02.原宿の乱 (7)究極魔術の鍔迫り合い
「使ってきたか、究極魔術……!!」
「何このチェック柄の壁……てか、この壁みたいなやつ蹴破ってみるね?」
[蹴術]藍羅が、周囲全方位を囲う白色と灰色の市松模様の壁を思い切り蹴りつける。戦車の装甲をも蹴破れるほどの威力をお見舞いするが、それと0.00001秒の誤差もない間に、{刀剣の類が一斉に突き出され}、[蹴術]藍羅の右脚をズタズタに切り裂く。
「痛っ……!!」
「[虚構]の力で唯一の環境魔術、虚構之空間……!!周囲全体を囲うこの虚構之壁は対象を害する現実改変を無限に引き起こす壁だ!!中から出ようとしても現実改変でズタズタにされ、外から助けようとしても現実改変でグチャグチャにされる!!君たちはここで死ぬんだ!!」
「なるほどな、攻撃してくる結界か」
[変形]大凱は"防衛形態"に移行し、[蹴術]藍羅の周囲に盾を構えて保護しながら、虚構之空間の中央へとじりじりとにじり寄っていく。[虚構]ジョークマンはその様子をにんまりと微笑みながら見つめている。
「じゃあ、一斉攻撃………はじめっ」
[虚構]ジョークマンの一言と同時に、周囲全方位の虚構之壁が銃火器の形に変質し、超大量の銃口を[変形]大凱に向け、一斉に掃射する。耳が千切れると錯覚するほどの轟音である銃声は連続し、途絶えることなく、弾丸の雨嵐を[変形]大凱の身に浴びせ続けた。
[変形]大凱は岩山のように盛り上がらせた身体で[蹴術]藍羅を抱き締めるように包み、弾丸を一身に引き受けガリガリと体表を抉られながらも、彼女を労わるように声を掛けた。
「大丈夫か、藍羅」
「ごめんなさいっ………先走っちゃったっ………」
「情報が取れたから良い、気に病むな。それより動けるか?」
「左脚ならフルに動かせるけど、右脚は普通スピードでしか動かせないかも……」
「十分だ。この結界は俺が全て抑えるから、お前はジョークマンとタイマンでやりあってくれ」
そう告げた瞬間、[変形]大凱の身体がみるみる膨張していく。全身がスライムをブチ撒けたように溢れ出し、虚構之空間の外縁部に沿うようにして大きく広がり、[蹴術]藍羅を呑み込んで、閉じた空間を作っていく。
「究極魔術!!我以戦場為っ!!」
「まさか!!虚構之空間のなかにもう一つ結界を作る気かあっ!?」
[虚構]ジョークマンがそう叫ぶと同時に、勢いよく延びてきた[変形]大凱の薄く生地のように広がった身体のフチに足を取られ、転ぶようにして花開くように広がり、卵の殻のように閉じていく[変形]大凱の内部に倒れ込んでしまった。
そして、風船のなかに風船を作るように、ぴったりと密封された[変形]大凱の身体は[蹴術]藍羅と[虚構]ジョークマンを逃さない擬似的な戦場となって、[虚構]ジョークマンに向けてありとあらゆる場所から銃口を突き出し、一気に発砲した。
「これで俺が虚構之空間の攻撃を全て請け負える。あとは藍羅がお前を仕留める手助けをしてやれば、お前なんぞ簡単に倒せるんだよ」
「ククク………馬鹿だねぇ大凱くん。なぜかお前はさっきの爆発を耐え凌いだみたいだけど、ダメージは蓄積してるはずだ!!そして虚構之空間の猛攻撃を一人で引き受けるなんて、すぐにダメージが上限突破するに決まってるだろう!?」
「喋んなピエロメイクっ!!!」
結界と化した[変形]大凱の内部で、[蹴術]藍羅が[虚構]ジョークマンに蹴りかかる。傷付いた右脚を軸にして回転しながら跳び上がり、旋風脚で蹴りつける{が、間一髪[虚構]ジョークマンは一瞬で低く屈んで回避した}。しかし、[蹴術]藍羅はそのままピタリと止まり、[虚構]ジョークマンの脳天に踵堕としを喰らわせた。彼の口から唾液と空気の塊が吐き出され、思わず白目を剥きかける。
「藍羅咲……まさか、現実改変の内容を予見したうえで攻撃を組み立ててっ………!?」
「そんなこと言ってる余裕あんの!?次ぃっ!!」
[蹴術]藍羅が瞬間移動と見紛うほどのスピードで肉薄し、[虚構]ジョークマンの腹に足首を宛がい、思いきり蹴り飛ばす。蹴り飛ばされて[変形]大凱の身体が変形してできた壁にブチ当てられ、全身の骨にヒビが入{ることはなく、奇跡的に無傷だった}。そのまま回避行動を続けて壁沿いを走る[虚構]ジョークマンは、必死さを隠そうともしない表情で汗ばんだ。
「なぜだ……なぜ一向に大凱が死なない……!?」
「俺は[変形]の魔術師だぞ?いつでも健康で無傷な身体に変形できる。つまりいつでもダメージを無かったことにできる。俺を倒す方法は二つ、魔素不足に陥らせるか即死させるかだけだ。ダメージは一切蓄積しない」
余裕げな[変形]大凱の声が、どこからともなく[虚構]ジョークマンの耳へと届く。彼は驚愕した表情のまま[蹴術]藍羅の中段蹴りを両腕を盾のようにして構えて受け止める。
しかし。
「もっとも……ストレスは溜まるんだが、なッ!!!」
その瞬間[変形]大凱の天井部分が巨大な拳型に競り出し、[虚構]ジョークマンの脳天に振り下ろされ、命中する。論理魔術では覆せないほどの確実性に、現実改変もままならないまま、[虚構]ジョークマンは白目を剥いて脳髄に走る衝撃に耐えられず、絶叫する。
「ああ………ああああああ………!!!」
一方的な蹂躙が始まった。虚構之空間は[変形]大凱により与えられていた度重なるダメージにより崩壊し、[蹴術]藍羅の五段蹴り{のうち二発のみ喰らった}[虚構]ジョークマンは、胸板とみぞおちに大きな痣を作って吹き飛ばされる。その背後から何百本もの槍衾が[変形]大凱によって創り出され、[虚構]ジョークマンの体内{のうち内臓以外}を突き破り、身体の節々から鮮血が噴き出される。
「死にたくなければ、闇良の場所を吐いてもらおうか」
「誰がッ……そんな言葉に従うと、ぐぼぁッ!?」
「じゃ、まずは目から蹴り潰していくよ~?どうせ論理魔術で治せるんだし」
[虚構]ジョークマンは[変形]大凱の内部で壁面から競り出すように現れた鎖に繋がれ、[蹴術]藍羅の変幻自在な足技で何度も殴打され、顔中を腫れさせ吐血していた。頭部に繰り返し与えられたダメージにより思考が定まらないまま、[虚構]ジョークマンはどんどん満身創痍になっていった。
「ジョークマン、正直お前こっから逆転の目ないだろ。どのみちお前のことは殺さなければならん。闇良とリヴァの場所さえ吐けば殺してやる。早く楽になれ」
「そうだよー、今なら頭蹴り潰して楽に死なせてあげるよ?」
「ふ、ふふ………闇良は異空間に逃げ込みましたがぁ………私の勝ちの目はまだまだあるんですよぉ………持ち込んだのはダイナマイトだけだと思いましたか?東京ごとブッ壊せる水素爆弾………!!!今からそれを起爆しますよぉっ………!!!」
戦慄が走る。[変形]大凱はハンマー型に身体を競り出させ、[虚構]ジョークマンの頭蓋骨を粉砕しようと思いきり振る{が、ひらりと躱されて命中しなかった}。[蹴術]藍羅の本気の回し蹴りが[虚構]ジョークマンの顎を捉え{そうになったが、間一髪で回避されてしまった}。
「これで……全て終わりですよぉ…………!!!」
[虚構]ジョークマンの傷だらけのピエロメイクが、厭らしく口角を吊り上げて嗤う。
そのとき。
聴くだけで脳に快楽物質が溢れるような、銀光を伴うような女性の美声が、三者の鼓膜を揺らした。
「お待たせ」
瞬間、[変形]大凱の変形が解かれ、[蹴術]藍羅とともに一瞬で全速力で疾走し、距離を取った。突如放置された[虚構]ジョークマンは一瞬呆然としたが、その一瞬が命取りだった。
「"光柱滅却"」
裁きの光が極大の柱となって、天上から降り注いだ。存在ごと滅却され続ける[虚構]ジョークマンは、声なき声で絶叫しながら、降り注ぐ光により溶けるように死んでいった。
「……大凱パパ」
「……なんだ」
「やっぱり……格が違うね」
「そりゃあ、日本最強だからな」
美しい銀髪ウルフヘアーが、サラサラと風に揺れる。モード系の大人びたファッションに身を包み、抜群のプロポーションを惜しげもなく見せつけながら、まるでファッションショーに出るトップモデルかのように美しく歩く彼女は、日本最強の魔術師にして、日本人唯一の京位戦闘魔術師にして、公安第零課総統。
[光]の魔術師、永遠乃流軌だった。
「二人とも、お疲れ様。これでジョークマンは死んだと思うから、闇良くんを助けに行きたいんだけど、どこかな?」
「い、異空間って言ってました………」
「永遠乃さん、俺も行きましょうか」
「いや、いいよ。疲れてるでしょ」
「……では、お言葉に甘えて。ありがとうございます」
にこ、と微笑みかけると同時に、永遠乃が消える。まるで最初からそこに居なかったかのように、ふわりと風を残しながら、姿を眩ませた。
「闇良って子、帰ってくるかな?」
「永遠乃さんが出てきたんだ。確実に帰ってくるさ」
「……流石、最強だね」
[変形]大凱は"戦闘機形態"に変形し、負傷した右脚を引き摺る[蹴術]藍羅を乗せると、崩壊し氷の砂漠と化した原宿を後にして、公安第零課のアジト・零城へと急いだのだった。
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