01.甲府戦乱 (11)歓迎
戦闘が終了してからのこと。
[地獄]闇良は呆けたように座り、
塵芥も残さず消滅した[料理]ポムフォンテの居た場所の目の前で、
ただただ、浮世離れした現実を受け止めきれずに黙りこくっていた。
「闇良!!無事か!!」
「闇良くん!!」
そこへ、物凄い勢いで扉が開け放たれ、
[建築]日向、[重力]沙美誰が入室し、鬼気迫る表情で[地獄]闇良に聞く。
彼は二人に気付くと、困り笑いのような疲れた表情で、ゆっくりと手を挙げて返答した。
「大丈夫だよ………」
「良かったぁ!!本当に死んじゃったかと思ったよぉ!!」
[重力]沙美誰が、呆けている[地獄]闇良に勢いよく飛びつき、
抱き締めてガクガクと上下に揺らしながら、うるうると涙を溜めている。
「………まさか兆位の上級幹部を倒しちまうなんてな」
「………大凱さん」
[変形]大凱も、二人の後ろから現れる。
その真っ黒な目はいつも通り落ち着いたまま、[地獄]闇良を見据えている。
「大凱さんのエネルギー砲がなければ、勝てませんでしたよ」
「……とはいえ、俺を上手く利用できたのはお前だ。
俺は奴の究極魔術により動けなかった。
座りながら砲撃形態に移行して機会を伺ってたが………
よく勝ち筋に気付けたな。正直、お前には才能があると思うぞ」
[変形]大凱の思ったより熱のこもった誉め言葉に、
呆けていた[地獄]闇良も少し恥ずかしそうに頬をかく。
しかし、平和ボケしたような表情の[地獄]闇良に、
[建築]日向はつかつかと近付き、がっしりと両肩を持って怒りを発露した。
「お前、何考えてんだよ!?
あの状況下で自殺するとか意味わかんねえぞ!!
なんだ?生き返ることができる保証があったのか!?」
「え………?
いや、生き返ることができる保証はなかったけど……
あはは、別に僕が死んでも、誰も困らないからさ……」
ぱしっ、と乾いた音が響き渡る。
[建築]日向が[地獄]闇良の右頬を、軽くビンタした音だった。
少しひりひりと痛む肌を撫で、彼は困り笑いをした。
「……なにか気を害したなら、ごめん」
「気を害したら、じゃねーよ!!
仮加入だとしても、お前はもう仲間だろうが!!
お前が死んだら仲間が悲しむなんて当たり前なんだよ!!
殺されるならともかく、ちっせえ都合のために自殺するとか……!!」
「……ごめん、僕にはその感覚が分かんないや」
なおも食い下がらない[地獄]闇良に、
[建築]日向はカッとなって近付こうとしたが、[重力]沙美誰に止められた。
「……闇良くん。
君がさっきウィリーンに殺されたときはね、正直そんなに悲しくなかったんだ。
民間人一人の死なんてありふれた悲劇だし、さんざん目にしてきたから」
「………」
「でも、君はもう私たち公安第零課の一員になった。
仲間だから、君が死んで悲しかったんだと思う。
涙だって出たし、生きててほしかったって思ったし、つらかった」
「………」
「正直ね、自分の価値が分からないってのは私も同じなんだ。
でも、私のこと大事にしてくれる人がいて、
私が死んだら悲しませちゃうって頭で理解してるから、
自分のこと無下に扱わないようにしてるの。
………自己肯定感低い者同士、一緒に自分を大事にするの、頑張ってみない?」
優しい語り口で語られる言葉の端々からは、どこか明るい諦めが感じられた。
先ほど掴みかかった[建築]日向も、少し落ち着いたのか、バツが悪そうに地面を見つめている。
[地獄]闇良は、少しのあいだ項垂れていたが………
困り笑いを浮かべながらゆっくりと顔を上げ、うんと頷いた。
「あー、大事な会話してるとこ申し訳ないんだがな。
まずお前ら怪我してるだろ。とっとと治癒受けてこい」
どこか気まずそうに会話に割り込んだ[変形]大凱は、
三人に順番に目線を合わせながら、腕組みしたまま指示を飛ばす。
[重力]沙美誰が立ち上がり、ブラックホールを形成する。
「それと、たった今、山梨県内の敵主戦力が壊滅できたと確認できた。
これより復興班・研究班の受け入れ作業に入る。
日向も沙美誰もこの作業には参加してもらわないと困るから、
治癒系の魔術師をこっちに呼んで、治癒受け終わったら手伝う形で頼むぞ」
事実上の勝利確定に、三人の顔は一瞬綻ぶが、
まだ拠点構築まで完了していないことを思い出し、全員顔を引き締め、
威勢よく返事を返したあと、それぞれの出来ることを実行し始めた。
*
甲府戦乱は、公安第零課の勝利で終結した。
公安側の被害は軽微。
数名の死者が出たものの、大半の魔術師は治療可能な怪我で済んだ。
一方の聖軍側は、被害甚大。
兆位・上級幹部の[料理]ポムフォンテが戦死したほか、
億位・下級幹部が何名も死亡・重症を負ったうえ、
さらに山梨県全域の支配権も失うという、最悪の結果で終わった。
「おい聞いたか!?公安が勝ったってよ!!」
「しかも大勝だ!!敵主力全滅ってアツすぎねえか!?」
「それだけじゃない。東京が住みやすくなるかもしれん。
関東圏だけだと住宅不足が深刻だったぶん、移住とかすれば過密問題も……」
「馬鹿、それよりも資源問題の解決が先だろうが!!
富士山とか廃墟都市とかあるし、魔術使えば資源抽出とかいけるんじゃね!?」
世間は、快勝のニュースに沸いた。
この一戦によって領土が拡大され、
公安第零課の支配圏は東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・山梨県となった。
東京都は西側面の安全を確保でき、首都東京はますます経済力を取り戻すと予想されたため、
企業活動は活発化し、公安第零課支配下では2025年初の好景気が訪れていた。
*
その日の夜のこと。
「それでは………勝利を祝して、乾杯っ!!!」
「かんぱーい!!!」
東京都某所。
公安第零課アジト・零城では、大会議室に本日参戦したメンバーが一堂に会し、
ジュースやアルコール類が注がれた紙コップを高く掲げ、乾杯していた。
「闇良、お疲れ」
「日向くん!お疲れ様!」
戦闘服から普段着に着替えた二人はばったりと出会う。
グレーのパーカーを着込んだ[建築]日向は、軽く紙コップをぶつけて、コーラを一息に煽る。
白シャツにジャケットを纏う[地獄]闇良は、両手でコップを持ち、烏龍茶をゆっくりと飲む。
「………さっきはビンタしてすまんかった」
「………え!?いや全然いいよ!!
あれもなんていうか、優しさの一種だと思うし、
僕も全然気持ち考えられてなかったし、その」
「俺さ。両親に捨てられてんだわ」
慌ててあたふたする[地獄]闇良を一瞥もせず、
[建築]日向は近くの壁に凭れ掛かるようにして座りながら、
地面の一点を見つめながら、無表情で、しかし無感情には見えない声色で、語り続けた。
「もともと育児放棄気味の家庭だったんだけどさ。
聖軍侵攻のときに、俺も、弟たち妹たちも、自宅に放置してどっか行きやがった。
捨てられたんだ。一番大事なときに、一番危ないときに」
「………日向くん」
「だからさ、俺は絶対誰も見捨てたくないんだよ。
何があっても、どんだけ自分に余裕がなくても、絶対見捨てない。
あんな惨めな思いさせたくない。あんなの……誰も経験すべきじゃない。
だから、お前が自分で自分を捨ててるの見て、許せなかった。
………でも、お前にはお前の人生や考えがあったんだよな。すまんかった」
「………良いんだよ、日向くん」
[地獄]闇良も、[建築]日向の隣に、壁に凭れながら座る。
緊張は解けたようで、どこか晴れやかで人懐っこい顔のまま、
烏龍茶の水面を眺めながら、何でもないことのような口調で、話し始めた。
「僕は記憶喪失で、何があったか覚えてないけど………
でもこんな思考回路してる辺り、あんままともな人生送ってなかったと思うんだよね。
だから、仲間に入れてもらえて、必要としてくれて、嬉しかった。
不器用だし大したことないヤツだけど、仲良くしてくれたら嬉しいな」
「………やっぱバカだよな、お前。
不器用とか大したことないとか、友達に関係ないだろそういうの」
[建築]日向の真っすぐな目に、[地獄]闇良は射貫かれたような感覚に陥る。
あまりにも当たり前のように放たれた『友達』という単語に、胸の奥が温まる感覚がした。
「二人ともおつかれぇ」
「あ、琴音じゃん。
丁度よかったわ、今度こいつの歓迎会代わりに飯行こうぜ」
「え!?」
[重力]沙美誰が、ニットのトップスにジーンズを合わせたラフな格好で現れる。
突然言い渡された歓迎会の話題に驚いている[地獄]闇良の隣に、
彼女もあからさまに神妙そうな面持ちで座り、ジンジャーエールを飲みながら頷く。
「そうですねぇ。歓迎会は絶対開催の掟ですからねぇ。
………私はパスタ食べたいなぁ」
「おけ、適当にアプリで調べとくわ」
「ええ、あ、ありがとう………」
トントン拍子に決まる歓迎会に慌てふためきつつも、
[地獄]闇良は、気付いたときには楽し気に笑っていた。
「闇良、お前なんか食えないものとかある?」
「………っ、ないよ。全然大丈夫」
「あっ。今の完全に苦手なものある間だったよねぇ?
自分大事にする委員会の会長として見過ごせませんなぁ」
「そーだよ。ほら、苦手なもの言え」
「………辛いものと、しょっぱいものと、すっぱいもの」
「めちゃくちゃ広いじゃねーかよ!!」
あはは、と笑い声が三つ、大会議室の隅に沸き起こる。
その日の夜は曇りだったが、彼には頭上が、不思議と星空に見えた。
第一章・甲府戦乱、完結です。
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