01.甲府戦乱 (10)地獄 対 料理
「"黒炎"………生きていたのかあ~………!!」
復活し、自らに斬撃を与えた[地獄]闇良に、
[料理]ポムフォンテは大きく口角を吊り上げて嗤うと、中華包丁を構えた。
「僕と僕の仲間から、離れてください」
「闇良……!!そいつ、兆位で………!!!」
「関係ないですよ」
「んんっ!!私語厳禁だよ~っ!!!」
[料理]ポムフォンテは両手に中華包丁を持ち、魔術を発動する。
魔素が迸った瞬間、[地獄]闇良は壁に叩きつけられ、身動きが取れなくなる。
「"千切り"」
[料理]ポムフォンテによる、目にも留まらぬ斬撃の嵐が繰り広げられた。
[地獄]闇良は刀でそれを受けるが、あまりのスピードに防御が追い付かず、
身体の至る所に切り傷が増えていく感覚に、一抹の焦りを覚える。
「お前はここで死ぬんだよ~!!!」
「残念、そうはいきませんよ」
[地獄]闇良は多少の斬撃を受けることを承知の上で、
ごろごろと転がるように横へ逃れ、[料理]ポムフォンテの左側面へと回り込む。
その瞬間、[料理]ポムフォンテの魔術が解け、空間に満ちた魔素が発散する。
「"千切り"は、"まな板の上の攻撃対象を千回斬りつける"魔術………
[料理]の魔術として解釈するために、
敢えて"壁をまな板とみなし、その上の対象のみを斬りつける"って制限をつけてるの、
もしかして、気付いてたのお~!?」
「勘です」
すぐさま横へ跳んだ[料理]ポムフォンテの手から野菜類が投げつけられる。
嵐の如く降り注ぐそれらを潜り抜けながら、
[地獄]闇良は変則的なステップを踏みながら、刀を構え猛進する。
「異物混入だよ~!!」
野菜類のなかに混入していた幾つもの手榴弾が、カチっと音を鳴らす。
しかし、[地獄]闇良はそれらを即座に刃先で弾き、間一髪で爆風直撃を免れる。
爆ぜる野菜類の破片の嵐のなかを突っ切るように、[地獄]闇良は鉄刀を構える。
「こんなので僕を堕とせると?」
「もちろん、目くらましだよ~!!"串入れ"」
焼き鳥で用いるよりも遥かに長大で鋭利な、数mもの鉄の針が、
[地獄]闇良の頭上に生成され、彼に向かって垂直落下するように放たれる。
いとも簡単に背中から腹へと貫通したそれは、さらに地面に突き刺さった。
「……ごふっ」
「串入れの次は、もちろん炙りですよお!!!」
[料理]ポムフォンテは大きく跳躍して距離を取ると、
[地獄]闇良を貫通した鉄針が突き刺さっている地面から、炎を発生させた。
猛き炎は天井まで届き、まるで火災現場のように轟轟と燃えており、
もはや彼の姿を掻き消すほどにめらめらと強火で燃え盛る。
「同じ魔術でも、魔術強度の差でこうも変わるんだよお~!!
君、アイデア勝負は得意みたいだけど、火力がこんなんじゃ………!!!」
「殺った」
「え?」
[料理]ポムフォンテの背後から、[地獄]闇良が鉄刀を首筋に宛がい、一気に裂いた。
瞬間的に首を基本魔術で強化したおかげで頸動脈には刃が達しなかったものの、
あまりにも想定外すぎる一撃に、[料理]ポムフォンテのペースは完全に崩れた。
「ど……どうやって!!!」
「一瞬で地面を突破して、下層を経由して、この部屋に戻ってきたんですよ。
二回も床を破壊して、地面の揺れも音もあったはずなのに、
こんなにも業炎が激しく・うるさく燃え盛ってるおかげで気付かれませんでしたけどね」
[地獄]闇良は、腹辺りに穴が空いた身体で連撃を加え続ける。
主導権を奪還されないよう、攻撃速度重視のコンパクトな連続攻撃。
鉄刀で何度も斬り、目潰しに炎を吐き、鉄刀を増やして二刀流で斬り………
[料理]ポムフォンテは苦し気な表情で中華包丁を用い、防戦一方のまま防御を続けている。
「でも、魔術が洗練されてなさすぎだよお~……!!
君程度の魔術では、僕の命まで取ることは……!!」
「じゃあ、なぜ防御しているのですか?」
「………ッ!!!!」
「先ほどの僕の攻撃は、いとも簡単に防がれてしまった。
急所を狙った奇襲攻撃なのに。間に合わせの防御で防がれてしまった。
………なのに、あなたは今も必死に僕の攻撃を防御している。
いったい何を警戒しているんです?」
[料理]ポムフォンテの表情に動揺が浮かび上がる。
その隙を、[地獄]闇良の鉄刀が袈裟懸けに切り裂いた。
[料理]ポムフォンテの身体は鋼鉄のように硬く、血の一滴も出なかったが、
彼の瞳は、明らかに浮足立って揺らいでいた。
「(コイツ………激戦のなかでどうしてここまで頭が回る!?
戦闘熟練者か!?明らかにコイツは格下なのに!!
どうして目の前の戦闘以外のことにここまで頭が回る!?)」
「まあいいです。
斬撃でダメージが与えられないなら、こちらも同じ手を使います」
[地獄]闇良が念じると、地面が炎熱で赤く光っていく。
[料理]ポムフォンテは身体を基礎魔術で強化すると、来たる攻撃に備える。
「馬鹿だねえ~………!!
基礎魔術による身体強化には、斬撃・打撃等の衝撃への耐性だけでなく、
炎熱、過冷却、電撃、毒物などの状態異常への耐性も向上する!!
格上の私の本気の基礎魔術に、貴方ごときの炎が太刀打ちできるわけがな~い!!」
[料理]ポムフォンテは高笑いをなんとか抑えながら、
基礎魔術のための魔素を全身に循環させ、じわじわと身体に炎熱耐性を付与していく。
「十文字ッ!!!」
「あはははは!!!効かない効かない!!!全く効かないよっ!!!」
「円形っ!!!」
「十字型の周りに円形ぃ!?そんなことしなくても逃げないよっ!!
こんな炎熱、幾らでも耐えられ…………」
その瞬間。
極大のエネルギー砲が、[料理]ポムフォンテの頭上から放たれた。
「………え?」
「チェックメイトです」
[料理]ポムフォンテは、目撃する。
目の前の[地獄]闇良が、薄く笑っていることを。
[料理]ポムフォンテは、理解する。
目の前の[地獄]闇良が、狙っていたことを。
丸と十字……すなわち、銃のスコープなどに用いられる照準のマーク。
[地獄]闇良は炎で照準マークをつくることで、何者かに敵の位置を示したのだ。
そして、先ほどから居なくなっている二人。
[建築]日向と[重力]沙美誰は、一体どこへ行ったのか。
さらに、上方向から放たれた、あまりにも高火力の攻撃。
こんなものを撃てるのは、公安のなかでもごく一部………
「[変形]の魔術師が、最上階から撃ってきたのかあっ………!!!」
「僕の攻撃で倒せない以上、大凱さんの攻撃で倒すしかない。
きっとそれは二人も分かっていたはず。
だから二人が大凱さんに助けを求めに行くと信じて、こうしたんです」
「あ………あがああああああああああ!!!」
[料理]ポムフォンテの意識は、炎熱の発生する下方向に向いていた。
基礎魔術による防御も『下からの攻撃』に対して行われていた。
だからこそ、上から来た渾身の一撃は、[料理]ポムフォンテをいとも容易く貫いた。
降り注がれ続ける極大のエネルギー砲に、[料理]ポムフォンテは滅却されていく。
輪郭すら失い、身動ぎすらできないまま、ただ絶叫し続ける。
「あああああああああああああああああ!!!!!
俺はああああああ!!!!上級幹部だぞおああああああ!!!!!
お前………ごどぎにいいいいいい!!!!」
「さよなら」
ぷつんと糸が切れるように声が途絶え、
[料理]ポムフォンテは絶大な勢いで降り注ぐ破滅の柱のなかで、息絶えた。
[地獄]闇良龍真は、勝利した。
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