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異世界転移を望む私と異界の女神、意図せぬざまぁ

作者: 薪(元のアカウント紛失)

つい先程まで、私は世界で一番幸せな人間でした。


特にこれといった特技があるわけでもなく、名ばかり管理職としてブラックな労働環境で働く日々。貯金はわずかづつしか貯まらず、友人もおらず、親兄弟も幼い頃に亡くし。

それでも私は最高に幸せでした。


素敵な彼氏がいたからです。


彼氏は職場の社長の息子さんで、懸命に働いているところを見初めてくれました。口説かれ、職場に内緒にして付き合うことになって2ヶ月。あれよあれよと私が暮らすマンションの一室に入り浸り、このまま結婚しようと言ってくれていました。


それが…

「やっぱりオマエと結婚はできないわ」


今日も終わらない仕事を無理やり切り上げ、なんとか同じ時間に帰って冷蔵庫から作り置きのおかずを並べていると、急に彼氏からそんなことを言われました。


「ど、どうして?」

食事に嫌いなものでも入ってた?元から感情の激しい人だけど、急にそんなこと言うなんて。


「オマエさ、手料理って言ってレトルトばっか並べてるだろ?さっきから電子レンジの音しかしないし」 


誤解です!作り置きではありますが、貴重な休みの日に遠くまで買い物をしていい材料を買い、きちんと下ごしらえして作っておいた料理です。小分けして冷凍してあったからそう思われたのかもしれないですが、買ってきたものなら綺麗なパッケージに入っているからわかるはずなのに!


「そんな」

「それにな!」

説明をしようとしても、彼氏は聞いてくれません。


「オマエ、果物を包丁でむかないだろ?」

「え、ええ…ピーラーを使いますけど」

包丁でむくより薄く早くむけるから、りんごや梨や柿まで、むけるものは人参の皮むきと同じ道具を使います。


「包丁も満足に使えないやつがこんなうまい料理作れないことくらいすぐわかる」

「い、いえ、早い手段を使ってるだけで包丁が使えないわけじゃ」

「とにかく、オマエとはもうやっていけない。別れよう。荷物全部持ってくわ。」

大きな旅行カバンを持ってきていると思ったら、部屋にある着替えやゲームを持ち帰るためだったんだ…


「ちょ、」

あまりにも突然の話で何を話せばいいかわからないでいるうちに、彼氏…いえ、元彼氏さんは部屋から出ていってしまいました。


「そんな…」



それからのことは、しばらく記憶にありません。

泣いて、泣いて、泣いて。


気がついたら、隣になんだか綺麗なお姉さんがいて、話を聞いてくれていました。


「ぞれで、職場の中でも秘密って言っでだけど公然の秘密みたいになっちゃっでで」

「うんうん」

「結婚ずるっでばなじも、秘密だって言いながら話しちゃっで」

「そっかぁ」

「わだじ…もうこの世界で生きてくのやだ!異世界で1からやり直せたらいいのに!!」

「その言葉を待ってたわ!」


突然の歓声に、ちょっと正気が戻ります。

「お姉さん、誰!!??」

私の部屋に、誰かがいます!


「あ、私?異世界で女神やってまーす」

にっこりと笑うお姉さん。

「は!?」

泣きすぎて幻覚と幻聴があるのかもしれません。

状況が掴めない私に、お姉さんは話し続けます。


「ちょっと聖女をやってくれる人を探しててね。年をとっても若見えする、背の低めな人種ってことでこの国の中で、異世界に来てくれそうな人を探してたんだ」

聖女。異世界もののお約束では、イケニエか乙女ゲームの悪役ですね?

「鋭い!そうそう、かっこいい男性のうち一人を選んで勇者にするって立場よ!戦う必要はないし、候補者みんなにチヤホヤしてもらえるわよ」

「うわぁ、なります!」


今で泣いていた反動で笑えてきました。

幻覚と会話してるよ今!

そこで見る願望が、異世界でチヤホヤされたいとかまだ厨二病か私!


「よし、決まりね!じゃあ、どういう能力がほしい?」

「料理!包丁一本で何でも作れるような!あ、でも調味料とかも欲しいし、保存したりもしたいし」

つい言ってしまったのは、さっき皮をピーラーでむくのを否定されたからでしょうか。


「んー、じゃあイメージしてね」

女神様の言葉に、私の厨二病が火をふきます。


スキル名は『キッチン』で、出せるものはこのキッチンにあるもの一式。調味料は使ってもなくならず、包丁で何でも料理できるけどまな板は切れない。水も自由に出せて、でもお皿洗いはしなくても置いておくだけでピカピカ。いつかはドラゴンも食べてみたい。


「んん?なんか複雑っぽいけど、まぁいっか!とりあえずイメージした感じで、あとは作った料理を食べたら浄化とか回復とかできる感じにしておくから!」

さすが幻覚。望みが全部叶うとか。


「じゃあ、よろしくね!」

笑顔のお姉さんに手を振られ、気がついたら私は何も持たずに森にいました。

……あれ?カギや鞄どころか、靴すら履いてないんだけど?ていうか本物?




そうして、私の異世界生活が始まりました。




ざまぁ要素は?って?

私を振った元彼だけどさ。

マンションの一室から、靴も履かずに行方不明。

部屋には2人前の料理が手つかずであり、鍵もお財布も部屋の中。

直前に大きな旅行カバンを持って出た男。

職場で親しくしていた同僚には、結婚を前提に付き合ってると話してた。


これって、絶対に疑われるよね、邪魔になった彼女を殺して運んだって。

そして、疑いを完全にはらす手段ってないの。

マンション入り口のカメラを見れば、私が部屋に入ったまま出ていないことがはっきりとわかるし、まさか異世界転移したなんて考えもしないでしょ?マンション内で交流もなかったし、マンション入り口を通過した中で私と関わりがあるのは元彼だけ。



おまけに、捜査が入れば、私の日記からブラックな働き方も公になるかも。そうしたら会社ごと…なんてね。元々、社長の息子が殺人疑惑って時点でピンチだろうけど。


まぁ、もう関係ない世界の話だし!

吹っ切れてから思い出したら、元彼にも会社にもいいように利用されてたとしか思えないから、同情はしない。


女神様。あの時泣き言を聞いてくれたお姉さん。私をこの世界に連れてきてくれてありがとう!

元々書いていたアカウントの、パスワードも紐づけていたメールアドレスもわからなくなり1から出直しです。

読んでくださりありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] オチが重要なんですね、分かります(笑) それはそれとして、どうせ結婚したらもっと悲惨な目に遭ってるだろうし、振ってくれたのは別にそれで良かったと思う。 そんなブラック会社にいても身体壊すだけ…
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