芋拾い
まるで芋を洗うような光景と聞いたとおりだった。花火より地上の有象無象を眺める方がおもしろいと最初は思ったが、すぐに飽きた。心ここにあらずと言わんばかりに身体から抜け出しかけている芋どもをいくつか引っこ抜いてやってもいい、が。
喧噪から離れた一角にも実を見つけた。今にも消えそうな実の近くに寄れば、なるほど身体は汚れたベランダに横たわっていた。
「パパとママは?」
実は弱々しく「ママ」とつぶやき真っ暗な室内を差す。
「お父さんは?」
実は、首を振った。
「お父さん、いや。パパがいい」
「そう。じゃあ」
続きを言う間もなく茎は千切れて霧散する。
掌に収まった芋を愛おしそうに見つめたあと、空へと戻った。
第八十八回300字SS、お題は「洗う」でした。