表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/37

目指せ婚約破棄(5)


 入学パーティーではシベリウス殿下に地味に嫌な印象を残せたと思う。これに引き続いてどんどんやっていこうと思っていたのだが、いかんせん、学年が違うと接点がない。

 顔を合わせることはあるが、お互いに授業もあるので挨拶くらいしかしなかった。


 これでは婚約破棄が遠のくばかりなので、もっと大がかりに悪女アピールをしなくては。

 人伝で私が嫌な奴だと聞けば、婚約者としてふさわしくないと考えるだろう。

 そう思って、自分なりにいろいろやったつもりだった。


 けれど、こんなに頑張って悪女になっているはずなのに、全然手応えがない。これではシベリウス殿下もなかなか婚約破棄を言い出すはずがない。困ってしまい頭を抱える。八方塞がりだ。


 もうお手上げだと、イリーナに相談することにした。




「イリーナ、率直に聞きたいのだけど、私、悪女になれてるかしら?」


 ぶっふぉ!とイリーナが飲んでいたお茶を吹き出した。ゴホゴホと咳き込んでいるので、そっと背中を撫でてあげつつ、はたと気付く。



「イリーナ、それはお手本にせよということね。確かに目の前でされたらあまり気分は良くないわ。どのタイミングでお茶を吹き出したら良いかしら」

「ち、違うから、ユスティーナ! これは単純に驚いて咳き込んでしまっただけで、むしろお手本にされそうなことに私は少々心の痛手を負っているわ……」


 イリーナがしゅんとしながらハンカチで口元を押さえている。



「でも、私は悪女になって、シベリウス殿下から疎まれたいの」

「えー、もうはっきり言っちゃってるよ、この子……。ちなみにユスティーナはどんなことやってみたの?」

「パーティーで地味なドレスを着て、疲れたと言って勝手に帰ってみた」

「……そ、そう。でも、その程度で疎むような方ではないわね、おそらく」

「えぇ、その通り。少し苦言を頂いただけで、その後の態度に変化はなかったわ」


 冷静に考えれば、後で私のドレスを着たソネットが発表をしただろうから、サリュ殿下かエリサ様からドレスを交換したことは聞いてしまったかもしれない。

 それに、殿下は基本的には善人だ。体調が優れないのに無理をして参加しろなんていう人でもないし。



「そのほかは?」

「シベリウス殿下とは学園内であまり接点がないので、嫌な奴だと噂になろうと思って。図書館で姦しくしゃべっていた女子生徒達に『ここは子供の遊び場じゃないのよ。黙りなさい』と嫌みったらしく言ってみたわ」


 私は元気よく答える。


「……ふ、ふーん。反応はどうだったの?」

「何故か周りで静かに本を読んでいた人達に頭を下げられたし、言った子達にも普通に謝られた」

「なるほど。ほかには?」


 イリーナがこめかみに手を当てながら、何だか疲れた様子で聞いてくる。



「伯爵令嬢がソネットにお茶を掛けている場面に遭遇したの。これは嫌がらせのお手本だと思って、『あーら、手が滑ってしまいましたわ』と伯爵令嬢にお茶をぶっかけてみたわ」

「ほ、ほお。その意図は?」


 はて、と首を傾げる


「意図? 意図も何も伯爵令嬢に嫌がらせしたのよ。ソネットにお茶をかけたのだから、自分たちもかけられて当然でしょ」

「……ふ、ふーん。それで周りの反応は?」

「見ていた人達に拍手された」

「でしょうね!」


 イリーナが鼻息荒く叫んだ。



「どうしたの、イリーナ。落ち着いて」

「いやもう、無理よ。ユスティーナが悪女になるのなんて、絶対に無理。基本的に意地悪とか向いてない」

「なんでよ、人にお茶をかけるなんてすごい嫌がらせじゃない。私、初めてお茶をかけたけど手が震えたわ」

「だから、手が震えてるじゃん。全然意地悪しなれてないじゃん。慣れないことはやめなって。聞いててこっちが居たたまれない」


 まさかイリーナが頭を抱えるほど、私のやっていることは的外れなのか。

 いろいろ思いつくことをしてみたけれど、何も変わった気がしなかったのは錯覚ではなかったらしい。


 イリーナに現実を突きつけられて、愕然としてしまう。



「改めてはっきり言うわ。ユスティーナは嫌な人になるのは無理です!」

「そ、そんなことないわ。極悪の嫌われ者の悪女になって、さっさと殿下から願い下げてもらわなくちゃ」

「ユスティーナとは真逆の存在になるだなんて、どうして? 私達親友よね、何か困ってるならちゃんと話して」


 イリーナが私の手をきゅっと上から握ってきた。その温かみにじんわりと涙がにじんできてしまう。


 魔物に殺される未来から逃れようと一人で頑張ってきたけれど、正直進展しなさすぎて心が折れそうだった。イリーナに頼っても良いのだろうか。3年後から戻ってきたなんて荒唐無稽な話、信じてくれるだろうか。


 シベリウス殿下とエリサ様が学園内で一緒にいる姿を、最近になってたびたび目撃している。シベリウス殿下は真面目な方だから、簡単にはご自分の心を認めないかもしれない。だけど、殿下の心がエリサ様に移りつつあるのは確実だろう。


 つまり、魔物に殺される未来は確実に近づいている。




「イリーナ、実は――――」






 私は三年後に起こった駆け落ち事件と、それに伴って追放された辺境の地での死を話した。すると、イリーナは驚いた表情を浮かべたが、なんと信じてくれたのだ。


 親友よ……持つべきものは浮気婚約者ではなくあなただった!



「まぁ確かにユスティーナはどちらかというと元気いっぱいな愛玩動物系、かたやエリサ様は儚げ美人系……殿方が守ってあげたくなるのは後者が多いでしょうねぇ」


 うんうんと、イリーナは納得したように頷いている。


「愛玩動物系?」

「そう。ユスティーナは元気いっぱいな子犬系ね」

「それは……喜んで良いことなの?」

「うーん、癒やされたい人にはもってこいだろうけど、自尊心を満たしたいタイプの殿方は『自分が守ってあげないとこの人は立っていられない』と思わせる儚げな方が……ごほん、もうはっきり言うわね。シベリウス殿下は完璧に自尊心を満たしたいタイプだと思うわ」


 イリーナ、急に開き直ったかのように直球で言ってくれるではないか。


 けれど、確かにそうかもしれない。私はシベリウス殿下と共に立つ存在にならなければと思っていたから、助けてもらおうとか守ってもらおうなんて思ったこともないし。そのあたりに、浮気をされた要因があるのだろうか。だが、次代の王妃として守ってもらう前提ではいけないと思うのだが。


 でもまぁ、もう知ったことではない。今更シベリウス殿下好みになろうという気も起こらないし。逆に私が好みのタイプでないのなら、余計に婚約破棄したいという気持ちが膨れ上がるだけだ。



「ではユスティーナ、本気でシベリウス殿下との婚約を破棄したいのね」

「えぇ、もちろん。でも、どうしたら穏便に婚約破棄できるかしら」

「……(婚約破棄の時点で穏便さのかけらもないんだけど、このあたりに気がつかないのが天然のユスティーナらしいわ)……ゴホン、では浮気の証拠を見つけて、シベリウス殿下に婚約破棄しないと国王様や王妃様に言いつけますよって脅すとか」


 何やらごにょごにょと前半言っていたのが気になるが、まあいい。それより提案内容の方が重要だ。


「なるほど。向こうが悪いという証拠があるから、シベリウス殿下も強気に出られないものね。良い手だわ。さっそく証拠をつかみに行ってくる!」

「あ、待って。一人では心配だから私も連れて…………行ってしまったわ」



 新たな道筋が見えたことが嬉しくて、私はよく二人を見かける中庭へと走り出す。後ろのほうでイリーナが何やら言っているけれど、きっと私に対する激励に違いない。


 ありがとう、友よ。

 私は華麗かつ穏便に婚約破棄をやり遂げます!




投稿1日目でしたが、さっそくブックマークしてくださった方もいてとても嬉しいです。

ありがとうございます。

明日以降も更新していきますので宜しくお願いします!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『死にたくないので婚約破棄を所望します 四度目の人生、ヤンデレ王子に偏愛されてしまいました』
と改題しまして、シェリーLoveノベルズ様より電子書籍化しました!
現在ピッコマ様にて先行配信中です。
https://piccoma.com/web/product/161655?etype=episode

書籍化にあたり、より読みやすく楽しんでいただけるように改稿もしましたので、
読んでいただいた方にも満足していただけると思います。
また、唯奈先生に素敵なカバーを描いていただきました。
ユスティーナの困り顔がキュートで、サリュ殿下のちょっと意地悪そうな笑みが最高なんです。
是非ともサイトを覗いてみてください!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ