三回目の人生(1)
サリュ殿下に剣で殺されたと思ったが、またしても私は15歳に戻っていた。そう、入学式の日だ。
頭の中は疑問でいっぱいだったけれど、ひとまず私は生きているらしい。
とりあえずは状況把握が最優先だと思い、前回同様、入学式に向かうことにした。
さすがに入学式も三回目ともなると、学長先生や来賓の方々の話が辛い。同じ話なうえ長いので、眠りに導かれそうになってしまう。それでもなんとか耐えて、入学式は終了した。
今までのところ、前と違う出来事は起こっていないので、やはりまた戻ってきているのは確かなようだ。
となれば、今度こそちゃんと生き延びられるようにしなければ。どんなからくりで戻ってこられたのかは分からないけれど、そう何回も戻って来られるとは限らないし、そもそももう死にたくない。あんな怖い思いはたくさんだ。
前回の反省を生かし、私はもう最初からイリーナに助けを求めることにした。イリーナは私が一度死んでまた15歳に戻ってきた話を信じてくれたから。
「――――ということなの」
「にわかには信じがたい話ね……」
入学式後にイリーナを裏門のもみの木の下に連れてきて、今までのことを打ち明けた。
イリーナは腕を組んで考え込んでいる。
前回は私がいつもと違う行動(悪女になるとか)していたのを見ていたから、信じてくれたのかもしれない。早まってしまっただろうか。
「ユスティーナは死んだら入学式の日に戻る、まるでループしているみたい」
「え、えぇ。確かにぐるぐると回っていてもう三回目よ」
「となると、前と同じことをしていたらダメってことね」
あれ、普通に話が進んでいる。
私は思わずイリーナの手を取った。
「イリーナ、私が戻ってきたって信じてくれるの?」
「ユスティーナは死んだとか不謹慎な嘘はつかないから。親友だもの、それくらい分かるわ」
当然でしょとばかりに返され、嬉しさで胸がいっぱいになってしまう。
「イリーナ! 大好き!」
思わず抱きつくと、よしよしと頭を撫でられた。
やはり持つべきものは親友だ。間違っても闇落ち王子でも浮気王子でもない。
「それで、今後の対策よね。一回目はシベリウス殿下とエリサ様が駆け落ちしたら、サリュ殿下が闇落ちしてユスティーナを辺境の地へ追放したのよね」
「うん」
「二回目は駆け落ちしないように、さっさと婚約破棄をした。だけどサリュ殿下から婚約を申し込まれて断ったら逆ギレされた」
「うん」
「ね、多分ユスティーナも気付いているとは思うけど、あなたサリュ殿下にすごい執着されてるんじゃない?」
「やっぱり、イリーナもそう思う?」
私の思い込みじゃなかったのだ。死の間際にサリュ殿下が私のことを驚愕するほど好きなのではと思ったのは。
婚約を申し込まれたときは、もっと軽い感じだと思っていたのだ。恋までいかないけれど、でも私のことは気に入っている。婚約者がいないと周りもうるさいし、ちょうどいいだろう的な感じだと。
「そもそも一回目のときもさ、シベリウス殿下達が駆け落ちしていなくなったのに、ユスティーナがサリュ殿下の方を見なかったから闇落ちしたんじゃないの?」
イリーナが眉間にしわを寄せながら言ってきた。
そうか。私はシベリウス殿下が駆け落ちしてしまったことがショックすぎて、呆然としていた。サリュ殿下が面会に来たことはおぼろげに覚えているけれど、何を言われたかなんて全く頭に残っていない。
もしサリュ殿下が私のことをもの凄く好いていたとして、そのために婚約しているシベリウス殿下が邪魔で駆け落ちさせたんだとしたら話のつじつまは合う。シベリウス殿下の排除は上手くいったのに、肝心の私がサリュ殿下に見向きもしなかったから怒って追放してきたのだ。
「確かに、二回目のときもサリュ殿下の申し出を断ったら、『手に入らないくらいだったらもういっそのこと……』って言ってたもの」
「なにそれ、闇が深いわ。自分のものにならないくらいなら殺すってこと? きっとあれね、他の人に取られたくないって思考ね」
なんだそれ、すさまじい独占欲ではないか。
思わず背筋に冷や汗がつうっと流れた。
いったい、いつサリュ殿下の心を掴んでしまったのだろうか。私にはまったく思い当たることがないのに。
「イリーナ、どうしたらいい?」
「とにかくサリュ殿下には近寄ったらダメよ。いつユスティーナのことを好きになったのかは分からないけれど、今の段階では挨拶くらいの関係でしょ?」
「えぇ、一回目はずっと挨拶程度の仲で、二回目も話すようになったのは入学式の翌日からよ」
「よかった。なら極力、サリュ殿下に対しては一回目と同じように過ごして、なるべく疎遠なままで行きましょう」
大賛成だ。そもそも二度も死に追いやられているので、怖くて近寄りたくないけれど。
「あとはシベリウス殿下達のことだけど……」
私はため息交じりに言う。
二回目は駆け落ちさせないために婚約破棄してもらった。でも、結果的に私はサリュ殿下に殺されているから、婚約破棄に意味があったかどうか不明だ。かといって、婚約破棄しないままだと一回目をなぞるだけになりはしないだろうか。
「シベリウス殿下とエリサ様が接近するのを邪魔すればいいんじゃない? サリュ殿下が二人をそそのかしたんでしょ?」
「それも一理あるんだけど……。サリュ殿下がね、二人が近づくきっかけしか作ってないんだって言ってた」
「どういうこと?」
「サリュ殿下があれこれしなくても、二人は恋に落ちたってこと」
ずんっと気分が重くなる。
私は二人のお邪魔虫なわけだ。馬に蹴られてなんとやらだ。好きでもない浮気王子と結婚するために私は頑張るのか?
「イリーナ、やはり婚約破棄はしてもらおうと思う。その上で、サリュ殿下には近づかない方向で行くわ」
同じ間違いはしない。
私は闇落ち王子とも、浮気王子とも縁を切る!
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サリュ殿下に近寄らないために、私は二回目のことを思い返して慎重に過ごすようになった。
彼と話すようになったのは、私がシベリウス殿下に身だしなみの件でたしなめられていたことがきっかけだ。シベリウス殿下に婚約破棄して欲しくてやっていたことだったが、あまり効果はなかったので、今回は身だしなみはばっちり整えて行くことにした。すると、サリュ殿下は話しかけてこなかった。
そして、新入生歓迎パーティーではシベリウス殿下に無理を言って、早めに会場入りしてもらうようにお願いをした。これで会場内でサリュ殿下と話すこともなかった。
ちなみに会場内でソネットが転んでドレスの袖を破くといけないので、念のため、ソネット用のドレスも持参してみた。すると、案の定、ソネットが転んでいたので、イリーナに頼んで持参のドレスを渡したりした。
そして、入学して一ヶ月。私はサリュ殿下と交流を持つことなく過ごせている。なんとなくサリュ殿下がこちらを見ているような視線を感じることもあるのだが……。勘違い、あるいは気のせいであってほしい。




