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02.原宿の乱 (1)次なる前日譚

甲府戦乱があってから一週間経った日のこと。

零城に、爽やかな挨拶が響き渡った。



「おはようございます!!」


[地獄]の魔術師、闇良龍真。『兆位魔術師撃破に何役も買った』という噂とともに入団した彼は、彼自身は自覚していないものの、一躍時の人として注目されていた。



そんな彼はいま、零城3F戦闘フロア内の模擬戦闘場に赴いていた。体育館のようなホールのなかに、様々な戦場が再現されている。また、銃火器を含む武具類や硫酸等の危険物も大量に備蓄されており、ありとあらゆる戦闘を想定して訓練することができる準備が整っていた。



「おはようございます。研究班班長、[論理毒]の魔術師の究田です。本日あなたの戦闘訓練を担当することになりました、よろしくお願いします」


その模擬戦闘場の入り口にて、眼鏡と白衣がよく似合う好青年、[論理毒]究田が[地獄]闇良を出迎える。フチが細いシルバーの眼鏡をくいと持ち上げると、にこりと笑いかける。



「は、班長さん直々に………!!よろしくお願いします!!」

「あはは。そう緊張なさらずに。……貴方の戦闘の様子は、零バッジの映像記録から拝見しました。素晴らしいポテンシャルを秘めていらっしゃるようですね」

「い、いえいえ!!そんなそんな!!」

「……闇良さんは記憶喪失とのことですが、私の見立てが正しければ、貴方はほぼ確実に戦闘経験者ですよ。身体捌きも、刀の取り扱いも、頭の回転も、とても初心者ではない」


一転して鋭い視線を向ける[論理毒]究田であったが、[地獄]闇良が一瞬たじろいだのを見て『しまった』と思い、柔和な雰囲気に切り替え直し、好青年然とした笑顔を再び向けた。



「……ん、失礼しました。分析中の顔が怖いと散々言われているのですが、中々直らなくて……はは。では、戦闘訓練に移ろうと思いますが、その前に、少しだけ説明しなければいけませんね」


ガラガラとホワイトボードを引いてくると、[論理毒]究田は水性ペンを持ち、きゅぽん、という音を立ててフタを取った。



「そもそもですが…闇良さんは戦闘班に配属されます。公安第零課のなかにも五つの組織があることはご存知ですか?」

「いえ…」

「では、お伝えしますね」


[論理毒]究田は水性ペン特有のキュッキュッという音を立てながら、ホワイトボード上に組織図を描き、[地獄]闇良の方へ向き直り、その内容を見せる。



「公安第零課の組織はこんな感じです。今はざっくり押さえてもらえればいいので、詳しいことは公安の仲間たちと関わりながら知っていってください。」



公安第零課 永遠乃総統


・戦闘班(班長:[変形]大凱)

 …戦闘に特化した班。

  領土奪還、国土防衛などを担う。


・復興班(班長:[祝福]灰倉)

 …魔法で文明を発展させる班。

  都市再建、産業振興などを担う。


・研究班(班長:[論理毒]究田)

 …魔法そのものを研究する班。

  新装備や新設備なども開発する。


・諜報班(班長:[蟲]の鏑木)

 …敵対勢力の情報収集をする班。

  外交やプロパガンダも担う。


・事務班(班長:[分身]の西岡)

 …公安第零課の運営をする班。

  採用・経理・国との折衝なども担う。



「す、すみません、写真撮らせてください!」


あまりの情報量に混乱しかけた[地獄]闇良が、スマホを取り出して一枚撮る。[論理毒]究田はニコニコと微笑んで少し脇に逸れると、しばらく彼のことを待った。



「…ということで、闇良さんは戦闘班に配属されます。日本の存亡をかけて戦ってもらうので、強くなっていただく必要があります。そこで、本日は研究班による特別訓練を実施します。厳しく難しい試練ですが、なんとか耐えて頑張ってください」

「が、頑張ります!!」


少し緊張気味の[地獄]闇良のまえで、[論理毒]究田が両手を重ね、一気に開く。すると、文字が浮かび上がり、水面に葉が浮かぶようにゆっくりと離れていく。デモンストレーションの一環として行ったそれを、[地獄]闇良は目を輝かせて魅入った。



「本日の特別訓練のテーマは、『固有魔術のイメージを使いこなす』。私の固有魔術は[論理毒]で、物体に言葉を浸透させることでハッキングするもの。だからこうやって言葉を具現化し、宙に浮かび上がらせることもできます。………そして君の固有魔術は[地獄]です。だから君の目標は、地獄の力を具現化できるようになることです」

「地獄を、具現化…」


[地獄]闇良が瞬きした瞬間のことだった。パチンと指を鳴らすとともに、模擬戦闘場全体が、大量の書物で埋め尽くされた。絵本から分厚い学術書まで、本が海や山のように積まれ、床が見えなくなっている。



「ここに、地獄に関する書籍をありったけ集めました。映像資料もDVDで用意できますし、なんならスマホで動画見ても大丈夫です。まずは、地獄のイメージをとにかく鮮明にしてください。目を瞑っても地獄の隅から隅まで4K以上の高画質で脳内再生できるようにしてください」


[地獄]闇良は、思わず生唾を飲み込んだ。彼はどこにでもいる高校生だ。地獄など、血の池や針の山があることくらいしか知らない。思わず脳裏に地獄の光景を描くが、理想の解像度とは程遠い有様だった。



「さて、ここは模擬戦闘場ですが、僕や沢山の魔術師が強化してますからね。何をしてもOKです。破壊するつもりで、好きなだけ魔術をぶっ放してください」

「えっと……本当にやってもいいんですか?

「ええ、絶対壊せないから大丈夫です。模擬戦闘場(ここ)を壊せるのは、公安のなかでも永遠乃さんくらいですから」


[地獄]闇良はトレーニングウェアの上着を脱いでその辺りに置いておくと、足元の本の海にあった学術書を一冊手に取って、ぱらりと開く。あまりにも難解な内容に、顔を梅干しのようにしかめた。



「本日の最終目標は、環境魔術の習得です。[地獄]の魔術師なら環境魔術も使えるはずですから。正直初心者向けの目標ではない……というか上級者向けの内容ですが、貴方ならチャレンジできると見込んで、高いハードルを設定させてもらいました。成功するまでは何万回でもイメージして、何億回でも挑戦してくださいね。もちろん、成功するまでは帰宅禁止ですよ」

「………はい!」


[論理毒]究田は、きわめて爽やかに微笑んだ。[地獄]闇良は若干頬を引き攣らせつつも、威勢よく返事した。それを見届けると、白衣を翻らせ彼はつかつかと模擬戦闘場の外へ歩いていき、[地獄]闇良の永遠にも思える地獄の訓練が始まったのだった。





「これより、闇良龍真捕獲作戦について説明する」


聖軍本拠地・大阪魔王城にて。冷徹な表情で玉座に座る青年、聖王ブロード=ハルキアが、聖軍幹部二人を招集し、作戦内容を説明していた。



「ガキ一匹捕獲するなど、訳ないな。……なぜ俺たち二人なんだ?」


一人は、水色のマッシュヘア―が目立つ、黒いレザージャケットを着た美男子。[蒼氷]の魔術師、リヴァだった。



「消失マジックかあ~!!宴会で盛り上がりそうな演目だね!!でも、確かに僕らは過剰戦力じゃないかなあ?僕は兆位で、リヴァは京位なわけだしね!」


一人は、ピエロメイクが目立つ、派手なチェック柄のスーツを着た謎の男。[虚構]の魔術師、ジョークマンだった。



「まず、闇良龍真の基本情報を伝えておこう。情報によれば、奴は甲府戦乱のなかで甲府市に突如"出現"した。魔素量は非常に膨大。魔術は刀と炎を使うらしいが、詳細不明。本人も記憶喪失らしく、謎も多い」

「ふむ………確かに不可解な部分は多いな。だが、どれだけ高く見積もっても実力は億位程度だろう?」

「うんうん、全くもってその通りだねえ!レアケースってだけで、僕らが動員される理由にはならない気がするよ」


聖王に対して敬語すらまともに使わない二人であったが、彼はそんなことを気にも留めず、本題を告げた。



「………そして。[液体]ウィリーンとの戦いで"黒炎"を使ったと報告があった」

「………は?」

「………え………えええええええええええええ!!!!」


[蒼氷]リヴァは瞳を大きく見開いて言葉を失い、[虚構]ジョークマンはあからさまなオーバーリアクションをとって転げ落ちる。聖王は彼ら二人の目の前で、一枚の写真を見せ、ぴっと指で弾いて飛ばした。[虚構]ジョークマンが地べたを這いずるようにして写真をキャッチし、それを見る。



「えぇ~~~………!?超普通の男子に見えますけど、こいつが"黒炎"を!?」

「ああ。[料理]ポムフォンテを破ったとの情報も入っている。何がどうなっているのか俺にも分からんが、とにかくこの少年が"ヤツ"と何かしらかの関係性がある可能性もある。コイツを捕らえて………」

「今すぐ出撃する」


[蒼氷]リヴァは、美しい相貌を修羅のように歪め、立ち上がった。



「待て」

「止めないでくれ、聖王」

「待てと言っている。今行っても永遠乃流軌に殺されるだけだ。永遠乃が動けないタイミングで、奇襲攻撃を仕掛けてもらう。これは確定事項だ」


強い言葉が行き交ったのち、天守閣に静寂が訪れる。[蒼氷]リヴァは憤怒と苦痛に顔をこの上なく(しか)めたが、荒い息を少しずつ抑え、ゆっくりと呼吸し、そして……もう一度座り直した。



「というわけで、闇良龍真を捕獲するため、過剰戦力とも言うべき貴様らを動員することにしたのだ」

「永遠乃流軌が出てこないなら、万に一つも負けないとは思うが……作戦の重要度という観点で考えれば、俺たちが出るべきか」

「そうだねえ。とはいえ公安だと大凱や屑鳥は強敵だから、気は抜かないようにしなきゃね。奇襲攻撃で一気に攫ってさよならバイバイ!!って感じが理想かな?」


コミカルなジェスチャーで場を和ませようとする[虚構]ジョークマンであったが、聖王も、[蒼氷]リヴァも、深刻で剣呑とした表情のまま、ただ正面を見据えていた。



「もし"黒炎"を捕らえることができたら………六聖魔の力が再び揃い、聖軍の天下統一は確定的になる。………俺の期待を裏切ってくれるなよ」


聖王の冷徹で残酷な瞳は、凍てつくような視線を二人に注いだ。しかし[虚構]ジョークマンは怯みもせず、道化らしく恭しい礼をして応え、[蒼氷]リヴァも、どこまでも暗く冷たい眼のまま、確固たる意志で頷いた。


お読みいただきありがとうございます。

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ブクマ・感想のほうも、本当に励みになります。

少しでも面白いと思われましたら、ぜひともよろしくお願いします。

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