ませながら、彼は[重力]沙美誰の手を取ったまま、駆け足で彼らの方へと向かった。
*
「よくぞ戻ってきた、リヴァ、道化」
大阪魔王城・天守閣。下座にて、満身創痍の[蒼氷]リヴァと[虚構]ジョークマンが片膝をついている。そして玉座にてくつろいでいるのは、修羅の如き表情で、悍ましいほどの殺気を纏う男だった。
「………闇良捕獲の任、失敗した。面目ない」
「………ホント、すんません」
「構わん」
言葉とは裏腹に、天守閣には心臓が潰れそうなほど重苦しい"圧"が充満していた。聖王が一定間隔で玉座の肘掛を叩くたびに、木が響くコツ、コツという音が響き渡り、耳が痛いほどの静寂に唯一聞こえる音として存在していた。
「……俺の性格は知っているだろう。俺は誰のことも信頼していないし、信用もしていない。当然お前らにも期待していない。だから秘密裏に論理魔術師を何名か派遣しておいた。良かったな、お前たちは信用がないおかげで命拾いしたのだ」
「………」
「(マジギレじゃん)………すんません」
「それで………闇良龍真はどんな男だった」
その質問が為された瞬間、[蒼氷]リヴァは勢いよく顔を上げ、声高に説明し始めた。
「奴は……外見も内面もただのガキだ。黒炎のことを知らなかったし、なんなら興味すら持っていなかったように思える。全員共存を理想とするなど青臭い思想を持っているらしい。確かに頭の回転は速く、何より不死の魔術を持っているようだから、戦闘の才はあるタイプだろう。………だが、それを除けば、たまたま黒炎が使える一般人にしか見えない」
「……"奴"との関わりは」
「……不明だ。訊く前に戦闘に突入してしまった」
「ふむ」
聖王は眉間の皺を一層深め、修羅のごとき表情で顎に手を当て考える。そして数秒後、結論が出た。
「なんとしても、闇良龍真を捕獲する。もし不可能なら、封印してでも公安の戦力から削ぐ。貴様は奴を過小評価しすぎだ。永遠乃に追随する化け物になる可能性もある」
「ならば、何としても俺にやらせてくれ……!!」
「黙れ」
[蒼氷]リヴァの身体が、見えない手で潰されたように圧縮され、砕ける。血溜まりが破裂したように畳や襖を汚し、グロテスクな光景が広がる。
「ぐぼがッ……!!」
「無能なだけに飽き足らず、俺の考えに水を差すつもりか?度重なる軍規違反、命令無視、そして失敗。貴様に口を開く権利などない」
血まみれの肉塊と化した[蒼氷]リヴァが、残っていた口腔部から苦悶の声を漏らす{が、次の瞬間には彼の身体は元通りになっていた}。現実改変により彼を治癒した[虚構]ジョークマンは、どこか遠慮がちに聖王に尋ねた。
「えっと……じゃあ誰がやるんですか?リヴァよりも強い子ってほとんど居ないと思いますけどぉ」
「第二次闇良捕獲作戦には、こやつらを指名する」
その言葉に呼応するように、闇のなかから、四名の影が現れる。
「なーにしくじってんだよリヴァ。随分無様な姿晒してるみたいじゃんか?」
[朱水]の魔術師、ディー。黒のタンクトップを着ている朱色のショートヘアの女だ。男勝りな性格をしていて、いつもぎらついた瞳で相手のことを値踏みしている。
「同感です。まさか億位相当の雑魚に敗れるとは、情けない………」
[翠風]の魔術師、グリフ。聖職者のようなローブを身に纏う、翡翠色の長髪をたなびかせる女だ。物静かで礼儀正しく見えるが、内心は尊大で、常に相手を見下している。
「ま、聖魔の仲間がしくったんだ。俺らがケツ拭いてやるかね」
[金雷]の魔術師、リキ。スカジャンやチェーン系のアクセサリーなど派手なファッションに身を包む、洒落た金髪の男だ。どう見ても軽薄そうな外見をしているが、最も冷酷で、敵に対しては苛烈な行いを取る。
「………あとは、まかせて」
[銀土]の魔術師、ヒモス。ゆったりした古代ギリシャ風の衣を身に纏った、銀髪を肩まで伸ばしているふくよかな体形の女性だ。どこか無垢であどけない印象を与えるが、純粋ゆえの残酷さを持っている。
いずれも[蒼氷]リヴァと同じ、聖軍上級幹部にして聖魔、京位相当。防衛のため自身が出撃できないことを加味すれば、現在聖王が出しうる最高戦力を全投入した、最強の盤面だった。
「こ、この面子………!!聖王サマ、これマジですね?闇良一人捕らえるどころか、下手すれば公安第零課潰せるくらいの圧倒的な過剰戦力ですね!?」
「今回は永遠乃が出てこない前提で失敗した。次は永遠乃が出てくる前提で、必ず、闇良を捕らえる」
暗雲立ち込める大阪。次なる脅威は、すぐそこまで迫っていた。
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